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≪研究ノート≫同窓会誌情報を活用した大学と卒業生間の紐帯の強さの定量分析 / 津曲達也(九州大学大学院博士後期課程)

更新日:2022年12月14日

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九州大学大学院博士後期課程 津曲達也


キーワード:

大学同窓会 紐帯の強さ アフィリエーション・ネットワーク 大学同窓会誌 会合記録 定量分析


要 旨:

 大学と卒業生のつながりに関する従来の研究は定性的なものであった。本研究は、大学同窓会を媒介とした大学と卒業生のつながりを、アフィリエーション・ネットワークと紐帯の理論に基づいて定量的に明らかにすることを目的とする。会合記録に欠損がみられなかった1960年代の大学の一同窓会を分析対象とし、同窓会誌に掲載されている会合記録の参加者氏名および開催日時の情報をもとに、大学関係者と卒業生の紐帯の強さを定量的に検討した。分析の結果、大学と卒業生の間の紐帯は全体的に弱いものの、卒業生は非会員である大学関係者よりも会員である大学関係者とより強い紐帯を維持して接触していることが明らかとなった。本研究は、卒業生の大学への資金援助行動の構造を解明するための土台を提供するものである。


構 成:

Ⅰ はじめに

Ⅱ 大学同窓会参加者間の紐帯の強さ

Ⅲ 定量分析に向けた準備

Ⅳ 大学と卒業生との紐帯の強さの定義と定量分析

Ⅴ おわりに


Abstract

 Previous research on the connection between universities and graduates has been qualitative. The purpose of this study is to analyze quantitatively the connection between a university and its alumni by examining the university alumni association using the affiliation network and tie theory. A university alumni association of the 1960’s with few loss of meeting records was analyzed. The information regarding participant names and dates of meeting records published in the university alumni magazine was used to quantitatively analyze the strength of ties between the university and its alumni. The results showed that although the strength of ties between the university and its alumni was weak, university faculty who were members of the alumni and the alumni maintained stronger ties than university faculty who were not members of the alumni. This study provides a foundation for elucidating the structure of donation behaviors of university alumni to universities.


 

Ⅰ はじめに

 大学を取り巻く環境は大きく変化してきている。特に、少子化やグローバル化による学生獲得競争が激化していることや、国からの財政的援助が縮小されていることから、経営環境の悪化に直面する大学が増えてきている。こうした状況を受け、大学が卒業生の組織する大学同窓会に着目する動きが近年強まってきている(大川他[2012、2015、2016]、高田[2012、2014、2015])。本研究では、これまで定性的にしか考察されてこなかった大学と大学同窓会に所属する卒業生とのつながりを定量的に検討し、大学同窓会研究の発展を試みる。

 天野[2000]によれば、わが国の大学同窓会は、大学創立と同時期、明治初期には卒業生の親睦を深めることを目的に結成された。この当時の大学は国によって地位を保証されていた旧帝国大学を除き、社会的地位や経営基盤が確立していない状況にあり、さらに大学の資金源は授業料のみであった。そのため、大学同窓会は大学の社会的地位や経営基盤の確立のため、資金面を中心として大学を支え、大学の成長と発展に向け、大学と密接な関係にあった。この関係は、大正7年の大学令の発令によって転機が訪れる。大学令によって当時専門学校であったどの大学にも「正規の大学」への道が開かれることになった。

 「正規の大学」となるには莫大な資金が必要であった。大学同窓会の支えだけでは不十分であったため、大学は資金不足解消のため学生増加の手段をとった。学生の増加は唯一の手段ではあったが、これが大学同窓会との関係を疎遠にする原因となった。戦後、進学率の上昇、官立大学の合併を経て、大学の社会的地位や経営基盤が安定化していくと、大学同窓会は卒業生間の親睦を主とする団体へと変化していった。戦後、親睦団体としての性質を強めつつ、大学同窓会は大学との関係を希薄化させていく。

 ところが、近年になって、経営環境の悪化に伴い、資金援助や在学生への学習・就職支援、地域事業への関与といった観点から、大学は卒業生やそれらが所属する大学同窓会に対して期待を高めている。こうした期待を具体化していくには大学と卒業生との間のつながりが重要であると認識されているが(喜多村[1990]、大川[2016])、大学と卒業生のつながりについての従来の研究は定性的であり(腰越他[2006]、原[2016])、そうしたつながりが資金援助等へと転換される構造やメカニズムを解明するには、定量的な観点で、大学同窓会研究を拡張させる必要がある。本研究は、大学と卒業生のつながりの実態を定量的に分析することを試みるものである。

