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- ≪査読付論文≫地方自治体が推進する要保護児童を対象とした就農プロジェクトの可能性―きつきプロジェクトを事例に―
PDFファイル版はこちら ※表示されたPDFのファイル名はサーバーの仕様上、固有の名称となっています。 ダウンロードされる場合は、別名で保存してください。 株式会社日本総合研究所シニアマネジャー・法政大学兼任講師 山田敦弘 キーワード: 農福連携 官民連携 要保護児童 就農 地方自治体 要 旨: 本研究では、児童養護の要保護児童を対象とした就農支援を企画立案・実施する中で、地方自治体とNPOと農業者との連携、自治体内でのプロジェクト推進、事業継続への取組みなどのプロセスを通じて、顕著になる課題やその解決策を明らかにした。特に地方自治体にとって成功要因となるポイントを整理している。そのポイントとしては、「誰もが理解できる明瞭な課題の設定と、社会的に受け入れられる解決手法の明示」、「立場毎との目標の設定と役割分担の明確化」、「関係者間での一致したゴールの設定とそこに辿り着くためのロードマップの設定」があげられた。障がい者を対象とした農福連携の研究はすでに先行するものが多々あるが、児童養護の対象となる児童にかかる農福連携の研究は、まだまだ少なく、今後の事業継続及び事業拡大を目指して研究を続けたい。 構 成: I はじめに―問題設定― II 分析対象と方法 III 事例の分析:事例事業概要、自治体における課題 IV ディスカッション V まとめ Abstract In the course of planning and implementing support to help children in need of foster care to become farmers, this study identifies issues and solutions that are prominent in the process of collaboration between local governments, NPOs, and farmers, in project promotion within local governments, and in efforts to continue the project. Specifically, this report identifies key success factors for local governments. The key points of the project were “setting clear issues that everyone can understand and clarifying socially acceptable solution methods,” “setting goals for each position and clarifying the division of roles,” and “setting goals that are consistent among all parties involved and establishing a roadmap for achievement.” While there are many leading studies on agricultural and welfare cooperation for the disabled, there are few studies on agricultural and welfare cooperation for children who are in need of foster care. We would like to continue our research with the aim of continuing and expanding our project in the future. ※ 本論文は学会誌編集委員会の査読のうえ、掲載されたものです。 Ⅰ はじめに―問題設定― 近年、地方自治体は様々な課題を抱えている。特に、東京圏以外の地方が抱える課題としては、 総務省[2019]では、①労働力不足、②経営者の後継者不足、③働く場所・働き方の多様性の低下、④地方経済・社会の持続可能性の低下の4点を示している。若者が地方に居住し就業することは、これら4つ全てを解消する可能性があり期待されているが、現時点では首都圏等の大都市への移住の流れは止まっていない。 一方で、福祉分野においては高齢社会における課題に加えて、厚生労働省[2023]によると、「個人や世帯が抱えるリスクは多様化し、複合化した課題や制度の狭間に落ち込んでしまっている課題が表面化している」と指摘している。ここで示唆されている課題は、虐待を受けている子どもを始めとする要保護児童(児童福祉法第6条の3第8項にて「保護者のない児童又は保護者に監護させることが不適当であると認められる児童」を要保護児童と規定)、引きこもり、ヤングケアラーなどの問題を踏まえた困難に直面する若者の課題でもある。 要保護児童数は、平成23年の46,463人から10年後の令和3年には41,773人と若干の減少傾向にはあるが、4万人を上回っており、依然として深刻な社会課題である。この課題に対してそれらの児童の就労は、社会的孤立を解消し、経済的自立や安定も実現できることから、有効な解決策の1つとなっている。 