top of page
事務局

≪査読付研究ノート≫大阪市の孤立死の現状と2 地域における孤立死対策の比較 / 小川寛子 (京都産業大学大学院博士後期課程)

更新日:6月11日

PDFファイル版はこちら

※表示されたPDFのファイル名はサーバーの仕様上、固有の名称となっています。

 ダウンロードされる場合は、別名で保存してください。


京都産業大学大学院博士後期課程 小川寛子


キーワード

社会的孤立 孤立死 組織間協働 森之宮スマートエイジング 西成特区構想


要 旨

 近年、社会が大きく変化し、共生社会の核となる地域コミュニティが希薄化し、コミュニティの維持が困難となってきている。また、独居者が増え、孤立死も増加の傾向にある。本論においては、孤立死の状況について死亡者の生活や発見の状況から高リスク者の要因を明らかにした。次に孤立死対策の事例を検討し、組織間協働の必要性を考察する。


構 成

Ⅰ はじめに

Ⅱ 大阪市の孤立死の現状

Ⅲ 2 つの地域に対する孤立死対策事例

Ⅳ 2 地域における対策の比較

Ⅴ おわりに


Abstract

In recent years, society has changed significantly, with local communities that are central to acohesive society becoming tenuous and communities becoming harder to maintain. More peopleare living alone and the amount of people dying is increasing. This paper discusses the situationaround people dying alone, uncovering the factors behind people who are at higher risk of doingso based on their lifestyles, and the situation at the time of discovery of the deceased. Next,consider cases of the isolated death countermeasures and consider the need for the collaborationbetween organizations.


※ 本研究ノートは学会誌編集委員会の査読のうえ、掲載されたものです。


Ⅰ はじめに

 わが国では、近年急速に高齢化が進み、65歳以上の者の割合が、1950年には5 %に満たなかったが、その後高齢化率は上昇を続け2019年には28.4% 1 )に達している。一方で出生率は低下を続け、社会の担い手である現役世代の人口が減少すると見込まれている。1950年では1 人の65歳以上に対して12.1人の現役世代(15〜64歳)がいたのに対して、2015年では2.3人、2065年では1.3人の現役世代の比率になると予想されている。現役世代の減少は、今後の医療や介護の担い手不足にも繋がり、必要な医療や介護のケアが受けられなくなる可能性も考えられる。

 また、近年家族のあり様も大きく変化し、1980年では65歳以上の者がいる世帯構成の中で3 世代同居の割合が全体の約半数を占めていたが、2018年には夫婦のみの世帯と単独世帯を合わせて約6 割近くとなっており、高齢者の1 人暮らしの割合が大きくなってきている。生涯独身者の数も増えてきており、全世帯に占める独居世帯の割合は、男性13.3 %、女性21.1 % となっている2 )

 少子高齢化や独居世帯の増加などの問題と相まって、支え合いの補完的役割を担ってきた隣組的地域コミュニティについても、役員の高齢化や人との関係性の希薄化などによりコミュニティの維持も難しくなってきている。人との関係性が希薄になるにつれ、社会的孤立や孤立死の問題も顕在化し、大きな社会問題となっている。

 本論では、大阪市内の孤立死の現状を把握し、孤立死の要因は何かについて明らかにするとともに、孤立死対策に実際に取り組んでいる事例について比較検討を進めていく。


Ⅱ 孤立死の現状

 孤立死対策を考察するうえにおいて、まずは実態把握を行うことが重要となってくる。現状では孤立死の定義自体はあいまいである3 )が、本論では、東京都監察医務院4 )が孤独死の定義としている「自宅で死亡し、警察が検視などで関与した独居者」に準じ、集計を行った。


1  大阪市の孤立死の現状

 孤立死の実態把握の基本資料として、筆者が解剖助手として勤務する大阪府監察医事務所では、大阪市内で発生した異状死の検案を行っている。大阪府監察医事務所5 )で検案を実施した2017年の死体検案書と検案要請書6 )を、孤立死研究のため閲覧し集計を行った。

 検案総数4,551人中独居自宅死亡者は約半数の2,323人であった(図表1 )。また、独居自宅死亡者の約51%のうち1,167人が2 日以上経過し発見される状況であった。


図表1  2017年大阪府監察医事務所検案結果

 図表2 では、独居自宅死亡者の性別や年齢、収入などの状況とともに、発見に至った経緯と発見者について集計を行った。 集計の結果、男性の前期高齢者、年金や生活保護受給者、集合住宅居住者、外部との関係が薄い人に、独居自宅死亡者数が多くなる傾向がみられ、孤立死のリスクが高いと考えられる。また、介護サービスの利用者は、発見までの時間が短いことがみて取れた。


