第27回大会記
2023年9月16日~17日 大阪商業大学
統一論題 「非営利法人(非営利組織)の振興と支援」
1 はじめに
公益社団法人非営利法人研究学会第27回全国大会が、2023(令和5)年9月16日(土)・17日(日) の両日、大阪商業大学(大阪府東大阪市)のユニバーシティホール蒼天、4号館2階・3階等を会場として開催された。
2023年5月に新型コロナウィルス感染症も5類感染症に移行したことから、本大会もすべてのプログラムを対面で実施した。幸い両日とも好天に恵まれ、全国から90名を超える多数の会員・非会員の出席をいただいた。
本大会では、統一論題を「非営利法人(非営利組織)の振興と支援」と設定し、社会の中で非営利法人(非営利組織)をいっそう振興し、幅広く支援する政策や活動、制度や仕組みのあり方について、研究報告や討論会を行うこととした。
大会中は統一論題報告、自由論題報告、四つの分野別研究会と一つのスタディグループによる研究報告が行われた。また、本大会独自の企画ワークショップや企画セッションでは、非営利法人による公益的活動の持続的発展や柔軟な展開に資する法制や税制、支援のあり方について、理論と実務の両面から議論を深めることができた。
大会前日の9月15日(金)に常任理事会と理事会、16日(土)に社員総会と新理事会が開催された。
2 統一論題 報告及び討論
かつて東西冷戦の終結を背景として、世界的な民間非営利セクターの台頭が論じられた。爾来四半世紀余りを経て、わが国でも非営利法人(非営利組織は、社会や地域の充実・発展に不可欠な 主体として大いに普及、定着してきた。一方、公益法人制度をはじめさまざまな法人類型にわたり不断に改革が重ねられている。
ロシアによるウクライナ侵攻など国内外における政治・経済・社会の激変の下、政府、民間企業と鼎立する非営利法人(非営利組織)は、改めてその存在意義や果たし得る役割、機能を強く問われている。
そこで、本大会では、前掲のとおり、統一論題を「非営利法人(非営利組織)の振興と支援」と設定し、3名の会員による「報告」、座長の進行の下「討論」を行った。
2.1 統一論題報告(16日、13:00-14:45)
(1) 解題(統一論題趣旨説明)
[司会]初谷 勇氏(大阪商業大学)
導入として、統一論題を「非営利法人(非営利組織)の振興と支援」と設定した趣旨説明と本論題に込めた問題関心、次いで3名の報告者の紹介ならびに報告を依頼した趣旨など「解題」がなされた。
統一論題報告では、非営利法人(非営利組織)の一層の充実と伸展を支える振興策や支援活動等 について、現状を把握、評価し、解決の急がれる課題について、取り組むべき方策等も含めて論ずるものとした。特に、「国民、市民や専門家など個人」、「民間企業、中間支援団体、士業団体など組織や団体」、「国・地方自治体の政策、制度」の各々による振興と支援という3つの側面と、それらの側面相互の関連性も踏まえつつ、理論と実践をつなぐ活発な議論を目指すものとした。
次いで、各報告者から以下の研究報告がなされた。
(2) 第1報告
「専門職・士業団体による公益的活動と非営利法人の振興と支援:弁護士及び弁護士会の取り組みを事例として」
三木秀夫氏(弁護士)
本報告では、まず、三木氏が弁護士、プロボノとして早期から培われた非営利法人(非営利組織)への持続的な関心と、さまざまな非営利法人への多角的な関与の経験が紹介された。
その上で、「専門職・士業団体の制度的な位置づけと、その公益的活動とは何か。それらの公益的活動には、非営利法人の振興と支援に当たるものがあるのか」という問題関心の下に、①個々の弁護士個人による自発的な公益的活動、②単位弁護士会やそれらの連合会という組織の活動、③弁護士や弁護士会の運動や提言に基づき、あるいは契機として推進、整備されている政策や制度、という3つの局面から見た非営利法人(非営利組織)の振興と支援について論じられた。
(3) 第2報告
「非営利法人の振興に寄与する『中間支援』とは何か:NPOそして中間支援組織の言語論的転回の視点」
吉田忠彦氏(近畿大学)
本報告では、まず経営学、組織論の研究者として、吉田氏が非営利法人(非営利組織)への問題意識を抱いた経緯と、多年にわたり研究対象としてきた「中間支援組織」の系譜、現状の紹介がなされた。 その上で、「非営利法人の振興に寄与する『中間支援』とは何かを論究」し、「『NPO』、『中間支援組織』を、言語と活動との関係から分析する」ことを研究目的とし、その考察のために、わが国で非営利法人(非営利組織)の「中間支援組織」と見なされる組織の系譜と発展の経緯、それらの組織の設立パターンを整理された。 次いで、「NPO」、「中間支援組織」という言語と、実際の組織やその活動の実体との結びつきに「ゆれ」があるとし、「中間支援組織」という用語とその意味を分析するアプローチとして、「人文学における言語論的転回の視点を導入」して説明された。