ただし、就労には個人の好みや適正もあり、就労を進めるには就労先の選択肢を幅広く設けることや、失敗(離職)してもやり直しができる状況をどれだけ作り出せるかが課題となっている。 福祉を推進することで地域再生など、地方が抱える課題解決も合わせて推進することができれば、理想的な取組みである。吉田[2019]によると農村地域での人口減少・高齢化の進展を受けて、農業労働力の不足、農地の引き受け手の不足等の問題が深刻化しており、そうした課題への対応として、農業サイドからも農福連携への期待が高まっている。 本研究においては、地方の要保護児童をサポートし、就労に導くことで、社会的孤立を解消し、かつ地域の事業者の経営継続や経済活性化を図ることを目指し、その可能性、直面する課題、成功要因などについて、主に地方自治体の立場に立って分析をする。 II 分析対象と方法 1 大分県杵築市の背景と課題 大分県杵築市は、大分県の北東部、国東半島の南部に位置しており、市の総面積280.06平方キロメートルの中には、東南部に別府湾に面した海岸線、北部には自然豊かな山間地を形成している。中心地は、旧杵築藩の城下町付近で、「坂のある城下町」として知られており、人口集積地域もある。その一方で、主に北部では過疎地域として指定されている地域がある。 本市の人口28,687人(2020年3月末同市基本台帳)となっており、他の地方市と同様に、人口減少、高齢化、生産人口の減少という問題を抱えている。顕著なのは生産年齢人口の減少であり、中でも農業の就業者数の減少は深刻な状況にある。2005年の国勢調査(総務省統計局)によると、杵築市では生産年齢のうち就農者は2,873人いたが、わずか10年後の2015年にはそのおよそ3分の2の1,900人へと大幅に減少している。この統計には含まれない老年人口(65歳以上)の就農者が引き続き営農をして支えているが、後期高齢者の増加や老年人口自体が2020年から減少に転じると推計されることもあり、若い就農者が必要不可欠となっている。 2 大分県内の要保護児童の卒園後の離職率が 高い背景と課題 大分県には9つの児童養護施設がある。同県にて活動するNPO法人おおいた子ども支援ネットが独自に調べたところ、卒園後の児童の75%が就職するものの、1年以内の離職率が34%にも上るという就業問題が存在していた。これは、高卒者全体の1年以内離職率(21%) と比べ高い水準であった。 この原因は、大きく2つあると考えられている。1つは、卒園児童の多くは家族などの保証人がいないため、賃貸住宅を借りることが難しく、就業先として寮が付属している職場などを選ばざるを得ないなど、必ずしも本人が希望する職業に就職できないことが実情となっている。もう一つは、卒園児童は、これまで食事など生活に必要なことが全て提供される施設環境で育ってきたため、独力で生活ができるには、周りのケアや慣れるまでの時間が必要なケースが多いことである。しかし、職場では、一般家庭で育った者と同じ扱いをされるため、環境への独力での対応の難しさなどもあり、どうしても短期での離職率が高くなってしまう。雇用者側にもこの状況について理解があり、一定のサポートがあることが望まれる。 一度離職してしまうと、後ろで支えてくれる家族がいないことから貧困に陥ることも少なくないため、若くして生活保護の受給者となってしまったり、場合によっては反社会的な世界に足を踏み入れてしまったりする。そして、そのような状況に一度陥ると、抜け出すことが容易ではなくなる。そのため、離職しても再度チャレンジができる環境の整備が必要である。 3 分析方法 本研究においては、大分県杵築市にて実施されている要保護児童の就農プロジェクト「きつきプロジェクト」の事例を通じて分析を実施した。本事例では、プロジェクト企画・準備の段階からの創設及びその後の継続への取組みまでの過程を自治体職員の立場から観察した。各課程における課題を解決策と整理整理することで、官民連携による農福連携の可能性を地方自治体の視点から分析する。 III 事例の分析:事例事業概要、自治体における課題 1 本事例事業の概要 要保護児童などサポートが必要な若者に対する支援を実施する団体として、2014年に設立された「NPO法人おおいた子ども支援ネット」(以下「子ども支援ネット」)がある。子ども支援ネットは、卒園児童のアフターケアなどの事業を行っており、日々離職をした卒園後の児童の課題に直面していたが、支援の限界を感じることも多く、新しい解決策の必要性を感じていた。そこで、その解決策について相談を持ち込んだのは大分県杵築市であった。杵築市内には児童養護施設はなく、子ども支援ネットの基盤も他の自治体にあったが、杵築市長は元県庁の福祉部長であったという経歴があり、そのつてをたどって杵築市に相談に来たのであった。子ども支援ネットは、日々の直面する課題から、次のような仮説を立てていた。 児童養護施設の卒園児童の中には、施設が紹介できる工場作業や営業などの特定の仕事では適性が合わず、自然を相手に行う農業のような仕事の方が適している児童がいるのではないか 1) 。 卒園後に工場作業や営業などの仕事に就いて適性が合わず離職したとしても、就農体験しておくことで、農業関連の仕事でやり直しを図ることができるのではないか。 一方、杵築市においても、地域課題の解決策となる可能性を感じていた。それは以下の通りであった。 人数は例え僅かであっても、20歳前後の若者が地域で働いてくれることは、高齢化が進んだ地域にとっては、かけがえのないことである。 