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税理士 永島公孝
キーワード:
収益事業課税 課税の公平 名古屋ペット葬祭訴訟
要 旨:
公益法人等(公益財団法人、公益社団法人、一般財団法人、学校法人、宗教法人、社会福 祉法人、特定非営利活動法人、特例民法法人等)に対する収益事業課税は、法人税法2条13号及び法人税法2条7号で定められ「原則非課税」となっている。課税される収益事業については、法人税法施行令5条において具体的に34業種が挙げられている。しかし、現状では政令への委任及び通達において拡大解釈ともとれる運用がなされ、実態は「原則課税」に 近い状況となってしまっていることが懸念される。本論は近年で公益法人等の収益事業課税 に関する最も重要な判決である「名古屋ペット葬祭訴訟判決」などを検証し、行政による 「拡大解釈」の実態を明らかにし、現在の収益事業課税の判定について問題提起を行い、論 点を浮かび上がらせることにより今後必要とされる課税要件への提言を試みた。
構 成:
I 曖昧な収益事業の基準
II 公益法人等の裁判例の分析
III 今後、拡大解釈が危惧される課税要件
Abstract
Profit business taxation to Nonprofit Organizations for the Benefit of the Public is set by article 2(xiii)and 2(vii)of corporation tax law. They are set as “principle tax exemption”. 34 business categories are mentioned specifically in article 5 of Order for Enforcement of the Corporation Tax Act about Profit-making business.
But itʼs practical use near a broad interpretation in commission to a government ordinance and a notification by the current state. There is fear that the reality has been the situation near “principle taxation”
This paper inspects the “Nagoya pet suit judgment of funerals” which is the most important judgment about the profit business taxation for Nonprofit Organizations for the Benefit of the Public mainly and makes the reality of the “broad interpretation” by administration clear. And This study raises an issue of judgment of the present profit business taxation and tries proposal to tax requisition which will be needed from now on.
Ⅰ 曖昧な収益事業の基準
1 法による「収益事業」の規定
公益法人等1)が行う事業が収益事業か否かと いう課税庁の判定は、法人の財政への影響が大きく、組織の存続を左右する。また、現実の法人が行う事業は多種多様であり、そのうえ、時代によって「公」の概念が大きく変わっているため、課税庁の収益事業の判定にはかなりの慎重さが求められる。
しかし、現状の法規定では収益事業とは何を指すのかについては、曖昧なものとなっていると言わざるを得ない。
そこで、まず初めに収益事業課税に関する法人税法等の規定を確認しておく。
法人税法2条13号においては、収益事業について、「販売業、製造業その他の政令で定める事業で、継続して事業場を設けて行われるものをいう。」とされている。また、同7条では 「内国法人である公益法人等又は人格のない社団等の各事業年度の所得のうち収益事業から生じた所得以外の所得については、第5条(内国 法人の課税の所得の範囲)の規定にかかわらず、 各事業年度の所得に対する法人税を課さない。」 とされている。