(4) 第3報告
「非営利法人の官民協働理論の応用としての『フィランソロピー首都』創造に向けた取り組み」
出口正之氏(国立民族学博物館)
本報告では、まず、非営利研究者として、文化人類学的な視点から会計問題に関心を伸展させてきた出口氏の、非営利セクターの振興と支援に関するこれまでの取り組みが紹介された。
その上で、「アンソロビジョン(人類学的思考)で非営利法人制度を再検討」するため、大阪府・ 市の政策に参与し、その「副首都ビジョン」(2017年)で副首都の4機能の1つに挙げられた「民都」の具現化を図り、非営利セクター全体の民間組織を目指す「『民都・大阪』フィランソロピー会議」 を発足させて運営してきた経験とその活動成果について報告された。
次いで、この「民都・大阪」フィランソロピー会議の運営の羅針盤として、Bryson、Crosby、Stoneらの論文で示された「セクター間協働」の成功の要素に係る「22の提案」を参照したことが紹介され、実際に適用・援用した結果を評価された。
2.2 統一論題討論(16日、17:15-18:15)
統一論題「非営利法人(非営利組織)の振興と支援」について上記の3報告を受けて、同日後刻 に、統一論題の討論が行われた。
討論者を兼ねる座長(初谷 勇氏)から、3報告に対してコメントと質問がなされ、三木秀夫氏、 吉田忠彦氏、出口正之氏の各パネリストから回答やコメントが返され、活発な討論が行われた。フロアから寄せられた質問にも、指名を受けたパネリストから応答がなされた。
3 自由論題報告
今大会は、2022年12月に改正された新たな学会諸規程に基づき運営したところであるが、自由論題報告についても、地域部会での報告、推薦を得て応募する方法に加え、大会準備委員会に直接申し込み応募する方法が整えられたことから、2023年6月末の締切までに、両方法の選択により計7名の会員の応募があった。
7月初旬に準備委員会を開催し、応募原稿の形式・内容を確認の上、全ての応募を採択し、大会で報告をいただいた。後掲のスタディグループ中間報告と合わせて、大会両日とも同時に4会場に分かれ、おのおの個別に司会者を立て、平行して以下の自由論題報告がなされた。各会場では、報告に対して真摯な質疑応答が交わされた。
3.1 自由論題報告①(16日、16:20-17:00)
(1) 第1報告(16日、1-1)
[司会]馬場英朗氏(関西大学)
「公益法人に要求される収支相償の考察 ― 特定費用準備資金と地方財政法等に係る積立基金の比較 ―」
苅米 裕氏(税理士)
本報告では、公益認定基準の一つである収支相償に対する問題意識から、「年度間の財源調整等の規定が、地方公共団体には前年度までの歳入欠陥を埋めるための財源、及び災害等により生じた経費又は減収の財源として、財政調整基金の積立による対応が図られているが、公益法人には過去の正味財産の減少額を充当すること、また、災害等の不確実な事象に対するその対応措置が存していない」ことに着目し、「新しい時代の公益法人制度の在り方に関する有識者会議」の最終報告で当該対応の欠落をフォローする公益充実資金(仮称)の措置を求める旨の記載がなされていることを評価し、「地方公共団体の財政運営に類似する環境下を参考とする対応」を期待するとされた。
(2) 第2報告(16日、1-2)
[司会]中嶋貴子氏(大阪商業大学)
「自治体外郭団体の運営実態に関する研究 ― 自己組織性の視角による考察に基づいて―」
吉永光利氏((公財)倉敷市スポーツ振興協会)
本報告は、「自治体外郭団体が国等による多様な行政施策に対応しながら、どのような運営を行っているのか、自己組織性の視角から、その実態を考察するものである」。 外郭団体は、「その特性から、組織の存続可否も含めて、国等が行う施策の影響を受けることが多い」が、「従来の国等による支配的・管理的な運営から脱却し、自律性をもった運営へと転換している事例が見られる」。そこで、本報告では、「自治体外郭団体の運営がどのように変わっているのか、とくに、変容の起点となる人(職員)の意識や行動に焦点を当てて、運営の実態を考察」している。
⑶ 第3報告(16日、①-3)
[司会]吉田初恵氏(天理大学)
「戦中期自伝からみる企業家フィランソロピストの篤志観形成史 ― 石橋正二郎と水明荘夜話」
川野祐二氏(下関市立大学)