地域の高齢者は、児童や若者に寛容であることから、うまく接し、若者の良いところを時間をかけて伸ばすことができるのではないか。 福祉と農業という2つの異なる性質の課題にかかる取組みではあるが、これら2つの課題を連携させれば2つとも解決できる可能性があり、少なくとも同じ方向に向かっていくことで解決策は見えてくると考えられた。このことを杵築市と子ども支援ネットの両者が認識できたことから、要保護児童の就農プロジェクト「きつきプロジェクト」のアイデアを具体化する検討が2016年に始まった。そして杵築市にとっても子ども支援ネットにとっても一致した目標をすぐに持つことができた。それは、「市内で就農者となり新しい生活を築くこと」であった。その目標に向けて事業内容は検討された。 県内の児童養護施設の入所児童を対象に、杵築市の農家及び農業法人にて1日~数日の就農体験をしてもらう事業を立ち上げた。県内9つの児童養護施設を対象に参加説明会を開催した。児童には漠然と農業に興味を持つ者も少なからずいて、初年度から、児童養護施設の中学生や高校生など20~30人程度が参加してくれた。ただし、ほとんどの児童は、農業を職業の選択肢と考えるどころか、体験さえもしたことがなかった。 本事業では、できるだけリアルに近い就農体験をしてもらうために、実際の農業と同様に、午前6時から作業を開始した。酪農では、餌やりや子牛の世話などのメニューに加えて、牛糞掃除など、過酷なメニューにも取り組んだ。就農体験の実習先には、高齢者がいることも多く、褒めたり、会話をしたりしながらゆったりと作業を教え進めた。多くの児童は、普段は見せない真剣な態度で取組み、また長時間それを継続できた。参加児童の普段見せない真剣な態度は、児童養護施設の職員を驚かせた。「また、行きたい」と継続して毎年参加する児童が出始め、中には就農してくれるのではないかと期待できる子も現れるようになった。高校生の中には、「真剣に農業をやりたい」と農業大学校に進学したり、また、中学生の中には、高校進学時に農業科に進学する児童も出てきた。 初年度の事業を無事に実施し、その取組みを杵築市のケーブルテレビで放送した。「なぜ、県がやるべき問題解決を市でやらなければならないのか」という苦情が来るのではないかと心配していたが、実際には「久々にいい事業をやった」とお褒めの連絡を何本も頂くなど、予想以上の反響を得ることができた。それは、市民や市議だけでなく、農業者にも響き、次年度から研修の候補先が3箇所から14箇所に増えた。また、中には、雇ってもよいと申し出てくれる農業法人もいた。更に、事業の成果をビデオ化及び冊子化して企業へ報告したことでその理解度が高まり、継続的に協力を得ることができるようになった。 そして、市内の農業法人に就職する初めての児童が出たのは2020年の春のことであった。その児童は、中学から本事業に参加していた。最終目標としていた待望の成果が得られるまでに、本事業を開始して5年の歳月を要したが、毎年興味を持って参加してくれる次期候補者が既に何人かおり、事業の展望は明るい。本事業は、8年を経過した今も継続している。 【事業概要】 出所:日本総研シンポジウム「国に依存できない時代の地域・雇用・社会保障」市長説明資料(2018年2月、杵築市作成) 2 地方自治体での取組みにおける課題 (1) 市役所組織の縦割りの打破 本事業が対象とする分野は、地方再生、児童福祉、新規就農と複数に渡っており、当時の市役所組織では、企画部門、福祉部門、農業部門がそれぞれ別々に所管をしていた。まず、それらすべての課において、本事業へ取り組む目的と役割を取組開始時に明確にすることができたため、事業へ共同で参画する方針を固めることができた。 企画部門:目的は地域再生、役割は全体調整及び予算確保 福祉部門:目的は児童福祉の推進、役割は子どもネットや児童養護施設との調整 農業部門:目的は新規就農者の確保、役割は就農体験の場の創出や農業者との連携調整 また、上記の通り、異なる複数の目的が掲げられており、その方向性があいまいになる可能性があったため、何年目に何をしてどんな成果を目指すのかについて、ロードマップを作成した。このロードマップには、市役所の目的だけではなく、子ども支援ネットの目的も組み込んだものとして作成をしたため、本事業関係者間で全員の共通認識とすることができた。そのロードマップに沿って5年間の取組みを推進することができた。 (2) 予算の確保(税金投入の是非) 杵築市役所には本事業の予算化に関する課題があった。市域に児童養護施設のない杵築市が、県内9つ全ての児童養護施設から児童を農業研修に受け入れることの是非についてである。市内に若手の就農者を確保するという事業であるとはいえ、「市民でもない児童に、市民から頂いた税金を費やしてよいものか」という問題点 であった。市役所での予算化は、議会で承認を 得ることができるかという点にあり、政治決着 による打開の可能性もあるが、それでは成果が出るまで継続的に予算化ができるかわからない。市民からの税金をできるだけ使わず予算化することができれば、それが理想的であった。 タイミングよく、この時期に企業版ふるさと納税制度が創設された。この制度をうまく使えば、我々の課題解決の取組みに賛同してくれる企業から資金を集めることが可能となり、市民からの税金に頼る必要はなくなる。ただ、企業版ふるさと納税から事業費を確保するためには、申請時に事業の詳細のほか、少なくとも1社以上の確約できる寄付企業を記載する必要があった。