法人税法施行令(以下、「法令」という。)5条 では、34業種を課税対象として挙げているが、 具体的な内容については、34番目の「労働者派遣業」が明確なものとして示されているのみで、 それ以外の業種は、さらに法人税基本通達15-1-1から同15- 1 -72及び同15-2 -1から 同15-2-14によって解釈することとされている。実際には、法人税基本通達を参照し、課税庁の担当官が「収益事業」に該当するか否かを判断している。
冒頭でも述べたが、公益法人等の事業は様々である。そのため、現場では、課税する側がそれを収益事業か否か判断する場合に法解釈の幅が生じてしまい、担当官の間で混乱が生じている面も指摘されている。そこで本稿では、現在、この課税要件についてどのような解釈がなされているのかについて、近年の収益事業課税に関する裁判例を基に整理していきたい。
2 「収益事業」について争われた裁判事例
公益法人等の収益事業課税に関する裁判例は僅少である。この背景には、所管官庁の指導により税務調査の結果報告を行う傾向があること、 新聞報道によるバッシングを避ける傾向があることが考えられる。加えて、税務訴訟は異議申立・審査請求という行政手続を経て裁判に臨むために、日数がかかることなど、かなりの負担を強いられる。その結果、課税庁と当該法人の間で妥協点をさぐり修正申告を行い、訴訟を行わないことがほとんどなのである。
しかし、このように裁判事例が少ないからこそ、公益法人等の課税判断にひとつ一つの訴訟が大きな影響を与えているともいえるだろう。 本稿では、公益法人等の租税判例研究において最も大きな意味を持つとされている、宗教法人醫王山慈妙院が原告となった訴訟2)(以下、「名古屋ペット葬祭訴訟」という。)を中心に分析していく。
Ⅱ 公益法人等の裁判例の分析
1 名古屋ペット葬祭訴訟のもつ意味
名古屋ペット葬祭訴訟が、公益法人等の租税判例研究において大きな意味を持っているのは、この訴訟の「判決」がほぼ唯一先例として尊重され、やがて確立した解釈として一般に承認される「判例」とされる可能性があるからだ。
名古屋ペット葬祭訴訟の前にも公益法人等の 収益事業を巡る訴訟はあったが、それはみな「判例」には至っていない。
この名古屋ペット葬祭訴訟の特異性をみるため、一例として、千葉県流山市における特定非営利活動法人さわやか福祉の会流山ユー・アイ ネットが原告となり起こした訴訟3)(以下、「流山訴訟」という。)を先に挙げてみたい。千葉地裁の判決文における事実の概要は以下のものである。
原告は、千葉県流山市に事務所を持つ 「さわやか福祉の会流山ユー・アイネット」(特定非営利活動法人代表米山孝平氏)です。原告の前身は、平成7年6月に権利能力なき社団として設立されました。その後、平成11年4月に千葉県知事から 特定非営利活動促進法10条所定の認証を受け、同法2条2項所定の特定非営利活 動法人(NPO法人)となりました。この法人は法人税法7条所定の内国公益法人に当たります。また、原告は、それ以前から行っている「ふれあい事業」の他、平成12年2月より流山市から受託事業を、さらに同年4月からは介護保険事業を行っています。
裁判の対象となった法人税の確定申告では、松戸税務署の指導により、当初、「介護保険事業」、「流山市委託事業」、「ふれあい事業」を収益事業に該当しているとして法人税の申告で対象合算しました。平成13年5月29日、所得金額を1,184万6,001円とし、納付すべき税額を291万1,800円とする確定申告をし、納税をしました。なお原告、被告は、介護保険事業、受託事業が法人税法2条13号所 定の収益事業に該当していることについ ては、争っていません。
しかし、その後、平成13年7月3日、 原告は、「ふれあい事業」は、法人税の対象となる法人税法2条13号所定の収益事業には該当しないとして、松戸税務署長に対して、所得金額709万1,791円、納付すべき税額を155万8,000円とする、納税した税額を取り戻すための減額更正の請求を行いました。
これに対し、松戸税務署長は、平成13年12月11日、「ふれあい事業」は、収益事業の請負業に当たるとして、所得金1,018万6,046円、納付すべき税額を241万3,800円とする更正処分を行いました。