図表2 - 1  独居自宅死亡者生活状況一覧(2017年1 〜12月分)


図表2 - 2  独居自宅死亡者発見状況一覧(2017年隔月分)


図表2 - 3  独居自宅死亡者の年齢分布一覧(2017年1 〜12月)


 次に、大阪市23区別孤立死発生状況について集計を行った。

 大阪市内の居住区ごとの集計では、発生数において西成区が特筆して高くなっていた。西成区以外においても大阪市の平均と比較し、独居自宅死亡率の割合が高い区や中長期発見率が高い区などもみられ、地域ごとの偏在も大きく、地域性を加味した対策が必要といえる(図表3 )。


図表3  独居自宅死亡者居住区別発生数一覧


2  孤立死の対策

 孤立死の要因としては、地域性や性別、年齢、生活様態など種々な要素が複雑に関係しており、孤立死軽減にむけて1 つの要因を取り除けば解決できるわけではなく、複合的な対策が必要となってくる。孤立死問題への複合的な対策の必要性について、小辻らは「重層的な問題があるがゆえに、解決策も重層的でなければ、難しいといえる。人によっては、地域住民との交流があれば孤立状態を解消できるものもいれば、病気が解消できれば孤立状態を解消できるものもいれば、金銭にゆとりができれば孤立状態が解消できるものもいる。よって、行政、地域、家族、本人などが孤立解消に向け一致団結していかなければ根本的な解決は難しいといえる。」(小辻ほか[2011])とし、様々な立場においての団結すなわち協力し問題に取り組むことが必要だとしている。

 多様な立場の複数の組織が協力し団結するとき、対策を講じる行政や地域等がどのような対策が必要としているかについて新田は次のように分類を行っている。

 新田(2013)は、孤独死(孤立死)対策について、社会的孤立と死という2 つの問題状況と予防と早期発見という2 段階の対策のねらいをもとに、図表4 のようなマトリックスを提示している。この分類からも分かるように、孤立死対策には様々な事業や取り組みが必要であり、行政や企業や地域団体さらには地域住民単独では目標を達成できない。その意味でも、地域で活動している多様な組織が一致団結しながら協働することが必要である。

 本研究ノートでは、死後早期発見を目指すことで、「(D)死体(遺体)が放置されないようにする対策」に注目する。こうした孤立死対策(D)を実現するためには、社会的孤立に陥っている人の何が課題であるかを話し合いながら解決策を講じる場の設定(C)から必要な対策(A・B)に繋げることが必要になる(図表5 )。こうした過程においては、行政レベルや民間レベルの対応や地域社会全体での協力が必要となってくる。地域社会全体での組織間の協働関係の構築が孤立死軽減にむけての取り組みになっていく。


図表4  実践的視点からの「孤独死(孤立死)」対策の概要


図表5  孤立死対策アプローチ



 次章では、多様な組織や団体が協働関係を構築し、孤立死についての対策を行っている西成区あいりん地区と城東区森之宮地区の事例について分析する。

 2 つの地域の孤立死対策の比較のための分析視点として、本論文では組織間協働化の議論を参考にしたい。組織間協働については、これまで多くの研究が蓄積されてきた。たとえば小島・平本(2011)は、戦略的協働を「NPO、政府、企業という3 つの異なるセクターに属する参加者が、単一もしくは2 つのセクターの参加者だけでは生み出すことが不可能な新しい概念や方法を生成・実行することで、多元的な社会的価値を創造するプロセス」と定義し、協働システムの曖昧性、参加者の参入・退出の容易さ、パワーの分散、偶然性の影響力などの特徴を提示しながら、単一組織と比較して難しい過程であることを指摘している。戦略的協働の議論に関係する先行研究としてゴミ箱モデル、政策の窓モデル、組織的知識創造のモデル、協働促進・抑制要因モデル、協働形成モデルを紹介している。