 定量分析に向け、定期発行されている大学同窓会誌に着目する。大学同窓会誌には会合記録などが掲載されており、卒業生のミクロな動きを読み取ることができる。そうした情報が、これまで組織的に活用されることはなかった。本稿では、大学同窓会誌を情報源にして、大学と卒業生のつながりの強さの計量化を行う。分析を行うには、長期にわたり大学同窓会誌に欠損がなく、会合記録が掲載されている団体である必要がある。この条件に該当する調査対象として、1960年代の早稲田大学の一同窓会を選定した。

 1960年代は大学大衆化の過渡期にあり、この時代の大学同窓会は天野[2000]が指摘する親睦団体の性質を持っていた。この時期1961年から1967年に、早稲田大学は法人や卒業生等に対し20億円規模の寄付事業を計画し(早稲田学報708号)、それを達成している(早稲田学報770号、井原[2006])。現在の大学同窓会と類似の性質を持ち、大学と卒業生との関係もすでに希薄となっていた時期に、計画した募金を達成させた早稲田大学の同窓会は、卒業生による資金援助を考えていく上でのモデルケースとして興味深い調査対象である。


Ⅱ 大学同窓会参加者間の紐帯の強さ

1 定量化手法の概要

 本稿では、Ⅳで述べる大学と卒業生とのつながりの強さを、大学同窓会の参加者間のつながりの強さを使って定義する。前者のつながりの強さを計算するには、後者のつながりの強さが定量的に評価できなければならない。本稿では、「紐帯の強さ(Granovetter[1973])」の概念を導入し、これを使って参加者同士のつながりの強さを定義する。紐帯の強さの計算には、大学同窓会誌に掲載された会合記録情報を活用する。ただし、紐帯の強さは、会合の参加者情報から直接的に算出することはできない。このため、本稿では、会合記録情報を、一旦アフィリエーション・ネットワーク(金光[2003];Breiger[1974])のデータに変換し、そのデータに会合開催時点の情報を加え作成したグラフ上で紐帯の強さを定義する方法を採った。以下、混乱しないところではアフィリエーション・ネット―ワークは「AN」と略記する。


2 紐帯の強さの算出方法

⑴ ANデータの生成

 アフィリエーション・ネットワークとは、社会ネットワーク分析において個人と組織の二重性、相互規定性メカニズムの解明に向けたリンケージ型モデル化(金光[2003])の1つである。本稿では、会合記録に記載される個々人の参加情報を統合することを目的としてこのモデルを採用した。ノードを個人と会合、エッジを参加と定義したANデータを生成する。

 なお、会合記録からのANデータ生成には処理すべき問題がある。各々の会合記録は個別に寄稿され、それを大学同窓会誌編集者が会誌に記載している。そのため、会合記録には、記録者の文字の記載ミスから生まれる「記載のばらつき」(港他[2010])と「同姓同名問題」という問題が含まれている。「記載のばらつき」とは、例えば、同一人物であるにも関らず「齋藤太郎」「斉藤太郎」のように異なる表記で記載されているケースが該当する。本稿では、個人に関する情報の付加によって1字違い以内の氏名を同一視する港他[2010]の方法を参考にして、会合記録に含まれる2つの情報(分析対象である同窓会の会員か否か、参加した会合日時)を用いて上記問題に対処した。

⑵ 紐帯の強さの算出

 Granovetterによれば、紐帯の強さは「ともに過ごす時間量、情緒的な強度、親密さ(秘密を打ち明け合うこと)、助け合いの程度、という4次元を(おそらく線形的に)組み合わせたものである」(Granovetter[1973]大岡訳[2006]125頁)。しかしながら、多義的であるがゆえに、4次元で扱うことは理論の一貫性を損なう可能性が指摘されている(盛山[1985])。Granovetterも転職・就職情報獲得の実証研究において、紐帯の強さのカテゴリーを「接触頻度」のみ使用して定義している。本稿においても、前述したGranovetterの「時間量」の操作的定義を参考に1次元に限定し、AN上で幾何学的に紐帯の強さを定義する。紐帯の強さは、2個人が接触した時点をいつの時点で観測するかで変化する。接触した直後でそれを見れば紐帯は強いだろうし、遠い過去の接触であれば弱いものになる。したがって、本稿では、2個人が会合で接触した時点(接触時点)の情報と2個人が接触した会合数(接触回数)を勘案し、紐帯の強さを算出することにした。ANグラフを使って具体的にこのことを以下で説明する。