原告はこれを不服として平成13年12月28日、被告に対して、本件更正処分に対し、異議申立てをしましたが、平成14年4月5日付で、原告の異議申立てを棄却する旨の決定がでたため、同月30日、国税不服審判所長に対して、審査請求をし、その裁決が出る前の平成14年8月8日、千葉地方裁判所に本件訴訟を提起しました。すなわち、「ふれあい事業」は、法人税法7条、2条13号所定の収益事業に 該当しないにもかかわらず、それに該当するとして同事業から生じた所得に対して法人税を課税した被告の処分は違法で あるとして、争うこととしたのです4)
この流山訴訟では、被告である課税庁は、課税の根拠を営利企業等との事業競合と、請負 業・周旋業の解釈等を争点に挙げている。それに対し、特定非営利活動法人である原告は、有償ボランティア活動が収益事業ではないとする2つの意義、つまり、①公的介護保険制度が提供できない家事支援であること、また②活動する人々の動機は、経済的利益ではなく、困っている高齢者の役に立ちたい、あるいは寂しい高齢者とふれあうことによって幸せになって欲しいというものであることを主張している。千葉地裁の判決では、争点の中心である「ふれあい事業」が請負業に該当するかについて以下のように判断した。
当該事業は、原告が、会員に対し、ふれあい切符という利用券を販売することにより、一定のサービスを受ける権利を与え、利用会員は、その行使を原告に依頼し、協力会員は原告の管理の下で指示事項に従って役務提供を行い、これに対し、時間に応じた現金と等価の利用券 (1時間当たり800円相当)が支払われ、1時間当たり600円の協力会員への支払い という精算がなされる結果、1時間当たり200円相当のふれあい切符が原告に利益として残るものである事になる。そうすると、当該事業は、一定の役務を提供 して対価の支払いを受けるものであって、 法人税法施行令5条1項10号にいう請負業(事務処理の委託を受ける業を含む。)に該当する5)。
上記のように、この判決は、法令5条1項10号の請負業についての判断の解釈であり、役務提供と対価の支払いの受入れを判断基準としているため、この裁判は、争点についてだけ具体的解決を判断するのみの性質しか持っていない。 つまり、裁判所の判決は「収益事業とはなにか」という総括的なものにはなっていない。
このようなことから、名古屋のペット葬祭訴訟の注目すべき点は、収益事業そのものの解釈を示したことにある。
2 名古屋ペット葬祭訴訟
名古屋ペット葬祭訴訟は、宗教法人が行っている死亡した動物の引取り、読経、埋葬等の一連の行為について、収益事業の該当性が争点と なった。前述した流山訴訟の判決では、課税する業種に限られた当て嵌めでしかなかったが、 名古屋ペット葬祭訴訟では、一連の行為についていくつもの業種を当て嵌めていくにあたり、 総括的な収益事業の判断根拠が必要となった。 名古屋地裁の判決における「事実の概要」は、 以下のものとなっている。
宗教法人である原告は、昭和58年ころ からペット葬祭業を行っており、宗教法 人醫王山慈妙院動物霊園の名称で、境内にペット用の火葬場、墓地、納骨堂等を 設置し、引取りのための自動車を数台保有して、死亡したペットの引取り、葬儀、 火葬、埋蔵、納骨、法要等を行っているほか、本件ペット葬祭業のあらましを写真入りで説明したパンフレットを発行し、ホームページを開設するなどして、その周知に努めています。宗教法人醫王山慈 妙院によるペットの葬儀及び火葬は、ペット専用の葬式場において、人間用祭壇を用いて僧侶が読経した後、死体を火葬に付するというものであるところ、前記パンフレット及びホームページには、その料金について、動物の重さ等と火葬方法との組合せにより8,000円から5万円の範囲で金額を定めた表が「料金表」 等の表題のもとに掲載されています。この表は、原告の代表役員が、同様の事業を行う有限会社の料金表を参考にして作成しています。また、前記ホームページには、「上記は一式全てを含む費用です (引取り、お迎え費用等は別)」との記載があります。なお、宗教法人醫王山慈妙院 によるペットの葬祭を希望する者が原告の自動車でペットの死体を引き取ってもらうときには、3,000円の支払いを求められています6)。
この裁判で課税庁は、収益事業判断基準として 2 つのものを挙げている。ひとつめが当該事業と一般事業者が行っている事業との類似性の 有無・程度、2つめが、当該事業で提供されるサービス・物品等の性質・態様等の諸般の事情を国民の社会的文化的意識を基礎とする社会通念に照らし、課税の公平性という制度趣旨を勘 案するということだ。判決では以下のように名古屋地方裁判所が被告側の主張を認める形となった。