当時、企業版ふるさと納税は創設されたばかりの制度で、企業での認知度もかなり低く、内閣府へ提出する書類に実名を載せてくれる企業が短期間で見つかるか難題であった。そこで、杵築市長自らが担当者と共に企業回りを行い、それぞれの経営者へ直接会い、事業への協力を訴えた。最初の訪問先で解決するべき課題と事業内容を経営者に説明したところ、「そのような課題が放置されて良い訳がない。うちは協力します。」と即答いただき、弾みがついた。その後も同様に市長が4社を回り、最終的には5社中4社から同意を頂くことができた。その後、この取組みは、内閣府の優良4事例の一つに取り上げられ、日本経済新聞全国版の1面記事広告として主要企業名とともに掲載された。このことは、協力いただいた企業にとって予想外のメリットとなった。 IV ディスカッション 1 考察①:組織連携を進める取組み 市役所をはじめとし、NPO、農業者などそれぞれ立場も役割も違う者たちが、1つの事業で連携することは容易ではない。特に、福祉、農業など、それぞれ専門性の高い分野に渡る連携となると尚更である。これらの組織連携の課題を超えるためには、以下のような視点の取組みが重要であると考えられる。 「誰もが理解できる明瞭な課題の設定と、社会的に受け入れられる解決手法の明示」が大変重要である。農福連携は、通常の農業や福祉以上に、多くの関係者の協力が必要となる。分野の垣根を越えて連携するために、誰もが課題と解決策を理解できることが重要である。この点への配慮ができていれば、共感を得ながら関係者と連携していくことができる。また、要保護児童の就業の観点からも多職種連携による社会のサポートが重要であり、同様に課題と解決策の理解が重要である 2) 。 市役所が関わる場合、庁内で組織を超えて目標となる一致したゴールを共有しコミュニケーションと役割分担をしていくことが必要である。普段から、特に管理職間で情報や意見交換をする習慣をつくれば、組織を超えることは難しいものではなくなってくる。 全て役所内で完結しようとするのではなく、餅は餅屋であり、適切な専門性や機能を持つ民間企業やNPOなどと官民連携をしっかりと進めることが重要である。 2 考察②:持続可能な仕組みとすること 地方自治体の取組みは、ビジネス取引よりも関係者が多く課題が複雑であるため、その成果を得るまでに時間がかかる。言い換えると、成果を手にする前に、次の投資を求められることになる。特に、医療や福祉分野の取組みついては、その傾向が強い。地方自治体において、持続可能な仕組みとするためには、以下の重要な要因が考えられる。 関係者全員が合意・納得できる1つのロードマップを作成し、共通認識とする。このロードマップがあれば、関係者毎に目的や役割が 異なっても、将来の成果に向けて同じベクトルを持って迷わず進んで行くことができる。 「明らかな社会的課題の解決は予想以上の共感を得る」ことを最大限に生かすことである。解決しようとしている社会的課題について、ステークホルダーにしっかりと伝えて理解してもらうこと、また、その解決のプロセス自体も理解してもらうことで、直接的そして間接的に、組織的そして個人的に取組みをサポートしてもらうことができる。 3 考察③:要保護児童の意向を最優先した取組みとすること 地方自治体の取組みは、職員や費用が動けば、議会説明の対象となり、その成果について説明することとなる。ただ、本取組みは、要保護児童の将来にかかる取組みであるため、より良い選択肢の提示については主催者側の努力で実現が可能であるが、それを選ぶのは要保護児童であり、その意向を最優先にすることが前提となる。見込める部分と見込めない(見込むべきでない)部分が本取組みで共存しており、それらを分けて検討する必要がある。 協力者、住民、議会などステークホルダーに、要保護児童の意向が最優先であることを、事業実施前に理解してもらう。 最終的なゴールを就農できた人数ではなく、関係人口など長い目で見て相互に有益な関係作りなど、緩やかなものとしていく。 児童養護施設卒園者の移住・自立に向けた就農チャレンジロードマップ 出所:日本総研シンポジウム「国に依存できない時代の地域・雇用・社会保障」市長説明資料(2018 年2月、杵築市作成) V まとめ 本研究では、地方自治体などの組織体としての動きを中心に分析を実施した。しかし、本研究が対象としているような新しい事業では、関係者個人の動きも大きく影響すると考えている。今枝・藤井[2022]は、地域資源を「地方創生の起爆剤」として活用する新しい取組みを成功に導く要因を研究しており、その成功要因としてマルチプレイヤーの存在をあげている。実は、市役所にも、実家が農家であり、地域の農業者、農業法人、地縁組織など様々なネットワークと繋がっているマルチプレイヤーも少なくない。そのようなマルチプレイヤーが関わることで、成功の可能性を高めることができるのではないかと推察される。 児童養護施設の退所児童については、平成16年の児童福祉法改正で、各施設の業務に退所者の相談支援を規定し、アフターケア事業を推進 しており、施設単位や広域単位で実施している。また、赤間ら[2021]の調査においても、アフターケアを行なった者については、約半数が入所当時の担当職員となっており、入所施設が重要な役割を担っている。その一方で、施設の職員は、入所児童の支援など業務が多忙であり、卒園児童に対するケアに多くの時間を費やすことは容易ではない。そのため入所施設やその担当職員に多忙な中でも就農支援の内容を知ってもらい、就労の選択肢として退所児童へ提示してもらえるように、信頼できる連携先となっていくことが重要である。 