 図表1は増田[2012]の時間の情報を組み込んだネットワーク・グラフを参考に、2個人の接触状況を幾何学的に表現したANグラフである。図表1では2個人AとBが時点t1とt2で共に会合に参加している。図表1で、Aのt1時点(以下A[t1]と記す)とB[t1]を結んだ線分と、A[t2]とB[t2]を結んだ線分の長さは等しいものとする。すなわち、どの会合も接触の程度に差はなく同等のものと仮定する。また、観測時点t3のBから対象とする接触時点t2のAへの距離を考える際、具体的にはB[t3]→B[t2]→A[t2]という経路の長さで考えるが、経路は、対象とする接触時点の会合のパスを通る最短経路で考えるものとする。


図表1 時間軸を加えたANグラフ

出典 増田[2012]図1を参考に作成


 Granovetterによれば観測時点と対象とする接触時点の時間差が長くなるほど紐帯は弱くなる。したがって、紐帯の強さは観測時点(始点)と対象の接触時点(終点)とを結ぶ直線の長さLに直接的に関係するであろう。ここで、図表1において、ひとつの会合での2個人の接触の長さを1、また時間軸について観測時点と接触時点の時間差を⊿tとしたとき、Lに相当する2個人間の距離Dを次の無次元量で定義する。

 ここでTは、紐帯の強さが半減する時間として定めるものである。次節で具体的な事例についての計算結果を述べるが、そこでは時間を月単位で表現している。その際、便宜的に、紐帯の強さが半減する期間を6ヶ月として、T=6と定めた。

 以上より、観測時点toからみた接触時点tc(= to —⊿t)の会合を介し接触する2個人の紐帯の強さTieは

と定義できる。

 ここで、もう一度図表1に着目しよう。AとBは2度の会合で接触している。この時の2個人の紐帯の強さを得るためには、観測時点までの2個人の接触回数を考慮し、各接触時点で得た紐帯の強さを合計する必要がある。2個人のn回目の接触時点をtc,n(1≦n≦N)とし、観測時点to前の直近の接触時点がn = M(≦N)であるとき、2個人の紐帯の強さは個別の紐帯の強さの総和として次式で表される。

 ただし、観測時点以前に接触がない場合は紐帯の強さは0と定義する。

 この定義を、ANデータと連関させて任意の個人間についての紐帯の強さを求めていくことになる。ただし、ANデータには、観測時点以後のデータも含まれているため、観測時点前の2個人がともに参加している会合の情報を抽出し、定義式⑶を適用することになる。


Ⅲ 定量分析に向けた準備

1 対象とした同窓会の概要

 分析対象となる大学同窓会は、分析する期間に亘って会合記録の欠損がないことが条件になる。これは、本分析手法が、会合記録情報を手掛かりにANデータを生成するためである。この理由とⅠで述べた理由等から、本稿では、1957年12月から1967年8月までの約10年間における早稲田大学の一同窓会「同窓会A」を定量分析の対象とした。

 同窓会Aは卒業年が同じ卒業生によって設立された同窓会で、連続した2つの卒業年の卒業生による合同の同窓会である。同窓会Aから抽出した約10年間分の記録は、同窓会Aに所属する卒業生らの卒業後30〜40年にあたる。同窓会Aの正確な会員数は不明であるが、参考としてこの2つの卒業年の卒業生数は合計で1,505人であった。

 1958年1月号から1967年8月号の「催・会合・その他」に掲載された会合記録を利用した。会合記録には、開催日時、会合の内容、参加者氏名などの情報がある。同窓会Aの対象期間における会合及び参加人数推移を図表2に示す。会合は約月1回の頻度で、計96回行われていた。総参加人数は385人であり、1回の会合における参加人数は最大97人、最小8人であった。また、1回の会合あたりの参加人数の平均は24人であった。図表2において参加人数が突出している会合は会員や同窓会に関する祝賀会である。


図表2 同窓会Aの会合および参加人数推移(1957年12月~1967年8月)