本報告では、「日本を代表する非営利法人の多くが、日本を代表する企業家たちによって創設され、また支援されてきた」こと、また、「時代を象徴する社会貢献事業は、企業を率いた『企業家』によって実行に移された」との認識の下、「ブリジストンの創業者にして、石橋財団や九州医学専門学校 などを創設、芸術と教育の社会事業家でもあった石橋正二郎をとりあげ」ている。1944(昭和19)年11月という「戦中期に記された石橋正二郎初の自伝『水明荘夜話』に注目し、戦中期およびその前後における彼の篤志観の一端を歴史的に考察」された。
3.2 自由論題報告②(17日、16:20-17:00)
⑴ 第4報告(17日、②-1)
[司会]馬場英朗氏(関西大学)
「決算書から見るNPO法人会計の問題点 ― 北海道をケースとして ―」
大原昌明氏(北星学園大学)
本報告では、「適正な決算書を作成することは、法人のミッションを遂行するための会費収入や寄付金収入を安定的に受け取るための大前提」としたうえで、「NPO法人の決算書作成実務に存在する問題点を、実態調査(北海道内のNPO法人の全数調査)を通して抽出し、その問題点を解決するための方策を考察する検討資料」を提示している。決算書作成にかかわる問題点として、⑴会計基準準拠か否か、⑵計算構造周知の不徹底さ、⑶すべてがゼロ法人、⑷区分表示と項目の適否の4点、また、情報開示の現状に関する問題点として、3割程度の法人が事業報告書等を所轄庁に未提出であることを指摘し、これらの問題点を解決し、信頼性を高め、比較可能性を担保するためにも、会計基準準拠の決算書作成をなお一層啓発すべきと提言されている。
⑵ 第5報告(17日、②-2)
[司会]中嶋貴子氏(大阪商業大学)
「地方自治体が推進する要保護児童を対象とした就農プロジェクト~きつきプロジェトの事例~」
山田敦弘氏(日本総合研究所)
本報告では、近年「人口減少などに起因する様々な課題を抱える地方自治体において」、「福祉を推進することで地域再生も合わせて推進することができれば、理想的な取組みである」との問題意識の下に、報告者も深くかかわった大分県杵築市における「きつきプロジェクト」(大分県内の九つの児童養護施設の入所児童を対象に、杵築市の農家及び農業法人で1日~数日の就農体験をしてもらう事業)の事例研究を行っている。「福祉の推進」と「地域再生」の連携の可能性、直面する課題、解決ポイントなどについて、主に地方自治体の立場に立って分析した成果が発表された。
⑶ 第6報告(17日、②-3)
[司会]森美智子氏(熊本県立大学)
「我が国の非営利組織会計統一化の必要性 ― 病院及び社会福祉法人会計の相違点に焦点を当てて ―」
谷光 透氏(川崎医療福祉大学)
本報告では、「医療法人であっても社会福祉事業を行うことができるため、社会福祉事業を主たる事業としている社会福祉法人と事業が重複しており、それぞれ会計基準が異なるために事業の横断的理解が困難」な現状にあるとの問題意識の下、「⑴病院会計準則、医療法及び社会福祉法の目的」 と「⑵それらの目的に沿った情報開示制度の現状」の視点から、非営利組織会計統一の必要性について検討がなされた。
⑷ 第7報告(17日、②-4)
[司会]藤澤浩子氏(法政大学)
「地域担当職員制度の真価」
井寺美穂氏(熊本県立大学)
本報告では、「人口減少時代の地域経営/自治体経営のためには、地域と行政の対話や協働を促し、双方が知恵を出し合いながら、効率的に問題へ対処していく必要があり」、「地域問題に対応可能な地域の自治力を向上・維持するためには、自治力を補完する仕組みの構築が必要である」との問題認識の下に、仕組みの「一つである地域担当職員制度」を取り上げている。
多くの自治体に注目されながらも、浸透していない同制度の「問題点を考察しながら、その有用性に注目し、地域への適応可能性について検討」している。熊本市、長洲町など熊本県内4市町における同制度運用状況の調査結果も踏まえ、地域担当職員制度の機能と逆機能を挙げ、それらの逆機能を解消し、有用性を高めるよう、「自治体組織全体による総合的な仕組みづくりに関わるような制度設計」の必要性を説かれた。
4 分野別研究会報告(17日、9:30~12:10)
分野別研究会報告は、大会2日目の17日午前に、四つの研究会の報告を連続して実施した。分野別研究会は2年間の活動期間とされており、「公益・一般法人研究会」は初年度をおえての中間報告、
「NPO法人研究会」、「医療・福祉系法人研究会」、「大学等学校法人研究会」の3者は2年度目をおえての最終報告であった。
なお、2022年12月の学会諸規程の改正により、現行の分野別研究会は、各々その最終報告をもって終了するものとされ、新たに特別委員会が設置されることとなった(その後、今大会時の理事会で二つの特別委員会の設置が承認されている)。