 また後藤(2013)は、戦略的協働とパートナーシップは、1 )複数主体によるプロセスと捉えていること、2 )個々の主体のみでは不十分であること、3 )個々の主体が同一立場や認識に基づいていないことなどの共通点があると指摘している。こうした点を踏まえ、本論文では孤立死対策を複数主体の組織間協働と捉え、さらにプロセスとしての協働化を強調し、以下の3 つの段階を経て進んでいくと仮定する(佐々木[2009])。3 つの段階とは、解決すべき課題は何か、さらに直面する問題は何かについての組織間で共通認識をする課題の明確化段階、組織間の協働行為の理想的状態すなわちコンセプト創造・ビジョン設定を行う目標の明確化段階、そして組織間の協働を維持・発展させるため、他の組織からの支援や支持をもとにシステムや機構を創り上げる実行と評価の段階である。次章のケースはこのプロセスとしての組織間協働化の考えをもとに考える。


Ⅲ  2 つの地域における孤立死対策事例

 西成区あいりん地区と城東区森之宮地区は共に大きなプロジェクトが進行しており、そのプロジェクトの1 つとして孤立死対策が実施されている。

 両地域とも集合住宅が中心の地域であるが、直面する地域事情は大きく異なっている。


1  城東区森之宮地区(スマートエイジング・シティ構想)

 城東区の森之宮地区は、大阪城公園に隣接した市内中心部に位置している。砲兵工廠跡地に面開発市街地団地として1967年に森之宮UR第1 団地高層棟5 棟が建築された。1978年に第2団地が建築され1 つの町を形成していたが、高齢化が深刻化するなか、様々な課題を有するようになってきた。2014年には問題の解決を目指し大阪府市医療戦略会議のスマートエイジング・シティのモデル地区として指定された。大阪市の調査報告書9 )は、この地域の問題点として「戦後、日本の面的住宅開発の先進事例となる団地中心のまちづくりが進められた。現在、同団地には2,700戸約5,000人が居住しているが、少子・高齢化が急速に進み、高齢者のみの世帯の急増に伴う孤立化や若年層の減少に伴う地域活動の担い手の固定化・高齢化の進行など深刻な課題を有している」と指摘している。

 城東区の高齢化率が21.8%であるのに対し森之宮地区は27.6%と大きく上回り、単独高齢者世帯も城東区が12.1%であるのに対して、森之宮地区は17.6%となっている。集合住宅の単独高齢者は、孤立死の危険性が高いと考えられる。

⑴ 孤立死の現状

 森之宮地区の自宅独居死亡者は、2017年は区内比率約4 %とあまり多くないが、孤立死対策の必要性が認識された2012年時点に、自宅独居死亡者数が増え、区内比率約8 %であった。独居自宅死亡者が増え、孤立死予防にむけて居住者の意識の高まりなどもあり、行政も対策を講じるようになってきた(図表6 )。


図表6  森之宮地区自宅死亡者経年比較


⑵ 対策に向けての過程

 城東区の森之宮地区のスマートエイジング・シティの取り組みは、城東区役所主導のもと、UR西日本、森之宮病院の3 者協定をもとに様々な団体が協力し現在も進められている。

 3 つのステージ区分をもとに孤立死対策の事業展開の推移について住民インタビュー等10)を参考にまとめたのが図表7 である。城東区役所11)主導のもと対策のための会議体が形成され当初デザインされたプログラムをもとにUR西日本が住民サービスの拡充を行っている。さらに、森之宮病院12)は高齢者医療の充実とともに、隠れたニーズの掘り起し調査なども行っている。

 図表8 は図表5 の孤立死対策アプローチをもとに森之宮地区の孤立死対策を整理したものである。UR西日本の居住者サービスや森之宮病院の利用者サービスは充実してきているが、課題としてあげられてきた住民の関係性の希薄化や地域活動の担い手不足の解消までには至っていない13)


図表7  森之宮地区の対策経過図


図表8  孤立死対策アプローチ


2  西成区あいりん地区(西成特区構想)

 あいりん地区は、西成区の北東部に位置する地区で、高齢化率、生活保護受給率、男性単独居住者割合が高い町になっている。高度成長期は、日本各地から仕事を求めて集まる「労働者のまち」であり、1960年代のピーク時には簡易宿泊所が立ち並び、日雇い労働者が2 万人を超える人口密集地であった。あいりん地区は地名ではなく、JR西日本関西本線・環状線、南海本線・高野線等に囲まれた三角形の地区であり、萩之茶屋1 〜 3 丁目およびその周辺を指している。万国博覧会(1970年)の開催やバブル好景気時などには好況を呈し、多数の労働者が集まる地域であったが、バブル崩壊後の長引く不況などにより仕事が激減し、仕事に就けない労働者が路上生活を余儀なくされた。1998年の大阪市の調査によれば、野宿者が8,660人に上り、あいりん地区だけでも1,000人を超えた。2002年「ホームレスの自立の支援等に関する特別措置法」の施行などにより、働くことが困難な高齢労働者は生活保護を受給し、定住することができるようになった。このような背景のもと、あいりん地区は「労働者のまち」から「福祉のまち」14)へと変容していった。