法人税法上の特掲事業該当性は、当事者が当該行為に宗教的意義を見いだし、 あるいはその外形を取ることによって直ちに否定されるべきものではなく、これを取り巻く具体的諸事情をも総合的に考慮し、一般事業者の類似事業と比較しつつ、社会通念に従って、財貨移転が任意になされる性質のものか否かを判断して 決せられるべきものである。しかるところ、原告のペット葬祭業は、(中略)「料金表」ないし「供養料」の表題の下に、3 種類の葬儀内容と動物の重さの組み合わせに応じた確定金額から成る表を定め、ホームページにも同様の表を明示的に掲載していること、ペット葬祭依頼者のほとんどが、あらかじめホームページなどを通じ、あるいは依頼時に同表を示されるなどして同表の存在を認識し、実際にも同表に記載された金員を支払っていたこと、ペット葬祭を実施する民間業者が 多数存在しており、その料金システムは 原告のものと極めて類似していることな どに照らせば、原告のペット葬祭業においては、依頼者は、原告がその支払う金員に対応する葬祭行為をするものと期待し、原告も、その提供する葬祭行為に対応する金員が支払われるものと期待しているというべきであるから、依頼者の支払う金員が任意のものであるとは到底解されず、両者の間に対価関係を肯認するのが相当である7)。
そして、控訴審である名古屋高等裁判所の判決もまた控訴人の請求を認めず、原判決の判断は正当であると判断した。さらに、その後の上告審である最高裁の判決でも控訴人の請求を棄却しているが、その宗教法人の代理人の上告受理申立理由について、以下のように判断している。
本件ペット葬祭業は、外形的に見ると、請負業、倉庫業及び物品販売業並びにその性質上これらの事業に付随して行われる行為の形態を有するものと認められる。法人税法が、公益法人等の所得のうち収益事業から生じた所得について、同種の事業を行うその他の内国法人との競争条件の平等を図り、課税の公平を確保するなどの観点からこれを課税の対象としていることにかんがみれば、宗教法人の行う上記のような形態を有する事業が法人 税法施行令5条1項10号の請負業等に該当するか否かについては、事業に伴う財貨の移転が役務等の対価の支払いとして行われる性質のものか、それとも役務等の対価でなく喜捨等の性格を有するものか、また、当該事業が宗教法人以外の法人の一般的に行う事業と競合するものか否か等の観点を踏まえた上で、当該事業の目的、内容、態様等の諸事情を社会通念に照らして総合的に検討して判断するのが相当である8) 。
※下線については後述する
ここで、最高裁は4つの収益事業該当性の判断基準を挙げていることが分かる。
まずひとつ目は、外形的にみて、請負業等の事業に付随行為となるかということ。つぎに、 収益事業から生じた所得について、競争条件の平等・課税の公平の確保をする観点から判断するということ。3つ目は、当該事業が宗教法人以外の一般的に行う事業等と競合するものか否かの観点から判断するということ。さいごに、実社会において、収益事業として位置付けられるか否かを当該事業の目的、内容、態様等の諸 事情を社会通念に照らして総合的に判断することとしている。このように、初めて最高裁の判決によって、総括的な収益事業の判定に関する法解釈が示されたのである。
3 名古屋ペット葬祭訴訟判決の影響
この最高裁の判決は、その後の公益法人等の収益事業課税に関する判決で引用されている。それは、北海道の石狩市において、法人税の収益事業の物品販売業、不動産貸付業にあたるかを争う訴訟である。この訴訟の「事実の概要」 は、以下のとおりである。
原告は、昭和55年4月23日に設立された宗教法人であり、北海道石狩市内に主たる事務所を置き、霊園を経営しています。本件霊園の使用を申し込む者(以下は、「使用者」という。)は、「申込書」と題する書面(以下「本件申込書」という。)の裏面に記載された使用規定に定められた内容に同意した上で、本件申込書により本件霊園の使用等を原告に対して申込み、永代使用料等を納付して、本件霊園 の「墳墓所」の永代使用及び霊園施設の随時利用の権利を取得するとなっています。使用者は、使用規定に基づいて「墳墓所」の永代使用及び霊園施設の随時使用の権利を取得するために負担する金銭並びに霊園の維持管理に要する管理料を支払います9)。