2 本分析で扱う変数の定義

 『早稲田学報』には、役員名簿や会合記録などが掲載されている。役員名簿では大学の教員等情報、会合記録からは、開催日時、会合の内容、参加者氏名などの情報を読み取ることができる。本稿で用いる変数「大学関係者」「卒業生」「紐帯の強さ」は『早稲田学報』に掲載される情報を用いて次の通り定義する。



⑴ 大学関係者  『早稲田学報』1961年1月号の「募金実行委員 学内」(32-36頁)に掲載される510人のリストを参照し、その氏名と一致する個人を「大学関係者」と定義する。該当者は32人であった。なお、大学関係者には、同窓生会員である卒業生も含まれている。このため、同窓会会員である人物を「大学関係者(会員)」、また同窓会に来賓として参加する人物を「大学関係者(来賓)」として区別した。

 ① 大学関係者(会員)
   『早稲田学報』の同窓会Aに関する会合記録の会合内容または出席者情報に参加者についての来賓情報が記載されており、この情報をもとに判断する。ただし、会合内容が同窓会や会員に関する祝賀会である場合、会員が来賓として扱われる場合がある。そのため、本分析では観察する96の会合において大学関係者が一度でも会員として参加が確認された場合、該当する大学関係者を大学関係者(会員)と定義する。該当者は19人であった。
 ② 大学関係者(来賓)
   会合記録の会合内容または出席者情報すべてに来賓情報が記載されている場合、大学関係者(来賓)と定義する。該当者は13人であった。
⑵ 卒業生
 大学関係者の条件を満たさない個人を卒業生と定義する。該当者は353人であった。
⑶ 紐帯の強さ
 個人間の紐帯の強さは前節で述べた方法により算出する。

3 抽出データの観測開始点問題

 同窓会Aから約10年分抽出した会合記録のデータは、最初の会合が1957年12月14日であった。紐帯の強さを計算する際、データ開始点についての処理方法が課題となる。人々は、データの抽出開始時点前から会合には参加していたと想定される。例えば1957年12月14日を観測時点とした場合、それより前の会合の記録が欠落しているため、妥当な紐帯の強さを計算することができない。そのため、ここでは次のようにしてこの問題を回避した。

 Granovetterは「年に1回以下」会う場合を紐帯の強さのもっとも弱いカテゴリーとして定義している。これを次のように解釈する。データ開始点問題に対し、1年以上会わない場合、紐帯の強さを0とみなせるとする。このように考えることで、開始点の1年後1958年12月15日の会合から観測を開始すれば、1957年12月14日前のデータが欠落している問題はおおよそ回避できる。


4 紐帯の強さの値について

 本分析において、大学関係者と卒業生の紐帯の強さの観察の補助にGranovetterの「接触頻度」に基づく定義を利用する。Granovetterは、「頻繁に会う」は週2回以上、「ときどき会う」が年に2回以上かつ週2回未満、「めったに会わない」が年に1回以下と、接触頻度を3つの区分で定義している。これらの接触頻度を本稿で定義した紐帯の強さの定義式⑶で算出した値と3区分との関係を図表3に示す。

 Granovetterは、紐帯の強さのカテゴリーとして、「頻繁に会う」を「強い紐帯」、「ときどき会う」と「めったに会わない」を「弱い紐帯」としている。


図表3 接触頻度区分と数値範囲


Ⅳ 大学と卒業生との紐帯の強さの定義と定量分析

 大学の卒業生に対する期待として、大学への資金援助、在学生への学習・就職支援、卒業生を通じた産業・地域事業との関わりなどがある。卒業生の同窓会への参加行動がどのような水準にある時に、こうした期待に該当する行動へと転換していくのか、その構造を明らかにしていくことは興味深いことである。このため本稿では、卒業生全体ではなく、同窓会に参加する卒業生に注目し、その紐帯の強さを検討する。

 以上より、本稿では、対象期間内において大学同窓会会合に参加する卒業生を対象に大学関係者との間の紐帯の強さを考え、それを定義式⑶によって計算する。そして、大学と卒業生の紐帯の強さは、観測時点で得られるその会合に参加していた大学関係者と卒業生との間の紐帯の強さの平均値として定義する。

