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国士舘大学 戸田容弘・臼田正利

統一論題    公益法人の課題と21世紀への期待
 1 ミッションベイスト・マネジメント
 2 独立行政法人の創設について
 3 公益活動における継続事業の概念
 4 非営利組織の評価の課題

第3回大会記

1999.10.2 国士舘大学

 1999年10月2日(土)、午前10時から公益法人研究学会第3回全国大会が国士舘大学・世田谷キャンパスにおいて開催された。80数名の参加者を得、活発な報告と討論が展開され、最後に懇親会を経て閉会した。
 本大会の統一論題は「公益法人の課題と21世紀への期待—公益活動におけるミッションを巡る諸問題—」であり、司会・座長=堀田和宏氏(近畿大学)のもとに4題の研究報告並びに討論が行われた。
 自由論題報告は2つの会場に分かれて行われた。A会場では、永島公朗氏(日本大学)の司会のもと、若林茂信氏(公認会計士)「公益法人会計にも国際化の洗礼を」、立岡 浩氏(広島国際大学)「NPO及び組織間関係NPOにおけるマネジメント研究」、B会場では、竹内 拓氏(産能短期大学)の司会のもと、高橋選哉氏(青山学院大学)「NPO法人税制の現状と課題」、樽見弘紀氏(北海学園大学) 「共同募金システムの中心課題〜米国ユナイテッド・ウェイの<ドナー・チョイス>をめぐって〜」の計4題の報告が行われた。
 記念講演として、本会会長の守永誠治氏(静岡産業大学)に「大航海時代より大公開時代へ」を講演していただいた。大公開時代に備えて今後の公益法人の発展のためには、本公益法人研究学会の研究とその実務への適用が期待される。
 統一論題の報告要旨及び討論は以下のとおりである。
 なお、以下の報告要旨のまとめについては、国士舘大学の戸田容弘氏及び臼田正利氏によるものである。

1 ミッションベイスト・マネジメント
  報告:島田 恒氏(龍谷大学)

 公益法人の存在と活動の本質はそのミッションであり、またその組織発展の原理もミッションに根ざすものである。 したがって、公益法人は、自らの卓越した意図をミッションに表現し、それを成果に獲得して「もう一つの社会」に貢献していく。
 20世紀「産業社会」を歴史的に掘り下げ、その発展と限界をDruckerやSimonの所説を説明しながら、自由主義産業社会では、産業の発展、経済の発展は人々に物的豊かさをもたらしはしたが、政治は経済発展を優先し、文化価値が経済的交換価値で値踏みされ、教育は偏差値序列で評価され、「あまりにも経済」という病理を社会にもたらした、と指摘する。そこで、非営利組織の存在の座標を、効率性や公平性・画一性原理ではなく、人間性・市民性・社会性の原理に基づかせ、非常利組織の存在の意義を確保している。
 本来ミッションとは、人間を変え社会を変えていくキリスト教の根源的使命を表現する言葉であり、島田氏が関係する日本キリスト教海外医療協力会や(財)アジア保健研修財団のミッションの実践を通して、 独自性と多様性のある非営利組織の第3セクターとして存在感を深めている実証を示した。
 それには、絶えす、ミッションを見直し、問い直し、金ではなく、人による協力、 草の根の協力に徹することを確認した。それを支えるものがボランティアとスタッフ、ボラン夕リズムの重要性であり、その源泉はミッションに対する共鳴にほかならない、と指摘している。

2 独立行政法人の創設について
  報告:岡本義朗氏(中央省庁等改革推進本部)

 平成11年4月27日、「中央省庁等改革推進に関する方針」が中央省庁等改革推進本部(全閣僚により構成)で決定された。それに基づき、独立行政法人(独法と略称)制度が設けられ、その基本となる共通法律事項は、独立行政法人通則法に規定され、本年7月8日国会で成立した。この独法制度の特徴は、第一に、国の事務・事業の実施部門を国家行政組織から独立させた。第二に、国の事務・事業の実施部門に対して、民間の企業経営における長所をとりいれた(独法の特性に応じた形での企業会計原則の導入、自己責任に基づく業務運営の目玉としての評価システムの導入)制度設計である。
 この独法には、本来的に追求すべき3つの価値(公共性、自主性、透明性)がある。つまり、公共上の見地から確実に実施され、適性・効率的に運営され、運営の自主性は十分に配慮され、その業務内容を公表して組織及び運営の状況を国民に明らかにすることである。そのため、独法の制度には、①業務運営では、自己責任、目標管理、事後評価(客観性の確保)を導入、②人事管理システムでは、業績給与の導入、役員の公募制、解任の仕組み等を導入、③アカウンタビリティとディスクロージャーの仕組みでは、広範かつ徹底したディスクロージャーのもとに、独法の業務内容、業績、評価等に関する広範な事項を国民に公表する、㈬財務会計制度(国からの予算措置、弾力的な執行、企業会計原則の導入等)により、発生主義の考え方や、複式簿記に従った会計処理が行われ、財務諸表として貸借対照表、損益計算書が作成される。また、その適正性、客観性を担保するため、原則として会計監査人の監査を義務づけた。
 企業会計原則導入に伴う主要論点として、①アカウンタビリティの確保、㈪業績評価の観点、課題として、(ア)企業会計における収益と費用の関係、(イ)資本と利益の区別の原則には、独法の制度上の特性に応じて必要な修正を加えて理解する。 特に、運営費交付金、施設費、減価償却の取扱い及び独法の損益計算について、 現時点での意義をこの制度の設定主体者側の立場から論じ、報告している。

