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公認会計士 髙山昌茂
キーワード:
非営利組織会計 連結情報 非支配株主持分 関連当事者 独立行政法人
持分法
要 旨:
非営利組織が法人格を超えてグループとして活動する場合に、グループに属する非営利組 織の継続的活動能力や活動状況の全体像を適切に理解するためには、グループ全体の財務情 報が提供される必要があり、この観点から非営利組織においても連結財務諸表は必要である ことは否定できない。ただし、営利組織会計では当然とされている連結財務諸表の作成が、 非営利組織においてもそのまま適用できるものなのかについて、様々なデメリットが考えら れることから、その実現性が危ぶまれる。そこで次善の策ではあるが、非営利組織の個別財 務諸表に持分法を適用することを提案したい。
構 成:
I はじめに
II 営利組織会計において連結財務諸表が必要とされる理由
III 「非支配株主持分」表示に対する違和感
IV 関連当事者の注記の重要性
Ⅴ 非営利組織の会計基準の設定アプローチ
Ⅵ 独立行政法人会計基準の連結導入のアプローチ
Ⅶ 非営利組織法人の連結導入のアプローチ
Ⅷ 持分法適用の必要性と実価法適用の可能性
Abstract
When a non-profit entity goes beyond its individual corporate status and engages in activities as a group organization, consolidated information of the entire group is required for the adequate grasp of the respective group membersʼ continuing operational capacities, as well as the entire scope of the group activities. To this extent, the introduction of consolidated financial statements is inevitably required even for nonprofit organizations. As to the implementation of such practice, however, experts see the difficulties of applying the conventional preparation method widely in use by profitoriented business accounting due to its various demerits (obstacles). While it may only serve as the second best solution, this paper aspires to propose the use of “equity method” for the individual financial statements of non-profit organizations.
Ⅰ はじめに
平成27年5月26日に日本公認会計士協会より 「非営利組織の財務報告の在り方に関する論点整理」(以下、「論点整理」という)が公表された。
その論点9において連結情報の開示が議論さ れており、「9-1 非営利組織において連結財務諸表は必要か」という問いについては以下のように整理されている。すなわち、「我が国の非営利法人制度において、一部、条件付きの 出資が認められており、企業同様に組織集団を形成することが可能であり、非営利組織が法人格を超えてグループとして活動する傾向は、今後より一層活発になることも考えられる。こうした状況に対応するため、現行の非営利組織に関する情報開示制度においても、出資先の財務状況や関連当事者との取引の情報開示が拡充されつつあるところである。しかしながら、非営利組織がグループとして一体的に活動し、複数組織でリスクが共有されている場合、グループの一部を構成するにすぎない非営利組織単体の財務諸表では、グループ全体の財政状態や活動努力を理解することはできない。このような場合に、グループに属する非営利組織の継続的活動能力や活動状況の全体像を適切に理解するためには、グループ全体の財務情報が提供される 必要があり、このような観点から非営利組織においても連結財務諸表は必要であると考えられ る」1)として連結財務諸表作成の必要性を説いている。
本稿では、営利組織会計では当然とされている連結財務諸表の作成が、非営利組織においてもそのまま適用できるものなのかについて検討してみることとする。
Ⅱ 営利組織会計において連結財務諸表が必要とされる理由
営利組織会計において連結財務諸表が必要とされる理由としては、①子会社を利用した会計操作、特に損失隠しである粉飾防止、②組織分化した企業の業績把握、③企業集団の企業価値測定などが挙げられる2)。このうち②および③については、非営利組織についてもそのまま当てはまる考え方である。すなわち、「論点整理」9-2においても、非営利組織の連結財務諸表の作成目的として「支配従属関係にある組織集団を単一の組織として捉え、その財政状態と活動実績を報告すること。資源がどのように使用されているかを示すことを主目的とし、非営利組織とその資源提供先を一つの会計主体として捉え、その財政状態と活動実績を報告すること」3)の2つが指摘されているところである。