4.1 分野別研究会報告⑴(17日、9:30~10:10)
「公益・一般法人研究会」(中間報告)
[座長]尾上選哉氏(日本大学)
[司会]櫛部幸子氏(大阪学院大学)
公益・一般法人研究会では、「寄付という経済事象に関わる種々の現状や課題を明らかにするとともに、課題に対する解決策をも可能な限り模索し提示することを目的として」、「寄付について、会計・法律・税務・経営という多角的な視点から考察・検討を行うもの」とされている。
今回の中間報告では、全5章からなる中間報告書が提出され、座長の尾上選哉氏の司会により、 「研究報告の章立て」(予定)のうち、「第1章 寄付にかかる会計のあり方」(尾上選哉氏)、「第3章 寄付の使途拘束をめぐる慣行と法的問題―公益法人の自律性と説明責任を踏まえたリスクマネジメント―」(久保秀雄氏)、「第4章 寄付にかかる税務」(上松公雄氏)の3報告が行われた。 なお、次年度全国大会での最終報告では第2章、第5章を中心に報告を行い、最終報告書を作成、配布の予定とされた。
①「寄付にかかるスチュワードシップ会計」
尾上選哉氏(日本大学)
本報告では、「非営利組織における寄付の受領の重要性という観点から、自発的な反対給付を伴わない寄付を受領し、その寄付を主な資金源として活動する非営利組織において、どのような会計を行うことが、非営利組織のミッション(使命)継続につながるかを考察・検討された。
②「寄付の使途拘束をめぐる慣行と法的問題 ― 公益法人の自律性と説明責任を踏まえたリスクマネジメント―」
久保秀雄氏(京都産業大学)
本報告では、「使途に制限が課された使途拘束のある寄付に関して、受領者が何らかの事情でその制限に従うことができなくなった場合、受領者はどのように対処するのが望ましいのか」との問題関心の下、寄付の使途拘束をめぐる慣行と法的問題を検討している。公益法人を主な対象に、若干の事例に関する探索的調査から、寄付者の意思を受領者(受贈者)がいわば拡大解釈して使途の変更を行い、寄付の有効活用が図られている現状を把握し、そうした対処のリスクを法的問題と寄付の促進に対するブレーキという観点から指摘した上で、有効な対策の提案を試みられた。
③「寄付に係る税務」
上松公雄氏(大原大学院大学)
本報告では、「誰が、どのような資産を、どのような機会、経緯、理由によって、どのような非営利法人に寄附をした場合に、どのような租税法規及び税務上の取扱いが適用されるのかについて整理すること」を目的として、まず課税上の原則的取扱い、寄付の実施形態を述べ、拠出者が個人である場合の租税負担軽減または非課税の特例等と、租税回避防止規定が検討された。
4.2 分野別研究会報告⑵(10:10~10:50)
「NPO法人研究会」(最終報告)
[座長]初谷 勇氏(大阪商業大学)
[司会]澤田道夫氏(熊本県立大学)
「共通論題:NPO法人制度の特長と新たな展開の可能性」
NPO法人研究会では「NPO法人制度の特長と新たな展開の可能性」を共通論題として設定し、 各委員による個別論題の研究報告やゲストによる報告など議論を重ねてきたことが示され、今回は、最終報告として、委員の澤田道夫氏の司会により、4委員から次の4報告がなされた。
①「非営利法人の体系とNPO法人」
初谷 勇氏(大阪商業大学)
本報告では、非営利法人の体系化のとらえ方(枠組み)と、NPO法人の位置づけや意義について、系統分類学や文化系統学の先行研究も踏まえて「系統」と「分類」の観点から整理した上で、まず「系統」問題として、一般法人法の一般法化とそのなかでのNPO法のあり方やNPO法人の方針選択について、また「分類」問題として、非営利法人の類型(形態)分類、事業分類等における分類基準について論じられた。
②「町内会・自治会基盤の非営利組織法人化の意義と課題:横浜市内18区地区センター指定管理者 調査から」
藤澤浩子氏(法政大学)
本報告では、横浜市において、従来、施設管理目的の地縁系団体であった「区民利用施設協会」 を前身とする法人が、18区の地区センター等複数の住民利用施設の指定管理者となっていることに着目し、「地縁系組織の法人化」のケーススタディとして、その法人形態、組織体制、組織化の沿革、業務内容・組織運営等について精査した結果に基づき考察を加えられた。
③「地域コミュニティの持続可能性とNPO法人制度」
澤田道夫氏(熊本県立大学)
本報告では、「NPO法人等の活用による自治会等の法人化が、地縁組織の活性化を可能とするのではないか」との問題意識に基づき、きらりよしじまネットワーク(山形県)、東陽まちづくり協議会子育て支援ネットワーク(熊本県)、坪井川遊水池の会(同左)の三つのNPO法人の事例調査も踏まえ、地縁組織の法人化に求められる当事者の意識とNPO法人の強みについて論じられた。