⑴ 孤立死の現状

 あいりん地区内の萩之茶屋1 〜 3 丁目の独居自宅死亡者についてのデータは図表9 のとおりである。この地域は簡易宿泊所や転用アパートが林立し、居住者の男女比は男性91%と極端に男性単身者が多く住む町である。

 萩之茶屋地区は高リスク男性独居者が多く居住し15)図表9 からも分かるように孤立死も多く発生している。高い高齢化率、環境の悪化、治安の問題など課題が山積する地区16)でもあり、危機感をもった地域の住人や支援団体が、安心して住める町を目指す話し合いの場や取り組みがスタートしていった。


図表9  2017年萩之茶屋1〜3丁目検案データ



⑵ 対策に向けての過程

 あいりん地区の取り組み経過は、1999年にまちの課題に対し問題意識をもったあいりん地区にかかわる人たちが集まりスタートした。また同年、バラバラに行動していた活動団体が支援活動の一元化を目指し、NPO法人釜ヶ崎支援機構を立ち上げ、ホームレスや日雇い労働者の支援活動を始めた。これをスタートとし、図表10に示すような様々な取り組みが始まっていくことになる。


図表10 あいりん地区の対策経過図



 2012年橋下市長誕生後示された「西成特区構想」18)により行政が参画し、大きく事業が発展していった。白波瀬(2019)は「西成特区構想は行政が主導するトップダウン型の再開発プロジェクトのように思えるが、実際には地域住民や支援団体などで構成されたボトムアップ型のまちづくりと密接な関係を有しながら今日まで展開してきた」と指摘しているが、特区構想以前に多様な課題に取り組んでいた諸団体がこの構想を下支えしていたといえる。ありむら(2019)も「『あいりん地域まちづくり会議』をはじめとする話し合いの仕組みをつくり、あきれるほどに粘り強く、丁寧に議論を重ね、しかも絶対反対派もメンバーに入れながら、進めていく」と述べており、この「あいりん地域まちづくり会議」で示されたビジョンをもとに事業が実行され新たに第2 期特区構想のステージに向かっている。

 図表11に示した孤立死対策アプローチは、現在あいりん地区で実施されている事業であるが、地区の課題を共有する場から生れたNPOや各種団体の共同体が、行政からの委託を受けながら事業を行っている。


図表11 孤立死対策アプローチ


 あいりん地区特有ともいえる、生活保護受給者の自立、高齢男性の孤立化など、孤立死に繋がる問題への取り組みは喫緊の課題であり、行政と5 つのNPOの協働で社会的孤立予防のための「ひと花センター」が開所された。行政が高リスク者に対し「ひと花センター」に紹介し、各NPO法人が役割に応じたプログラムを提供している。

 話し合いの場から始まったサポーティブハウスでは、孤立化しがちな独居高齢者に対し、服薬サポートや介護サポートや日々の見守りを行っており、身体の異常への気づきや死亡後の早期発見に至るケースも見受けられる。対象者が多く、絶対的な孤立死の減少までは至ってはいないが、早期発見が増えていくことが期待できる取り組みである。


Ⅳ 2 地域における対策の比較

 大阪市の城東区森之宮地区は年金高齢者が多く居住する集合住宅主体の地域であり、西成区あいりん地区は生活保護受給の単身高齢者が居住する地域である。地域事情が違うことで、孤立死の数や質も大きく違っている。共通する点は、あいりん地区は特区構想、森之宮地区はスマートエイジング・シティ構想のモデル地域で、どちらも行政の強力な推進のもと行われていることである。

 西成区あいりん地区は、プロジェクトが進行する以前より、孤立死問題をはじめ困難な課題を抱えており、関係者や団体が問題を共有し話し合う場が作られ、そうした場が西成特区構想提示後の行政とともに問題解決の事業主体となっている。多様な主体が行政へ提案し、行政は提案された事業を委託事業として再提案する形など、ボトムアップの行政提案型ともいえる形式で進行している。一方城東区森之宮地区は、孤立死について一部住民が認識している程度であったが、行政がUR西日本と地域病院である森之宮病院と3 者協定を締結した後、孤立死対策がスタートしている。そして締結で示された青写真にそって事業が実施されるトップダウンの行政主導型で進められている。トップダウン型は事業を迅速に進めることができるが、住民間の連携や当事者意識は薄れてきている。現在も事業は進行中であるが、社会状況が大きく変化するなか、住民のニーズをすばやく感知し対策に繋げるボトムアップ型の協働が求められている。