障がい者の農福連携においては、既にいくつかの先行研究がある。吉田[2019]によると、 障がい者が農作業へ従事することが増えている。しかし、それらのほとんどは、障がい者への農作業委託を限定された期間に実施することであり、就農にまでは至っていない。一方で、要保護児童の就農については、まだ研究文献が少なく、手探りで実施しなければならない状況にある。本研究対象となっているきつきプロジェクトでは、要保護児童の就農を目指しており、本事例の分析を通じて成功要因を明らかにし情報発信を行うことで、本事業の拡大・継続、そしてより対象者の多い学校教育や社会教育における同様の取組みの拡大に資するため、本研究を継続したい。 [注] 1) 厚生労働省[2022]児童養護施設の年長児童の将来の希望(職業)では、中学3年生以上の児童養護施設の児童に、将来の希望職業を聞いているが、「先生・保育士・看護師等」11.3%、「工場に勤める」5.3%と比べると少ないが、「大工・建築業」3.5%、「農業・漁業・ 林業・酪農等」2.5%、「運転手・船乗り・パイロット等」1.5%と農業への希望が一定割合はあることがわかる。 2) 要保護児童支援の観点から見ると、矢野 [2021]は対象児童を中心に「関わり合いの糸(ネットワーク)」を張り巡らせることが望ましいとしている。また、その中で出てくる「壁」がいわゆる「多職種連携」「多機関連携」であり、その壁はサポート側つまり社会側にあるとしている。 [参考文献] 総務省[2019]「地域・地方の現状と課題」、4頁。 厚生労働省[2023]『厚生労働白書』、58頁。 厚生労働省[2022]「児童養護施設入所児童等調査の概要」、23頁。 赤間健一・稲富憲朗[2021]「児童養護施設における退所児童の自立の現状と課題―小規模 データを参考に―」。 佐久間美智雄[2021]「山形県における児童養護施設等の退所者支援に関する考察」『東北文教大学・東北文教大学短期大学部紀要』、5: 81-102頁。 片山寛信[2018]「児童養護施設のアフターケアのあり方: 当事者の語りからの一考察」『札 幌大学女子短期大学部紀要』66: 7-30頁。 大村海太[2017]「児童養護施設退所者への自立支援の歴史に関する一考察(2)――1990年代 後半から現在までの政策に焦点をあてて――」『駒沢女子短期大学研究紀要』、50: 43-53頁。 久保原大[2016]「児童養護施設退所者の人的ネットワーク形成: 児童養護施設退所者の追 跡調査より」『社会学論考」、37: 1-28頁。 樋川隆[2015]「社会的養護事例の研究」『山梨学院短期大学研究紀要』、70-81頁。 矢野茂生[2021]「子どもたちの明るい未来を紡ぐために─特定非営利活動法人おおいた子ども支援ネットの取り組み」『世界の児童と母性 第90号』公益財団法人 資生堂子ども財団、35-38頁。 吉田行郷[2019]「農業分野での労働力不足下における農福連携の取り組みの現状と展望」 『農業市場研究第28巻3号(通巻111号)』筑波書房、13頁。 認定NPO法人ブリッジフォースマイル「全国児童養護施設退所者トラッキング調査2021」。 今枝千樹・藤井秀樹[2022]「地方創生における地域資源の戦略的活用とその成功要因―広島安芸高田神楽のケーススタディー」『公益社団法人非営利法人研究学会』VOL.22、53頁。 堀田和宏[2017]『非営利組織理事会の運営~その向上を求めて~』全国公益法人協会。 相澤仁ほか[2022]『おおいたの子ども家庭福祉~子育て満足度日本一をめざして~』明石 書店。 鈴木秀洋[2019]『子を、親を、児童虐待から救う』公職研。 山田敦弘[2020]「【人口減少時代の地域経営4】複数の課題を解決する農福連携」『地方 行政』時事通信社。 山田敦弘ほか[2016]『未来につなげる地方創生~23の小さな自治体の戦略づくりから学ぶ ~』(第2部 民間派遣者が決裁権限を持つということ)日経BPマーケティング。 論稿提出:令和5年12月20日 加筆修正:令和6年5月14日
- ≪査読付論文≫ 自治体外郭団体の運営実態に関する考察 ―自己組織性の視角による事例分析に基づいて―
PDFファイル版はこちら ※表示されたPDFのファイル名はサーバーの仕様上、固有の名称となっています。 ダウンロードされる場合は、別名で保存してください。 公益財団法人倉敷市スポーツ振興協会総務企画課長 吉永光利 キーワード: 外郭団体 自己組織性 ゆらぎ 自己化 自己増殖 要 旨: 本稿は、自治体外郭団体が国等による多様な行政施策に対応しながら、どのような運営を行っているのか、自己組織性の視角から、その実態を考察するものである。 外郭団体とは、一般的に国等が設立時に出資等を行っている、あるいは人的・経済的な支援を継続的に行い、運営に関与している団体のことである。その特性から、組織の存続可否も含めて、国等が行う施策の影響を受けることが多い。 そのような管理下にあり、活動に制約がある一方で、自律的な運営を行い、一定の成果を収めている事例が見られる。そこで、本稿では、そのような事例分析を通じて、自治体外郭団体がどのような運営を行っているのか、とくに、運営の主体となる人(職員)の意識や行動に焦点をあてて、その実態を考察するものである。 