④「コロナ禍がNPO法人の財務に与えた影響」
中尾さゆり氏((特活)ボランタリーネイバーズ)
コロナ禍は、NPO法人の活動に大きな影響を与えた。人が集まり交流する活動ができず存続の危機に直面した団体がある一方で、困難を抱える人々への支援活動が拡大し、新たな寄付金や助成金を獲得し、活動を広げた団体もある。
本報告では、2020年度分・2021年度分として名古屋市に提出されたNPO法人の財務諸表を分析し、コロナ禍がNPO法人の財政状態に与えた影響を調査するとともに、各法人の事業報告書から各種施策の活用状況等を把握した。これらの調査結果を通じて、コロナ禍におけるNPO法人の財務基盤の状況を踏まえた支援について検討、考察がなされた。
4.3 分野別研究会報告⑶(17日、10:50~11:30)
「医療福祉系法人研究会」(最終報告)
[座長]・[司会]鷹野宏行氏(武蔵野大学)
医療福祉系法人研究会では、今回、最終報告として、委員3名の報告がなされた。
①「労働者協同組合会計基準のあり方~会計基準の設定主体論の見地から~」
鷹野宏行氏(武蔵野大学)
「平成18年、各種協同組合法の改正により、本法ないし施行規則に公正なる会計慣行へのいわゆる『しん酌規定』が明文化された」。「令和4年10月に労働者協同組合法が施行され、同法第75条には、『組合の会計は、一般に公正妥当と認められる会計の慣行に従うものとする』とし、いわゆるしん酌規定が明文化されている」。
本報告では、「労働者協同組合法の施行により、労協における会計基準も議論のそ上にのせるべき」であり、「株式会社とは似て非なる協同組合における独自の制度を企業会計との比較において検討することも、それなりに意義があると思われる」との問題意識から、協同組合セクターの中の農業協同組合、中小企業等協同組合、生活協同組合の各系統の協同組合における会計基準について、その有無、名称、設定主体を比較し、労働者協同組合会計基準の設定の必要性、設定主体、内容等の論点を指摘された。
②「社会福祉法人の大規模化・協働化の政策課題と方向性」
千葉正展氏(独立行政法人福祉医療機構)
中小・零細な事業者が多いとされる社会福祉法人について、国の審議会等で、医療・介護・福祉の効率化の観点から規模の拡大・協働化を求める意見が度々示されている。一方、社会福祉法人の規模の議論では、法人の有する施設数に係る「1法人1施設の解消」と、一つ一つの施設の規模(=定員数)に係る「施設の規模拡大」の二つの側面の混同も見受けられる。社会福祉法人の事業の性格(労働集約型産業に類する事業)や、社会福祉施設に定められている各種の最低基準の存在などが、規模の経済性の制約要因となっている可能性もある。
本報告は、こうした問題意識の下、「社会福祉法人の規模の経済性について、社会福祉法人の財務諸表電子開示システムのデータを用いて分析し、現下進められている社会福祉法人の事業展開を誘導する政策についての方向性・あり方を検討」し、「拠点規模を拡大しつつ、そこで提供されるサービスについては、個別ケア、地域密着ケアが提供されることを目指すのが有効ではないか」とされた。
③「労働者協同組合の設立動向 ~ 労協ながのへのインタビューをふまえて ~」
佐藤正隆氏(武蔵野大学)
本報告では、「長野県で第1号の労働者協同組合の法人格の取得団体」である労協ながのに対するインタビュー調査を通じて、法人格取得の動機や意思決定、「出資」・「労働」・「経営」の三点における根本的な考え方や運営状況、同組合の今後の課題等を明らかにし、労働者協同組合の設立動向について説かれた。
4.4 分野別研究会報告⑷(17日、11:30~12:10)
「大学等学校法人研究会」(最終報告)
[座長]・[司会]柴 健次氏(関西大学)
今期の大学等学校法人研究会は、前期研究会の主題(「大学のガバナンスとアカウンタビリティ」)を引き継ぎつつ、さらに「経営体としての大学に求められること」を主題(研究テーマ)に掲げ、本報告時に全11章からなる最終報告書を提出された。
本報告では、同研究会の最終報告として、座長の柴健次氏の司会の下、次の2報告が行われた。
①「経営体としての大学に求められること」
柴 健次氏(関西大学)
本報告では、柴健次氏が、座長として研究会の主題:「経営体としての大学に求められること」につき研究を推進するため提示された「図解」に基づき、研究会で行われた各委員等の個別報告(最終報告書の各章に収録)を俯瞰し、それらの主題との関わり、位置づけを明らかにしつつ、各々の要旨を説かれた。