ここでは、墓地の墓石・カロート(遺骨を納めるために墓石の下に設置されるコンクリ-ト製の設置物)の代金が永代使用料に含まれていたことが争点となった。東京地方裁判所平成24年1月24日判決は以下のものとして、原告である宗教法人は敗訴している。
公益法人等が行う収益事業が、当該公益法人等の本来の目的の一部をなし、あるいは本来の目的と密接に関連するものであっても、そのことから直ちに当該事業から生じた収益が非課税となるものではなく、当該事業に伴う財貨の移転が役務等の対価の支払として行われる性質のものか、それとも喜捨等の性格を有するものか、また、当該事業が宗教法人以外の法人の一般的に行う事業と競合するものか否か等の観点を踏まえた上で、当該事業の目的、内容、態様等の諸事情を社会通念に照らして総合的に判断するのが 相当である10)。
ここで注目すべきことは、上記に付した下線の箇所は、その前に引用した名古屋ペット葬祭訴訟の最高裁判決の下線部を引用したものとなっていることである。しかし、このことをして、名古屋ペット葬祭訴訟の最高裁判決が「公益法人等をめぐる収益事業該当性」の「判例」 となると考えても良いだろうか。
これについて筆者は、公益法人等ではなく、そのなかの宗教法人が行う事業についての収益事業該当性に限定するべきと考える。なぜなら、名古屋の宗教法人ペット葬祭訴訟の最高裁判決、北海道の宗教法人の東京地裁判決の2つの判決をみていくと、両判決ともに檀家以外の者が支払った会館利用料を巡っては席貸業の認定をし、そして、その後の宗教法人の国税不服審判所平成25年1月22日裁決11)でもふたつの判決と同様 に「対価」と「喜捨」の基準を採用している。これらの理由により、「対価」と「喜捨」の基準は、宗教法人の収益事業該当性のみの判断基準とすべきである。
名古屋ペット葬祭訴訟における最高裁判決が 示した「対価」と「喜捨」の基準は、宗教法人以外の公益法人等の事例の「公益法人等の収益 事業該当性の基準」とまではならないと結論付けることができる。
Ⅲ 今後、拡大解釈が危惧される課税要件
ここまで収益事業の判決内容をいくつか見てきたが、現状では、それぞれの紛争解決を目的としており、一義的にはとらえにくいため、公益法人等全体として一般化することは難しい。しかし最後に、ここまで裁判事例を検証したなかで、今後、収益事業の判断に関して危惧される2つの点を指摘して本稿を締めくくりたい。
まずひとつ目の指摘は、流山訴訟の千葉地裁の判決における、法人税法7条の公益法人等の所得のうち収益事業から生じた所得を課税対象 としている趣旨についてである。これは以下のようになっている。
公益法人等が、営利法人等と同様に営利事業を営んでこれと競合する場合に、 この所得について非課税とすると課税の公平が失われることから、これを是正することにある12)。
公益法人等は、本質的に公益を目的としてい るはずであり、一般的な営利法人と同様の課税を行うことが適当ではないため、この判決では、法人税法 7 条の収益事業課税の意義について、非課税とすると、競合している営利法人等との課税の公平が失われるため、競合の状況を是正することにあるとしている。
しかし、ここで判然としないのは、この競合の状況は誰がどう解釈しているのか、ということである。そのように考えると、民間業者が少ない場合は競合をどのように判断するのかと いったように具体的な要件を規定しないことに は、「収益事業」の概念は曖昧となり、競合・ 課税の公平を斟酌することにより収益事業が課税庁によって、意図的に拡大解釈されることにつながることが危惧される。
次の指摘は、収益事業の範囲を定める法人税法施行令5条1項の解釈についてである。同千葉地裁判決においては、以下のようにある。
法人税法2条13号は、同法にいう「収益事業」を、「販売業、製造業その他の政令で定める事業で、継続して事業場を設けて営まれるものをいう。」と定めて、 販売業、製造業以外については、具体的な収益事業の範囲の定めを政令に委任しているが、前記のとおり公益法人等の収益事業の範囲の定めを政令に委任した趣旨は、公益法人等の事業実態や営利法人等との事業の競合関係が、社会状況や経済情勢の変化に伴って変化することに鑑みて、その変化に対応して機動的かつ適切に収益事業の範囲を定め、課税上の公平の維持を図ることにあると解されるから、同号の委任を受けて、収益事業の範囲を定める法人税法施行令5条1項の解釈をするにあたっては、このような法人税法7条及び2条13号の趣旨をも斟酌して、その文言を合理的に解釈すべきである13)。