構 成: I はじめに II 分析対象と方法 III 調査の設計と結果 IV 考察 Ⅴ おわりに Abstract This paper examines how a municipality-affiliated organization actually operates while responding to various administrative measures taken by the national government, etc., from the perspective of self-organity. An affiliated organization is generally an organization in which the government invests at the time of establishment, or to which the government continuously provides human and economic support, and is involved in its operation. Due to its characteristics, it is often affected by measures taken by the national government, including whether or not the organization can survive. While municipality-affiliated organizations are under such control and have restrictions on their activities, there are cases in which they operate autonomously and achieved certain results. Therefore, this paper examines the actual situation of a municipality-affiliated organization through the analysis of such cases, focusing on the awareness and behavior of the people(staff), who are the main actors in the operation. ※ 本論文は学会誌編集委員会の査読のうえ、掲載されたものです。 Ⅰ はじめに 従来から、「役人の天下り先」、「官民のもたれあい」といった社会的な批判(例えば、吉田[2017]、16-17頁)のある外郭団体(an affiliated association, an extra departmental body:高寄[1991]、3頁)であるが、これまで、国等による見直しのなかで、団体の存在意義や存続の必要性に関する是非に関して、多くの議論が行われている (内閣府[2001][2002])。その一方で、実際に、外郭団体がどのような運営を行っているのか、そこで働く人々の意識や行動に着目した研究は、それほど多くないように思われる。 ここで、外郭団体は、国や自治体から人的・ 経済的な関与を継続的に受けており、行政施策の代行者という役割がある(蛯子[2009]、6頁)。そのため、活動に公的な制約があり、裁量のはたらきにくいところがあると思われる。また、国、あるいは都道府県、市区町村のいずれか、あるいは複数からの関与が考えられ、管轄ごとの施策(縦割り行政)に対応するため、事業分野が多岐に亘っており、複雑な様相を呈している。 そのような状況ではあるが、例えば、国の管理下にあり、市区町村にまで展開し、類似する事業を行っている外郭団体間の活動状況を比較すると、各々の事情は異なるにしても、その成果 1) (例えば、会員・利用者数の増加)に顕著な差異のある事例が見られる。このような事例に関心を寄せると、どのように自律的、あるいは独創的な運営を行っているのだろうか、という疑問が生じてくる。それは、内発的な要因として、団体自らの意志決定により(能動的に)運営しているのか、その反対に、外発的な要因として、国等の意向に沿って(受動的に)対応しているのか、実態のはっきりしないところがある。 そこで、本稿では、自己組織性(self-organity)という概念(装置)を使って、自治体外郭団体(amunicipality-affiliated organization)がどのような運営を行っているのか、時間の経過とともにどのように変容しているのか、そこで働く人々の意識や行動に焦点をあてて、その実態を考察するものである。実践的に言えば、団体の抱える多様な問題に対して、外部から指示されて行うのではなく、自らの課題として、どのように内発的に対応しているのか、このような問題関心である。 以上の問題関心に基づく本研究の課題は、自己組織性の視角から、自治体で活動する外郭団体の運営実態を考察することである。 II 分析対象と方法 1 外郭団体 (1)定義 本研究の分析対象は、自治体外郭団体の自己組織性である。ここでは、外郭団体に関する諸議論を概観し、本稿における外郭団体の定義を提示する。 まず、高寄[1991]は、形式的な定義として、地方自治法第199条に準拠し、一般的には、土地・住宅・道路の三公社と25%以上の出資法人との規定で、概ねの外郭団体が包含されると指摘している(58頁)。その一方で、形式的に限定することに対する批判として、首長(自治体)が外郭団体の行政・政治・経営上の責任を負うことから、実質的支配・業務・機能関係から定義する意義を指摘している(61頁)。 