同図解は、「大学の経営」を中心に据えて、上方に経営を統制する「ガバナンス」を置き、下方に経営の結果の報告につながる「会計やその他の報告(特に統合報告)」を置く縦のライン、左方に「研究」を置き、右方に「教育」を置く横のラインを想定している。同研究会では縦のラインと横のラインを総合的に考えて、「経営体としての大学」を追求している例として東京大学を研究の中心に据えたことから、座長より、委員である青木志帆氏の「実践事例:『公共を担う経営体』としての東京大学の取組」の要点も紹介、解説された。
②「世界大学ランキングとその問題点」
工藤栄一郎氏(西南学院大学)
本報告では、わが国において、従来「事前規制型コントロール」として機能していた大学設置基準から、大綱化以降、自己点検・評価に基づく認証評価制度が「事後確認型コントロール」として質保証が図られていること、他方、高等教育の市場(教員学生)のグローバル化を背景として「市場型大学評価」として世界大学ランキングが登場したことを踏まえ、ランキングの特性(評価主体、評価方法)、3大世界大学ランキング、評価指標の仕組み(メソドロジー)、ランキングがもたらすさまざまな問題について論じられた。
5 スタディグループ報告(中間報告)(16日、11:00-11:50)
スタディグループは、昨年度活動期間の1年延長が承認され、2回目の中間報告がなされた。
「非営利組織の持続可能性と連携:ソーシャル・サービスの連携推進の発展可能性をめぐる多角的検討」
[座長]・[司会]國見真理子氏(田園調布学園大学)
①「今期のSG研究活動に関するご報告」
國見真理子氏(田園調布学園大学)、榎本芳人氏(厚生労働省)
「医療や福祉等の分野では、ソーシャル・サービス提供の持続可能性の面から『連携推進法人』 を発足させる動きがある。」
本報告では、まず座長の國見氏から、「これらの連携推進がどのような内容でどのように展開されているのかという特徴や現況の把握、現状ではどのようなメリットやデメリットがあるかについて検討」し、同制度の今後の展開について考察された。
次いで、榎本氏から、スタディグループによる連携推進法人の訪問調査の結果として、社会福祉法人(京都府、滋賀県)、社会福祉連携推進法人(和歌山県)、地域医療連携推進法人(滋賀県)の4事例が報告された。
②「ソーシャル・サービスの連携推進の海外事例:米国のIntegrated Healthcare Networkを中心に」
尾上選哉氏(日本大学)
本報告では、2017年に地域医療連携推進法人が創設された背景を確認した上で、同法人創設の際に参考とされた米国のIntegrated Healthcare Network(IHN)の経緯や、「医療の質向上とコスト抑制をも追求する」「医療事業体」としての特徴を考察し、その形態別の構成員のあり方や意思決定の一元化など今後の検討課題を提示された。
③「米国の非営利組織会計におけるヘルスケア事業体の位置づけ」
金子良太氏(國學院大學)
本報告では、「日本の連携推進法人制度を検討するにあたり、より広域連携や医療組織の大規模化が進んでいる米国の事例を参照することは有用」との認識の下、FASBが統一的に設定する非営利組織会計の中で特有の規定が置かれるヘルスケア事業体について検討し、その特徴等が考察された。
6 企画ワークショップ(17日、13:00-14:50)
大会準備委員会による企画ワークショップとして、「NPO法人の事業承継の特性を探る~中小企 業の事業承継との比較から」が開催された。
「NPO法人の事業承継の特性を探る~中小企業の事業承継との比較から」
[司会]中尾さゆり氏(NPO法人ボランタリーネイバーズ、税理士)
パネリスト:下園美保子氏(NPO法人アダージョちくさ)、長瀬充寛氏(税理士法人TAG経営)、 早坂 毅氏(税理士)
(趣旨)
「NPO法成立から25年近くが経過し、NPO法人においても事業承継・世代交代が組織運営の課題として浮上しており、すでに事業承継を済ませている法人もある。
政策サイドの高い問題意識や法制度の整備により、中小企業の事業承継に関する学術的な議論は一定の蓄積がある。一方、非営利法人、特にNPO法人については、体系的に研究の蓄積がされている状況に至ってはいないように見受けられる。
本ワークショップでは、「中小企業の事業承継と非営利法人(NPO法人)の事業承継の相違点から、非営利組織の事業承継の特性を探り、事業承継についての論点整理を行う」ことを趣旨とする。中小企業の事業承継との比較、NPO法人の特性を考慮しながら、今後NPO法人をはじめと する非営利組織の事業承継に関する論点を探索するものとする。」