3 公益活動における継続事業の概念
  報告:小宮 徹氏(公認会計士)

 公益事業体は、設立目的そのものが公益的貢献であり使命であるので、社会ニーズに可能な限り応えていくことが公益活動の命題であり、継続事業の存続要件である。
 ゴーイング・コンサーンとしての公益事業体は、公益活動を維持・遂行するため収入と支出を伴う。収支の均衡・不均衡は事業体の財産状態に影替を与える。財政的基盤としての純財産(正味財産)は公益活動に必要であり、その適正水準は保持されなければならない。公益事業体は収入面に制約があり、支出面が優先されるので、企業経営よりさらに厳しいチェックアンドバランスの管理手法が適用されるべきであろう。
 「公益法人会計基準」では、貸借対照表の作成は取得原価主義に拠るべきことを定めているが、過去の記録である取得原価によって作成される貸借対照表にはその情報的価値に限界がある。公益法人会計でも、貸借対照表は時価主義によって作成することが望ましい。
 公益法人の内部留保の計算方式は、総資産から公益法人に必須の財産と純負債(引当資産を控除した後の)を差し引く方式であり、合理的である。
 財政安定のため支出は収入の範囲にとどめ、特に長期収入と長期支出の均衡を図る。正味財産の増減は長期財政収支の均衡を示す。長期事業計画に基づき長期予算を編成し財政収支の行先を見通し、採算性の維続的維持を図る。長期予算編成には、予算による計数管埋が不可欠で、①長期事業方針、②収入予測、③資金調達計画が特に重要でめる。
 公益活動の成果は、公益事業体が提供するサービスとして、その受益者等の利害関係者から評価される。しかし、その質的成果や量的評価は難しい。公益活動の社会的貢献の尺度を計測可能な財務的数値に求めるとすれば、その成果は、資金を如何に効果的に公益活動に投下したかで評価され得る。資金財源の調達、公益活動のコストの負担も評価の一面である。
 それらの社会的評価のもとで、公益事業体は、ゴーイング・コンサーンとして支持を得、存続する、と指摘している。

4 非営利組織の評価の課題
  報告:石崎忠司氏(中央大学)

 非営利組織の評価は財政の評価だけでは不十分である。多面的な評価判断が必要である。非営利組織の評価を営利組織の評価との比較によって検討している。
1 非営利組繊のミッションと経済合理性の両立
 組織目的・形態からみた不経済性では、経済合理性、コスト、品質、時間を戦略要因と認識した経営戦略をとっているか。経済合理性が組織の存続を左右し、組織存続のためには戦略が重要である。
2 非営利組織の評価体系
 営利企業の業績評価が多元化しており、この背景が非営利組織の評価にも影響を与えている。その評価体系には、㈰「成果評価」=ミッションの達成度の評価、㈪「組織評価」=組織の多面的な総合評価、を指摘する。「成果評価」としての有効性、公益性、経済性の評価では、「公益性の良否は有効性の良否を左右する」、「有効性の良否は経済性の良否を左右する」、「経済性の良否は公益性を左右する」という関係にある。
3 有効性(ミッションの達成度)の評価方法——成果評価
 資金が拠出されている場合にはガバナンスが生じる。ミッションの成果の要因分析においては、①ミッションの妥当性、②顧客ニーズの把握の妥当性、③ミッション遂行計画の妥当性を挙げている。
4 公益性(ミッションの戦略・計画)評価方法
5 経済性(資金の制約)の評価方法
 非営利組織の会計制度の体系化が進んでいないため、経済効率の評価、財務安全性の評価、組織間比較に困難性がある。
6 非営利組織の組織評価
 複数の指標による総合評価=効果性、公益性、経済性をまとめた多様な総合評価の必要性を指摘している。
 また、評価の課題として、情報の公開、第三者機関による評価、評価指標の開発と標準値の算定・公開、社会性、環境パフォーマンスの評価方法の確立など多様な課題を指摘している。

 討論会では座長:堀田和宏氏(近畿大学)の司会のもと、発表者4人の報告に基づいて、以下の諸先生から、社会的ニーズとしてのミッションの在り方、ミッションベイスト・マネジメントの評価、ボランティア組織のガバナンス、非営利組織の成果評価、企業会計原則の導入と公会計原則の在り方、減価償却の取扱いなどについて 質疑応答があり、熱心な討論が行われた。質問者は次のとおりである。
 臼田克昌氏(日本赤十字社)、吉田忠彦氏(近畿大学豊岡短大)、亀岡保夫氏(公認会計士)、岡村勝義氏(神奈川大学短期大学部)、会田一雄氏(慶應義塾大学)、菊谷正人氏(国士舘大学)、斎藤真哉氏(青山学院大学)、小島廣光氏(北海道大学)、立岡 浩氏(広島国際大学)、守永誠治氏(静岡産業大学)、江田 寛氏(公認会計士)、高橋選哉氏(青山学院大学)、服部信男氏(静岡産業大学)、樽見弘紀氏(北海学園大学)、武田昌輔氏(成蹊大学)、早坂 毅氏(関東学院大学)、保谷六郎氏(聖学院大学)、松葉邦敏氏(国士舘大学)、薄井正徳氏(目黒寄生虫館)。
 統一論題発表報告・討論終了後、5号館学生ホールにおいて懇親会が開催された。 開催校を代表して国士舘大学・三浦信行学長の挨拶があり、 なごやかな雰囲気のなか19時30分終了した。

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