 この定義のもと、前節で述べた同窓会Aについて1958年12月から1967年8月までの大学と卒業生との紐帯の強さの推移を求めたのが図表4である。これは同窓会会合が開かれた時点を観測時点として、会合に参加した卒業生と大学関係者との間の紐帯の強さの平均値を○と■印でプロットしている。なお、○印は「大学関係者(会員)」、■印は「大学関係者(来賓)」との間の紐帯の強さの平均値を表している。参考として図表3で示したGranovetterの3区分でもっとも弱い紐帯に相当する上限値(0.28)も図表4上に点線で示した。


図表4 大学関係者と卒業生の紐帯の強さの推移(1958年12月~1967年8月)


 対象とした同窓会Aでは、大学と卒業生の紐帯の強さを58時点で観測できた。この中で、紐帯の強さの最大値は1962年4月13日の2.02であり、全ての値がGranovetterの3区分定義「頻繁に会う」の下限値(28.02)を大きく下回っており、紐帯の強さは最大値2.02、最小値0の間に分布する弱い水準にあった。大学と卒業生との関係が希薄化していたと定性的には認識されていたが、その水準は、弱い紐帯とGranovetterが呼ぶカテゴリーの上限値から1桁も下の領域に分布する極めて弱い関係にあったことが本分析から明らかになった。

 次に、大学関係者(会員)及び大学関係者(来賓)についてそれぞれ個別にみてみる。まず、大学関係者(会員)と卒業生の紐帯の強さは56時点で観測できた。56時点において値は最大値2.02、最小値0の区間に分布している。Granovetterの3区分「めったに会わない」の上限値である0.28を基準に観察すると、56時点中37時点が「めったに会わない」の上限値を超えていた。これより、大学関係者(会員)は「めったに会わない」の上限値を少し超えた紐帯の強さで卒業生との関係が維持されていることが明らかとなった。

 続いて、大学関係者(来賓)と卒業生の紐帯の強さは5時点で観測できた。5時点全てにおいて値は0であり、これはGranovetterの3区分の「めったに会わない」の下限値と同一であった。これは、大学関係者(来賓)は各々初めてその会合に参加し、その後同窓会に訪れることはないということを意味する。すなわち、大学関係者(来賓)と卒業生は、紐帯を強くしていくような関係ではないことが明らかとなった。


Ⅴ おわりに

 本稿では、大学同窓会誌に掲載される会合記録を組織的に活用して、早稲田大学の特定の同窓会を事例に、大学同窓会を媒介とする大学と卒業生の紐帯の強さの実態について定量分析を行った。その結果、大学同窓会が親睦団体であった1960年代、大学同窓会に参加した大学関係者と卒業生との紐帯の強さは、極めて弱い水準であることがわかった。弱い水準であることは、従来から関係の希薄化として定性的には指摘されてきたことであるが、弱さがどの水準であったのかを本分析によって定量的に示した。また、この分析によって、同窓会会員として参加する大学関係者は、Granovetterの定義においてもっとも弱い紐帯に分類される「めったに会わない」の上限値を少し超えた紐帯の強さで卒業生との関係を維持していること、そして、来賓として参加する大学関係者は1度きりのつながりであり、同一人物による関係の発展はみられないという事実が明らかになった。

 以上、従来の同窓会研究において定性的な把握に留まっていた大学と卒業生との紐帯の強さを、本研究で定量的に示した。今後、次の発展が期待される。

 卒業生に対する大学の期待のひとつは「大学への資金援助」である。本稿で分析の対象とした1960年代は早稲田大学が創立80周年記念事業として20億円規模の寄付事業を行った時期である。この時の大学同窓会は、現在同様の親睦団体として機能しており、同窓会を媒介とした大学と卒業生とのつながりは極めて弱い関係にあった。弱い関係であったにも関わらず、計画に沿った寄付が達成されている。大学同窓会を媒介とした大学と卒業生との紐帯の強さと資金援助行動とはどのような関係にあり、どのような構造を持っているのか、その解明は興味深い。本研究は、大学同窓会研究をそうした定量分析へと展開していく土台を提供するものである。


[謝辞]

 日頃より研究について支援いただき、さらに本稿においても貴重な助言をいただいた九州大学大学院比較社会文化研究院三隅一人教授および非営利法人研究学会九州部会の皆さまに感謝の意を表します。また有益なコメントを頂いた査読者に感謝の意を表します。

 

[参考文献]

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論稿提出:平成29年11月26日

加筆修正:平成30年 4 月 7 日



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