つまり、法人税法7条及び同2条13号の趣旨をも考慮して、その文言を合理的に解釈することとされている。この一方で、名古屋ペット葬祭訴訟の最高裁の判決では、以下のようになっている。
法人税法施行令5条1項10号の請負業等に該当するか否かについては、事業に伴う財貨の移転が役務等の対価の旨派生として行われる性質のものか、それとも役務等の対価でなく、喜捨等の性格を有するものか、また、当該事業が収益法人以外の法人の一般的に行う事業と競合するものか否か等の観点を踏まえた上で、当該事業の目的、内容、態様等の諸事情を社会通念に照らして総合的に検討して 判断するのが相当である14)。
ここでは、①事業に伴う財貨の移転が役務等の対価として支払われるもの(対価性、喜捨性)、 ②その事業が宗教法人以外の法人の一般的に行う事業と競合するもの、が要件とされている。 ①については、同判決で「本件ペット葬祭業においては、原告の提供する役務等に対して料金 表等により一定の金額が定められ、依頼者がその金額を支払っているものとみられる。したがって、これらに伴う金員の移転は、原告の提供する役務等の対価の支払として行われる性質のものとみるのが相当であ」るとして、最高裁は、料金表等により一定の金額設定がされてい ることで対価性があると認定している。請負業の範囲に事務処理委託が含まれていることで課税範囲が広がっているが、そのうえに対価の要件を持ち出している。このことは、他の寶松院 に関する訴訟15)、帝京大学に関する訴訟16)でも 「対価」という言葉が使われている。しかし、「対価」の意味の統一的な解釈はなく、もとも と「対価」の用語は課税要件には含まれてはい ない。
以上の2点については、現状、「収益事業」 の判断について、法的な根拠としては曖昧なままで見方によっては拡大解釈しているようにみえる。このような現状では、課税庁が恣意的に収益事業を判断することも許容することになり、結果的に自由な公益活動を阻害してしまっているといえる。今後、公益法人等の裁判事例や議論が積み重ねられ、法人の活動に即した法的整備が進むことが求められている。
[注]
1)ここで対象となっているのは、公益法人等と人格のない社団等(法人税法第7条)である。この公益法人等は、法人税法第 2 条第6号にある「別表第二に掲げる法人」をいい、それは、一般財団法人(非営利型法人に該当する もの)(以下、「非営利型法人」という)、一 般社団法人(非営利型法人 に該当するもの)、 公益財団法人、公益社団法人、学校法人、宗 教法人、社会福祉法人、特定非営利活動法人、 特例民法法人 等がある。
2)名古屋地裁平成17年3月24日判決(TAINS Z888-0975)、名古屋高裁平成18年3月7日判決(同控訴審)、最高裁平成20年8月12日 判決(上告審)。
3)千葉地裁平成16年4月2日判決、東京高裁平 成16年11月17日判決(『税務通信』2896号)。
4)千葉地裁平成16年4月2日判決(『訟務月報』 (法務省大臣官房訟務部)51巻5号、2000頁)。
5)同上。
6)名古屋地裁平成17年3月24日判決。
7)同上。
8)最高裁平成20年8月12日判決。
9)東京地裁平成24年1月24日判決。
10)同上。
11)国税不服審判所平成25年1月22日裁決 (TAINS J90- 5-14)。
12)千葉地裁平成16年4月2日判決。
13)同上。
14)最高裁平成20年8月12日判決。
15)東京地裁平成15年5月15日判決、東京高裁平成16年3月30日判決。製薬会社から学校法 人への寄附金、治験等に係る役務提供の対価をめぐる事件。原告は、医学部、附属病院、 薬学部等を擁する学校法人である。学校法人は、製薬会社からの委託に基づいて、治験、 委託研究を行っていた。製薬会社から受領した金員を、製薬会社等との寄附の合意に基づ き、寄附金として認識していた。これに対し、課税庁は、寄附金のなかに治験等に係る役務 提供の対価として支払われた金員が存在しているとして課税処分を行った。
16)東京地裁平成7年1月27日判決、東京高裁 平成7年10月19日判決。宗教法人寶松院にお ける譲渡承諾料が収益事業に係る収入か非収益事業に係る収入なのかが争点となった。
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(論稿提出:平成27年11月30日)
(加筆修正:平成28年 3 月30日)
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