図表12 2 地域の取り組み比較



Ⅴ おわりに

 大阪市内の孤立死の全体的特徴としては、男性の後期高齢者が最も多く、親族や知人や職場の繋がりが薄い人の発見が遅い傾向にある。そして、訪問介護などサービス受給者が早期発見に繋がっている。また調査対象にした西成区あいりん地区と城東区森之宮地区は、それぞれ地域環境や生活状況が異なっているが、ともに行政参画のもと多様な団体の協働による孤立死対策が進められている。

 西成区あいりん地区は、地区内の孤立死課題について複数団体の話し合いの場が自然発生的に形成され、問題意識の共有から意見集約そして課題解決を行うNPO法人の誕生へと繋がっている。これを基盤にして西成特区構想を梃子に多くの地域諸団体が参加することで大規模な協働体制に進化している。

 一方森之宮地区は、一部住民の間で孤立死課題についての問題意識が共有された段階で、行政主導のスマートエイジング・シティ構想が示され、他団体との協働による公式会議体が組織され、行政プランに沿った取り組みが進められている。

 両地域とも高齢化が進み、孤立死数が増加傾向にあり対策が必要であるという認識があった。しかし森之宮地区は行政主導のトップダウン型対策が取られてきたことから、自治会など地域団体の繋がりづくりやふれあい活動への参加者の固定化など住民間の問題意識の共有は低調である。一方あいりん地区は、特区構想以前の会議体が中心となり、プロジェクト参画から行政提案そして委託事業という関係が形成されている。支援が必要な人に接し、ニーズを拾い上げ、行政に伝えるボトムアップ型システムが形成されている。

 孤立死問題には複雑多様な要素が関係し、複数の団体や組織の協働が不可欠である。そして孤立死の発生要因である社会的孤立状況にある人を支援に繋げるためには、ニーズを把握しトップに届けるボトムアップ型取り組みと、行政がスピーディに仕組みを策定し対策に繋げるトップダウン型取り組みの両方が必要である。あいりん地区と森之宮地区はともに行政プロジェクトのもと対策が進められているが、地区外で孤立死の発生が少ないわけではなく、城東区の世帯数が多い公営住宅でも孤立死が発生している。西成区も地区外で孤立死が多く発生している。

 (2017年検案結果より)

・西成区内独居自宅死亡者数447人に対して、萩之茶屋1 〜 3 丁目は126人であった。

・城東区内独居自宅死亡者数96人に対して、森之宮1 〜 2 丁目は4 名であった。

 プロジェクトモデル事業を地区外に広げながら、大阪市全体の孤立死対策に繋げる取り組みにするためには、孤立死対策の効果の可視化も必要である。

 孤立死解消のための協働システムをどのようにデザインし、そうした協働システムを地区外にどのように伝播させていくかが今後の課題でもある。


[注]

1)令和2 年高齢社会白書を参考。https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2020/zenbun/pdf/1s1s_01.pdf(2021年5 月27日閲覧)

2 )令和元年高齢社会白書より。https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2019/html/gaiyou/s1_1.html(2020年12月15日閲覧)

3)定義について、新田は孤独死の定義は一様ではないとし、「何を問題としてとらえるかによって、その内実は異なってくる」(新田、[2013])と述べている。

4)東京都監察医務院ホームページ平成22年度第19回公開講座資料「東京都23区における孤独死の実態」 緒言より抜粋。https://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/kansatsu/kouza.files/19-kodokushinojittai.pdf(2021年6月10日閲覧)

5)大阪府監察医事務所ホームページより「大阪府監察医事務所では、大阪市内における異状死体(原因が明らかでない感染症や不慮の事故などで亡くなられた方々のご遺体)の検案及び解剖を行うとともに、検案・解剖を行っても死因が判明しない場合には必要な諸検査を施行し、亡くなられた方の死因を究明する業務を実施しています」。http://www.pref.osaka.lg.jp/kansatsui/( 2021年6 月10日閲覧)

6)死体検案書(死亡診断書)…監察医が検案を行い、死因を特定し作成する。

 検案要請書…異状死の届け出があった場合、監察医に検案を要請する際、警察が作成する。

7)図表2 - 2 発見状況一覧詳細(発見者)