本ワークショップでは、司会者の中尾さゆり氏によりテーマの解題がなされた後、「NPO法人の事業承継」を当事者として実践したり、経営や税務等の相談・助言実績を重ねているパネリスト3名による以下の報告がなされ、次いで、パネリスト間のフリーディスカッション、フロアからの質疑、議論が活発に行われた。
①「中小企業の事業承継の現状 ~ 非営利法人の事業承継との比較のために~」
長瀬充寛氏(税理士法人TAG経営)
本報告では、中小企業の事業承継の現状(経営者の高齢化と事業承継実施企業と非実施企業の二極化)、事業承継時の悩み・相談例(親族の内外で区分)、事業承継の全体像、事業承継の実務で遭遇する落とし穴、事業承継計画のポイントなどの解説を通じて、非営利法人の事業承継と比較検討する上での視点、論点を示された。
②「NPO法人事業承継実践事例」
下園美保子氏(NPO法人アダージョちくさ)
本報告では、精神障害者に対する障害者福祉制度、就労継続支援B型の動向を述べた上で、その1つであるNPO法人アダージョちくさ(名古屋市)の事業承継を当事者(承継者)として実践した体験に基づき、就任時の課題とその解決のために行った改革、その結果を紹介し、「小規模かつ時代変遷に沿った事業承継に必要なこと」を4点集約された。
③「NPO法人等非営利組織の事業承継事例とその特徴」
早坂 毅氏(税理士)
本報告では、報告者が実務上携わった事業承継・世代交代の多数の事例について、代表者の属性や理事・事業内容の変更などに着目して一定の「類型」を区分し、各類型に該当する6事例について、その概要とそこから見て取れる非営利組織の事業承継の問題点や論点を指摘された。
7 企画セッション(17日、15:00-16:10)
大会準備委員会による企画セッションを、次の開催趣旨に基づき開催した。
「非営利法人による公益活動の振興に資する公益認定法改正とは~ 会計・ガバナンスの観点から」
[司会]松前江里子氏(日本公認会計士協会)
[特別報告]北川 修氏(内閣府)
[パネリスト]北川 修氏、齋藤真哉氏(横浜国立大学)、 大原昌明氏(北星学園大学)、石津寿惠氏(明治大学)
(趣旨)
新しい時代に即応した公益法人制度の改革が進められている。
2023年6月、「新しい公益法人制度の在り方に関する有識者会議」の最終報告が公表され、政府では「社会的課題を解決する経済社会システムの構築」の一環として、「社会的課題を解決する NPO・公益法人等への支援」の下、「公益法人の改革」(公益認定法の改正)を掲げ(「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2023改訂版」)、推進中である。2024年には改正法案の国会提出、2025年には新(改正)公益法人制度の施行が目指されている。
本学会は、これまで民間非営利活動の拡大に合わせ「公益法人研究学会」から「非営利法人研究学会」に改称し、公益認定を受けて公益社団法人として活動を続けている。非営利法人研究の推進や研究成果の公表とともに、「非営利法人に関する啓発」を重要な事業の一つとする。
そこで、本大会の機会に学会外にも門戸を開き(注:CPD、税理士会研修に申請等)、学術的・ 実務的観点から関心の高い公益法人制度改革の潮流について、理解と考察を深める機会を設けることとする。
制度改革の実務に当たる内閣府の公益法人行政担当室長から制度見直しの方向性と進捗状況について特別報告をいただき、会員の内に専門とする会員も多い会計とガバナンスの観点から、改革の課題と論点について考察する。
本セッションでは、会計・ガバナンスの観点から、今後の法改正や政策推進上、特に重要と考えられる課題や論点に焦点を絞って行うが、一般・公益法人にとどまらず、広く非営利法人を視野に入れた示唆や触発も期待するところである。参加者、聴き手である会員・非会員(CPD・税 理士会研修受講者)の理論・実務両面からの関心にも配慮するものとしたい。」
本セッションでは、松前江里子氏(公認会計士)の司会の下、まず、北川 修氏(内閣府)による「特別報告」が行われた。その後、北川氏、齋藤真哉氏(横浜国立大学)、大原昌明氏(北星学 園大学)、石津寿惠氏(明治大学)をパネリストとしてフリーディスカッションが行われた。
⑴ 特別報告
「非営利法人による公益活動の振興に資する公益認定法改正とは ~ 会計・ガバナンスの観点から」
北川 修氏(内閣府)
北川修氏(内閣府大臣官房公益法人行政担当室長/内閣府公益認定等委員会事務局事務局長)の特別報告では、まず、公益法人制度改革について、2006年改革と今回検討中の改革の対比がなされた。