他方、①については多くの非営利組織は利益獲得を主たる目的としていないため、会計操作、 特に損失隠しに使われることは少ないものと考えられる。したがって営利組織会計への導入の強い契機となった①については、非営利組織会計では主たる理由として挙げることはできないものと考える。
Ⅲ 「非支配株主持分」表示に対する違和感
非営利組織が連結財務諸表を作成する場合には、連結被支配組織の純資産のうち、連結財務諸表作成組織(いわゆる親会社)の持分に属しない部分は、非営利組織には本来持分概念がないにもかかわらず、その純資産に「非支配株主持分」(従来の少数株主持主)が表示されることになる。この表示に対して多くの利用者は違和感を抱くこととなろう。それを防ぐためには、①「非支配株主持分」を改訂前連結財務諸表に関する会計基準と同じように純資産の部ではなく、負債の部に計上する方法、あるいは②「非支配株主持分」が表示されない、全部連結ではなく比例連結を適用する方法で対処することが可能であろう。しかしながら①、②どちらの考え方であっても現行の「連結財務諸表に関する会計基準」に反する会計処理であることは事実である。したがって、もし非営利組織が連結財務諸表を作成する場合には、企業会計での取扱いをそのままとすることの違和感は拭えないこととなる。
Ⅳ 関連当事者の注記の重要性
「論点整理」において、「出資先の財務状況や関連当事者との取引の情報開示が拡充されつつある。例えば、学校法人では出資状況等について計算書類に脚注として記載すること、医療法人では事業報告書内で現地法人の状況を報告することが求められている。また、公益社団法人及び公益財団法人並びに社会福祉法人については関連当事者取引に関する注記が求められるなど、多様な取扱いとなっている」4)として関連当事者との取引の注記の重要性について指摘している。関連当事者との取引の開示は、利益を追求していない非営利組織が利益隠しに利用することを防止するのに役立っている。非営利組織が利益を計上したくない場合には、支配している企業を使って高い価格で発注することにより容易に利益の付け替えが行われる虞があるが、これを関連当事者との取引で開示させることにより防止できるようになるのである。ところが、連結財務諸表を作成しているならば、この不明 瞭な取引は連結上相殺消去の対象となり、なかったものとされてしまうため関連当事者取引として開示されることはなくなってしまう。
この点が企業会計の連結をそのまま非営利組織の連結に導入することに対して致命的な欠陥となるものと考える。営利組織であれば利益計上が至上命題のため、損失隠したる粉飾防止のためにも連結財務諸表の作成は必要である。しかしながら非営利組織は損失隠しではなく、あえて言うならば利益隠しを行うことが考えられ、利益隠しの防止には、連結財務諸表の作成よりも関連当事者との取引の注記の方が有効であり、これが示されなくなる連結導入のデメリットは計り知れないものとなると考える5)。
Ⅴ 非営利組織の会計基準の設定アプローチ
ところで、「論点整理」では、非営利組織の会計基準を設定する場合には、「非営利組織における財務報告の基礎概念及び会計基準に関する文書を、それ単独で成立するよう、企業会計の枠組みとは独立して構築するアプローチが望ましいと考えられる」6)としつつも、「なお、非営利組織を対象とする財務報告の枠組みを独立した形で構築するアプローチを採る場合であっても、企業会計との整合性を可能な限り図ることは重要である」7)として非営利組織の会計と企業会計とは整合性を可能な限り図るべきであることを強調している。このようなアプローチをとれば、企業会計との整合性を図りながらも企業会計とは独立した(異なる)連結情報もあり得ることになり、大変示唆に富んだ考えであると評価できる。
Ⅵ 独立行政法人会計基準の連結導入のアプローチ
企業会計と独立した連結情報を示している 「独立行政法人会計基準」の取扱いが、今後の非営利組織の連結情報を考える上で参考となる。 当該基準によれば、「①連結財務諸表は作成する。②少数株主持分は純資産の部に計上する (政府等の持分がある)。③関連公益法人等については、独立行政法人との出えん、人事、資金、 技術、取引等の関係を注記により開示する」となっている。
すなわち、連結財務諸表を作成するが、本来企業会計によれば、連結相殺消去される取引を消去せずに注記することになっているのである。
この点について、平成12年の「独立行政法人 会計基準の設定について」では、「基準及び注解は、独立行政法人単体の会計処理の基準として策定している。これは、行政改革会議の最終報告以来、そもそも独立行政法人の制度設計が、その「業務や関連組織等が、資本関係、取引関係、人的関係を通じて、国民のニーズとは無関係に自己増殖的に膨張することに対して、厳しい歯止めをかけることとする」という基本的認識に立って行われており、現時点で連結情報が必要とされる場面が想定できないからである。 ただし、将来仮に連結情報の開示が必要とされる状況が発生した場合においては、一般に公正妥当と認められている会計原則に準じて会計処理が行われるべきことはいうまでもない」8)として、当初は連結財務諸表の作成を要求せず、もし将来連結情報を開示する場合があるとして 企業会計に準じる取扱いとなることしたのである。