8)図表2 - 2 発見状況一覧詳細(発見のきっかけ)


9)大阪市ホームページ『スマート・エイジングシティの具体化に向けた調査結果とりまとめ』より。https://www.city.osaka.lg.jp/seisakukikakushitsu/page/0000342428.htm(l 2020年12月15日閲覧)

10)2020年7 月17日UR森之宮団地集会所において孤立死対策を自発的に取り組む住民代表に聞き取り調査を行った。

11)城東区役所ホームページスマート・エイジングシティについてのお知らせ。https://www.city.osaka.lg.jp/joto/page/0000332185.htm(l 2020年12月15日閲覧)

12)森之宮病院ホームページ大阪市城東区・UR都市機構と森之宮地域のまちづくり協定提携のお知らせ。https://www.omichikai.or.jp/morinomiya_h/news/201511111(2020年12月15日閲覧)

13)住民代表への聞き取り調査によれば、「自治町会加入者は約30%程度から増えていないなど、関心は低い。」「孤立死対策としては今後、UR実施の見守りセンサーへの加入を勧めていきたい」「現役世代は共働きが多く、協力を得にくい」など、まだ地域活動の担い手不足などの解消までには至っていないと推察できた。

14)白波瀬(2017)「貧困と地域」より引用。 「バブル崩壊以降、あいりん地区は『労働者の町』から『福祉の町』へと変容したと決まり文句のように語られるようになった」。

15)萩之茶屋の人口9,665人 男性8,984人 世帯数9,198世帯(平成27年町別人口世帯数)。https://www.city.osaka.lg.jp/nishinari/cmsfiles/contents/0000342/342350/choumoku271001.pdf(2021年6 月10日閲覧)

 萩之茶屋の人口に対する世帯数から、独居者が多く住むことがみて取れ、男性の比率も大きい。

16)山積みする問題…西成特区構想担当特別顧問の鈴木亘は著書で以下のように記している。

 「西成区、とりわけ、あいりん地域が抱えている諸問題は、言うまでもなく深刻な状況にある。様々な治安問題、高い結核罹患率の問題、ゴミの不法投棄や立ち小便などにみられるモラルの問題、生活保護受給者の急増とそれに伴う不正受給や不適切な消費の問題、生活保護受給者の健康・医療問題や孤立化、野宿生活者や高齢の日雇労働者等の貧困不安的居住者層の存在、野宿生活者のテントや小屋掛けがあって住民が利用できない公園、減少の一途をたどる児童数、子どもの貧困問題(後略)まさに問題山積みといえる」。

17)2019年10月31日西成区萩之茶屋まち歩き講習会に参加し、講師のありむら氏にインタビューを行った。

18)西成区役所ホームページ西成特区構想プロジェクトに特区構想の詳細を掲載。https://www.city.osaka.lg.jp/nishinari/category/3480-3-0-0-0-0-0-0-0-0.html(2020年12月15日閲覧)


[参考文献]

ありむら潜[2019]「いまの釜ヶ崎をみるには120年のスパンで」『市政研究』(204号)、大阪市政調査会、2019年7 月31日発行、6 -16頁。

小島廣光・平本健太[2011]『戦略的協働の本質―NPO,政府,企業の価値創造』有斐閣、2011年5 月25日出版。

小辻寿基[2011]「高齢者社会孤立問題の分析視座」『Core Ethics』Vol.32、109-119頁。

後藤祐一[2013]『戦略的協働の経営』白桃書房、2013年4 月16日出版。

佐々木利廣[2019]『組織間コラボレーション』ナカニシヤ出版、2009年11月30日出版。

白波瀬達也他[2019]「特集 西成特区、釜ヶ崎、未来へのまちづくり」『市政研究』(204号)2019年7 月31日発行、6 -64頁。

白波瀬達也[2017]『貧困と地域―あいりん地区から見る高齢化と孤立死』中公新書、2017年2 月25日発行。

白波瀬達也[2019]「西成特区構想にかかわる議論経過―まちづくりビジョン有識者提言にいたるまで―」『市政研究』(204号)、2019年7 月31日発行、18-29頁。

鈴木亘[2013]『脱貧困のまちづくり『西成特区構想』の挑戦』明石書店、2013年7 月25日出版。

新田雅子[2013]「『孤独死』あるいは『孤立死』に関する福祉社会学的考察―実践のために―」『札幌学院大学文学会紀要』(93)、105-125頁。


(論稿提出:令和2 年12月18日)

(加筆修正:令和3 年6 月20日)

Comments


bottom of page