今回の改革は、「『収支相償』等の規制に対する批判(一方で、不祥事に鑑みた広義公益法人のガバナンス強化論)」を政治的・社会的背景とし、「新資本主義実現会議における経済界からの問題提起」を直接的な契機として、「社会的課題解決に資する民間の公益的活動の活性化」を制度改革目的としている。政策的な位置づけは、「新しい資本主義実現(経済成長戦略)」であり、改革の基幹コンセプトは、「法人活動の自由度拡大」と「(広義の)ガバナンスの充実」である。経済財政政策担当大臣の下、内閣府大臣官房公益法人行政担当室が担当部局となり、検討の場として「新しい公益法人制度の在り方に関する有識者会議」が設けられた。
次いで、今回検討中の改革について、「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」(令和 4年6月7日閣議決定)以降、上記「有識者会議」の開催(令和4年10月~令和5年5月)及び最終報告(令和5年6月)、「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2023改訂版」及び「経済財政運営と改革の基本方針2023」(ともに令和5年6月16日閣議決定)などでの検討状況や主要論点の解説、今後の政策展開の見通し、将来に向けて残された課題などについて述べられた。
⑵ パネルディスカッション
パネリスト:北川 修氏(内閣府)、齋藤真哉氏(横浜国立大学)、大原昌明氏(北星学園大学)、 石津寿惠氏(明治大学)
パネルディスカッションでは、北川 修氏、齋藤真哉氏、大原昌明氏、石津寿惠氏の4名のパネリストにより、北川氏の「特別報告」を受けて、今回の改革の意義や政策的な位置付け、基幹コンセプト2点の具体的な意味の問い直しをはじめ、主要論点の中でも、特に「収支相償原則の見直し」、「遊休財産規制の見直し」、「わかりやすい財務情報の開示」、「法人機関ガバナンスの充実」などについてディスカッションが行われた。
会計とガバナンスに関わる理論的な観点はもとより、各パネリストの公益認定等に係る各都道府県合議制機関での実務経験も踏まえた視点から、率直かつ活発な意見が交わされるとともに、フロアからの質問に北川氏がきめ細かく応答、説明されるなど、今回の制度改革について認識を深めるとともに、本学会としても改めて学術的に検討を加える貴重な契機、機会となった。
8 謝辞
第27回大会は、9月17日(日)17:30に終了した。
今大会は、大阪商業大学が開催校であるが、大会準備委員会は、専門領域、活動分野、所属等を異にする会員5名で構成した。
準備委員会は、2022年末の学会諸規程の改正を踏まえ、大会開催概要の編成に本格的に着手した。1月の常任理事会で統一論題案の承認を得るとともに、新たに選任された東西両地域部会長とも調整のうえ、自由論題報告の募集・審査手続の細目と日程案を詰め、自由論題報告募集要領の方向性についても了承を得た。
大会プログラムでは、統一論題報告・討論はもとより、自由論題報告の募集・審査、分野別研究会・スタディグループ報告の報告者と内容の確定、企画ワークショップ及び企画セッションの企画・準備等において、報告者、司会者をはじめ各研究会等の座長・委員、登壇者の皆様のご理解ご協力により、改正規程に則った運営を行なうことができた。
自由論題報告については、応募ルートが拡充、複線化した結果、地域部会報告を経ての応募が4件、準備委員会への直接応募が3件となり、新たな仕組みも会員に円滑に活用していただけたようである。また、東西両地域部会長には、応募期限(6月末)までにおのおの複数回の部会を開催するなど研究報告機会の設定にご協力いただけた。
なお、準備委員会で決定し常任理事会に報告して公開した当初のプログラムから、大会当日までに生じた報告者や司会者の変更等については、それぞれ事前に各座長およびご本人から速やかに届出をいただき、大会前に変更の旨を参加者に告知することができた。本大会記もすべて実施結果に基づくことを申し添えたい。
大会における報告者、パネリスト、司会者(討論者)、各報告へのご出席者をはじめ、企画プログラム登壇者のご所属機関(内閣府等)、当日の運営をご支援いただいた学会事務局(全国公益法人協会)、さらに本大会をそれぞれCPD(継続的専門能力開発)、認定研修会に採択いただいた日本公認会計士協会ならびに近畿税理士会などすべての関係者に厚く御礼申し上げます。
最後に、大会の会場準備・運営にご配慮いただいた開催校の関係者及び学生スタッフの皆さんに感謝申し上げます。
2024年3月31日
(公社)非営利法人研究学会第27回全国大会準備委員会
準備委員長 初谷 勇(大阪商業大学)
委員 中嶋貴子(大阪商業大学)
櫛部幸子(大阪学院大学)
馬場英朗(関西大学)
中尾さゆり((特活)ボランタリーネイバーズ)