朝日監査法人[2000]は、地域政策研究会 [1997]による地方公社の定義(1頁)を参照したうえで、高寄[1991]と同様に、地方自治法第199条を根拠として、「25%以上出資法人」を外郭団体と定義している。そのなかで、種類や成り立ちの多様性を踏まえて、設立根拠となる法律により区分ができると指摘している(2- 3頁)。 蛯子[2009]は、「地方自治体及び地方自治体が過半を出資する団体が出資・出捐する法人」と定義している。そして、外郭団体の法人形態を「公益法人(旧特例民法法人)」「会社法法人」「地方三公社」「地方独立行政法人」と区別し、朝日監査法人[2000]と同様に、根拠法に焦点をあてている(2頁)。 次に、都道府県別人口数の上位3位(東京都・ 神奈川県・大阪府)による外郭団体の定義を概観する。各定義を簡略にまとめたものが、 図表1 である。 上述のように、外郭団体の定義は、従来、地方自治法第199条の規定を準用し、出資等経済的な関与の部分に焦点をあてていることが一般的であった。いわゆる、国等の組織(官のシステム)の一部という捉え方である。ところが、自治体による定義を見ても明らかなように、外郭団体という概念の捉え方が多様化し、呼称もその規定も変化し、一義的な意味ではなくなってきている。これは、従来の行政による支配的・管理的な運営からの変容を意味していると考えられる。いずれにしても、議論が一定せず、拡散しているところがあるが、本稿では、外郭団体で働く人々の意識や行動に焦点をあてていることから、経済的な部分を強調せず、仮に「国等と協働して政策実現のための事業を行い、かつ国等の現職、あるいは退職者が常勤役員等に就任している団体」と定義しておく。 図表1 都府県による外郭団体の定義等 出所:各自治体のホームページ(2023年5月8日アクセス)を参考に筆者作成 (2) 自治体外郭団体の運営状況 ここでは、高寄[1991]を手がかりに、自治体外郭団体の運営状況を概観する。 自治体外郭団体の運営では、自治体からの出向者(現職・退職者)と直接雇用しているプロパー (固有)職員による体制が多く見られる。そうしたなか、高寄[1991]は、自治体の人事ローテーションとして、出向者が経営管理層を占めることにより、プロパー職員の経営マインドを損なっていると指摘している(228頁)。これは、適材適所の配置を行う以前に、外郭団体の人事権が働いていないことを意味している(244頁)。 そして、このような重要な人事が自治体事情で処理されているところがある(269頁)ことから、高寄[1991]は、外郭団体の人事施策に関して、第1に、自治体退職者が天下るとしても人事を固定化せず、適材適所を図ること(270頁)、第2に、自治体出向者とプロパー職員との同部門への混合方式を避けること(273-275頁)、第3に、長期にわたって運営を支えるプロパー職員の人材確保と養成を行うこと、これら3点を指摘している。なお、これらの指摘は、プロパー職員の人事の展望を開く必要性を言及しているのだが、その一方で、任せきりにすることが最適ではないと指摘している(276頁)。 次に、自治体側の思惑では、高寄[1991]は、経営戦略の手段・機会として、外郭団体を活用していく政策認識に欠けていると指摘している。それは、首長以下幹部も含めて、その経営につき関心度が低く、便宜的に利用する知恵は働かせても、政策的に活用する志向性が薄いからである(256頁)。そのため、外郭団体が事業活動で独自性を発揮し、新しい事業分野を開拓することによって、自治体支配の精神的・財政的しがらみから脱皮し、実質的な独立性を構築していく可能性を指摘している(246頁)。ここで、本稿では、自治体出向者が運営のマイナス要因になるとの否定的な見方ではなく、出向等を前提としたうえで、どのように自律的な運営を行っているか、という視点である。 ところで、高寄[1991]の研究からすでに30年以上経過しているが、上山[2018]においても、プロパー職員の人事の展望に関する同様の指摘があり、それほど進展していないように思われる。しかし、自治体支配からの脱却策としての独自性の発揮、あるいは新事業領域の開拓 (高寄[1991]、246頁)といった他であまり例のない事例 8) (海外での事業化、縦割り行政の垣根を超えた事業化)が見られる。このことから、活動に制約があり、閉鎖的と思われる外郭団体において、「ヒト」の属性にかかわらず、そこで働く役職員が起点となって、すべてではないが、自律的な運営へと転換している状況があるのではないか、という疑問が生じてくる。これは、本研究の契機にも関連している。 (3) 事例の選定 探索的ではあるが、本研究の課題に基づき、 2020年に実施したインタビュー調査 9) (以下「前調査」と記す。)のレビューを行った(吉永[2021])。ただし、前調査対象先15団体のうちの8団体は、民間等の出資団体であったため、残りの7団体を対象に進めた。そのレビューでは、強権的リーダーによる支配的な団体、同地域団体の不祥事により行政指導が強まっている団体、著しく小規模(常勤1~2名)の団体、存続が危ぶまれている(大幅な人員・予算削減)団体など、それぞれに背景や状況が異なっていた。 ここで、本研究の契機は、上述の問題関心に基づくものであるが、例えば、組織の成果が高い(顕著な)団体の方が自己組織性(自律的・自己決定的な性質)の特性を捉えやすいと考えられる。さらに、ランダムに抽出した事例よりも、類似する事業を行う団体(類似団体)間で条件を揃えた方が成果の程度を比較しやすいと思われる。