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学会賞・学術奨励賞の審査結果

第18回学会賞・学術奨励賞の審査結果に関する報告

令和元年9月15日

非営利法人研究学会

審査委員長:堀田和宏

 非営利法人研究学会学会賞・学術奨励賞審査委員会は、第18回学会賞(平成30年度全国大会の報告に基づく論文及び刊行著書)、学術奨励賞(平成30年度全国大会における報告に基づく大学院生並びに若手研究者等の論文及び刊行著書)及び学術奨励賞特賞(平成30年度全国大会における報告に基づく実務者の論文及び刊行著書)の候補作を慎重に選考審議した結果についてここに報告いたします。

 

1. 学会賞

 黒木 淳『非営利組織会計の実証分析』(中央経済社、2018年3月刊)

【概要及び受賞理由】

 本書は、日本の非営利組織、とりわけ公益社団・財団法人、社会福祉法人および学校法人(私立大学)の自発的な会計ディスクロージャーに着目し、「好業績である非営利組織ほど受益者などの情報利用者に対して自発的に会計ディスクロージャーを行う」というシグナリング仮説を実証分析することを目的とするものである。

 これまで日本では非営利組織を対象とした実証的な会計研究は非常に少なく、本書はその萌芽的研究としてそれだけでも理論研究の発展に貢献しているが、これまで規範的研究が経験的あるいは直観的に認識してきた事実を、アーカイバル・データを手入力などにより地道に集計し、また海外の実証研究の丹念なサーベイに基づいて、その方法や仮説を日本の非営利組織に応用し、検証している点は、これまで類例がほとんどなかっただけに、その独創性を高く評価しうるところである。

 特に本書においては、情報の経済学に依拠したシグナリングの観点に基づいて、非営利組織の会計ディスクロージャーを分析する際の視座や問題意識が極めて明確であり、一つひとつの議論を丁寧に積み上げていく本書の構成とともに、他の理論的アプローチも把握したうえで、これを決して否定していない点も高評価を得た。

 著者は、「好業績」(または低業績)に係る財務指標を「効率性」と「財務健全性」の二つの概念に求めている。すなわち、公益法人においては、理事者が少なく、寄附者に依存しているほど公益目的事業比率が高められること、また社会福祉法人においては、人的支出と内部留保の関連性に着目し、内部留保が過大となる要因について、私立大学では、帰属収支差額が将来の教育研究経費の削減に最も予測能力を有すること、などを分析している。本書の発見事項は、「好業績」を示す財務指標が非営利組織の経営者や受益者などの利害関係者にとって有用であり、加えて当該財務指標の活用の仕方にも一定の示唆を与える結論を得ている。

 他方で、本書の課題を指摘するならば、本書においてはシグナリング仮説が支持されており、当該仮説検証の結果はロバスト・チェックにより頑健であることが主張されているが、萌芽的研究であるがゆえに、例えば、サンプル選択に係る各法人の範囲、「効率性」や「財務健全性」が非営利組織の「好業績」の指標となりうるのか、などについては審査委員会においても議論になった。また、「自発的開示」と「好業績」のリンケージに他の変数を介在させた場合などの検証や、非営利組織の会計基準の統一をめぐる議論などの具体的課題に対する政策的なインプリケーションについては若干の物足りなさもある。しかし、著者自身、今後の課題を明確に自覚しており、本書は一つの通過点であることが示唆されている。実証研究に見落とされがちな日本の非営利法人制度や会計基準についても要領よく説明されており、著者の旺盛な研究意欲に支えられて今後の研究の発展も大いに期待されるところである。

 したがって、本書は、総合的に極めてすぐれた非営利組織会計の研究書であり、審査委員会は、本書が「学会賞」を受賞するに値するものと決定した。

 

2. 学術奨励賞

 該当作なし 

3. 学術奨励賞特賞

 該当作なし

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