ところが、それから3年後の平成15年の改正で、新たに連結財務諸表を作成することとなったとし、「民間企業等に対する出資を業務として実施する独立行政法人が設立されることから、 独立行政法人とその出資先の会社等を公的な資金が供給されている一つの会計主体として捉え、公的な主体である独立行政法人の説明責任を果たす観点から、連結財務諸表に関する基準を新たに設定することとした。なお、独立行政法人が行う出資は主として政策目的の資金供給であり、独立行政法人と出資先企業との関係は民間企業における親子会社の関係とは基本的に異なっている。このため、独立行政法人の評価に資する財務諸表は個別財務諸表とし、連結財務諸表は、公的な主体しての説明責任の観点から作成される財務諸表と位置付けることとした。このため、独立行政法人の連結財務諸表は企業会計のそれとはその性格を異にしている」9)と 説明している。このようになったのは、当初否定的であった連結財務諸表の作成について、独立行政法人の中に、重要な子会社を持つものが多くあって、連結財務諸表がなければ全体が把握できないという実務上のニーズを無視できなかったからだと推測される。
しかしながら、もし連結情報を開示すれば、 連結の範囲に入る関連当事者間取引は相殺消去されてしまうことは、企業会計に100%準拠を前提とするならば、当然であり、それを防止するためにもあえて相殺消去となった取引等の開示を強制し、その理由を「企業会計のそれとはその性格を異にしている」ことに求めたものと思われる。このようにすることで、企業会計の連結をそのまま非営利組織の連結に導入することに対して致命的な欠陥を回避することが可能となったのである。
Ⅶ 非営利組織法人の連結導入のアプローチ
ここで独立行政法人会計基準のように、企業会計の連結とは切り離して、非営利組織法人にも連結財務諸表を導入することについて検討してみたい。
独立行政法人会計基準では、第13章 連結財務諸表、第6節関連公益法人等の取扱い、第128関連公益法人等の情報開示の箇所で、「関連公益法人等については、独立行政法人との出えん、人事、資金、技術、取引等の関係を「第7節 連結財務諸表の附属明細書、連結セグメント情報及び注記」に定めるところにより開示するものとする」と規定しており、たとえ連結財務諸表作成上相殺消去となる取引であっても開示の対象としていることは、上述のとおりである。他方、独立行政法人には持分があることから、非支配株主持分が純資産の部に計上されたとしても何ら違和感がなく、企業会計に準じた連結財務諸表を作成することに問題がない。
したがって、いくら独立行政法人会計基準を参考にしてみても、非営利組織が連結情報を導入する際の2つのハードル、すなわち①関連当事者の注記と②「非支配株主持分」表示に対する違和感のうち、そもそも持分概念のない非営利組織に②のハードルをクリアすることが困難であることに変わりがない。
Ⅷ 持分法適用の必要性と実価法適用の可能性
そこで次善の策ではあるが、連結財務諸表と同様な効果をもたらす「持分法」を非営利組織の個別財務諸表に導入することを提案したい。
「持分法」とは、投資会社が被投資会社の資本及び損益のうち投資会社に帰属する部分の変動に応じて、その投資の額を連結決算日ごとに修正する方法をいい、非連結子会社及び関連会社に対する投資については、原則として持分法 を適用することになる10)。連結に代わって持分法を適用することにより、上述の連結財務諸表を作成する場合の問題点を克服することができ、かつ非営利組織の財政状態を的確に把握することができるようになるものと思われる。
また、この考え方をさらに推し進めていくと、支配とは関係なく、すべての非上場株式について実価法を適用することも当然に視野に入ってくるのではないかと考えられるが、この点については、今後研究を続けて行くこととしたい。
[注]
1)日本公認会計士協会「非営利組織の財務報告の在り方に関する論点整理」、65~66頁、 2015年。
2)金児昭「グループ経営と連結決算」『企業会計』Vol49 No.11、中央経済社、6頁、1997年。
3)日本公認会計士協会前掲資料、66頁。
4)日本公認会計士協会前掲資料、65頁。
5)会社計算規則第112条では、関連当事者との取引に関して、注記を求めているが、連結注記表ではなく、個別注記表のみの開示である。
6)日本公認会計士協会前掲資料、27頁。
7)日本公認会計士協会前掲資料、27頁。
8)独立行政法人会計基準研究会「『独立行政法人会計基準』の設定について」、v 頁、2000年。
9)独立行政法人会計基準研究会 「『独立行政法人会計基準』の改訂について」、viii 頁、 2003年。
10)財務会計基準委員会「持分法に関する会計基準」、 2 ~ 3 頁、2008年。
(論稿提出:平成27年11月30日)
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