ただし、ここで留意しておきたいことは、自己組織性を発揮すれば成果が得られる、そのような因果的関係性には必ずしもない、ということである。そのほか、筆者の実務経験に関連して、研究に不可欠な要素である客観性を考慮し、以下の4点を選定理由としている。 ① 因果的結びつきを考慮し、一定の成果(従属変数)を収めている団体(成長・達成度) ②意思決定を他に委ねず、自己決定的な運営を行っている団体(自主・自律性) ③同一目標(計画)に沿った活動を行っている全国組織の団体(成果の相対性) ④筆者の実務経験(スポーツ系)を考慮し、他分野の団体(客観性、偏見の除去) 以上の理由から、レビューを行った7事例のうち、自治体(市区町村)で活動するシルバー 人材センター(以下「センター」と記す。)の2団体(A社団・B社団)を選定した。 (4) シルバー人材センター組織の概況 公益社団法人全国シルバー人材センター事業協会( https://zsjc.or.jp/about/about_02.html 、2023年7月7日アクセス、以下「全シ協」と記す。)によれば、センターは、国等の高齢社会対策を支える組織として、概ね市区町村単位に設置されており、高年齢者等の雇用の安定等に関する法律(昭和46年法律第68号)の規定に基づいた事業を行っている。現在は、高年齢者を会員とした社団であることを原則とし、かつ都道府県知事の認定を受けた公益法人として活動している(厚生労働省所管)。そして、各都道府県単位に、シルバー人材センター連合会(以下「連合会」と記す。)が設置されており、全シ協、連合会、センターが一体となり、広いネットワークを活かした事業を展開している。 事業推進に係る計画では、全シ協が2018年3月に「第2次会員100万人達成計画(以下「100万人計画」と記す。)」を策定しており、このなかで、会員拡大を最重点課題としている 10) 。この拡大では、①女性会員の拡大、②企業退職(予定)者層への働きかけの強化、③退会抑制、④新生活様式に対応した多様な就業機会の開拓、⑤80歳超でも活躍できる就業環境の整備、これらを重点目標としている。なお、全国の会員加入者数をまとめたものが、 図表2 である。 図表2 のとおり、前調査時(2020年)における会員加入者数は、69万8,419人であり、それ以降、減少傾向にある。また、都道府県別の詳細は記載していないが、本稿で事例とする2団体が所在する県も減少しており、100万人計画策定時の2018年から2021年(両年を比較)にかけては、3.11%減少している 11) 。そうしたなか、A社団では13.53%、B社団では19.75%増加しており、県下上位2位を占め、その成果は顕著なものである。 図表2 シルバー人材センターの全国会員加入者数 出所:全シ協公開情報を基に筆者作成 2 分析の方法 本研究は、自治体外郭団体が「どのように」、あるいは「どのような」運営を行って(組織が変容して)いるのか、という実態解明を試行している。そのため、分析方法では、事例分析による定性的な方法が妥当である 12) とし、採用している。そして、本稿では、自己組織性の視角から、以下の理論的定義に基づき、吉永[2023] の議論を踏まえて、後述の2つの視点に限定した分析を行う。 (1) 自己組織性の定義 自己組織性とは、平易に言えば、ランダム (random) から秩序(order or rules) へと自ら組み上がる性質の総称(都甲他[1999]、6頁) であり、自然科学にその原典がある。この概念は、1970年代以降、社会科学の分野で多く応用されている(庭 本[1994]) が、本稿では、「システムが環境との相互作用を営みつつ、みずからの手でみずからの構造をつくり変える性質を総称する概念(今田[2005]、1頁)」と定義する。この定義のなかで、「環境との相互作用」とは、オープン・システム(open system)を示唆しており、これは、有機体的組織観であると考えられる。次に「みずからの構造をつくり変える」とは、自己の範囲を規定し、その規定した自己のなかで自らが変容していく、つまり、有機体の特徴である開放系のなかに特殊的な閉鎖性を内含している、このような見方である 13) 。 この定義における自己組織性は、基本的には、生命システムを一般化した概念(吉田[1989]、255-256頁)であり、有機体的組織観に立った非線形的・動態的な自己決定論である。そして、その特徴は、組織の変容過程のはじまり(ゆらぎ(fluctuation)の生起)となる兆しを重視しているところにある(今田[2005]、125-127頁)。 (2) 本稿における2つの視点 本稿における自己組織化(self-organization)は、 ゆらぎ 14) を変容の起点として、時間の経過とともに秩序化(形成・安定)するというメカニズム(mechanism)である。このフローを図示したものが、 図表3 である。 図表3 のように、組織内に発生したゆらぎ(個人による疑問や緊張など) 15) に起因して、自己言及(self-reference)を通じて、どのように秩序化していくのかを選択(selection)し、秩序化していく、このようなフローである。ただし、ここでの秩序化は、組織が静的な状態に向かい、その構造が硬直化していくことを意味している。そのため、とくに、活動に制約の多い組織においては、硬直状態(マンネリ化)に陥りやすいことが考えられ、これを打破するためには、断続的にゆらぎ(貯蔵情報:既存秩序への疑問)を内発させていくことが有効になると考えられる。これは、現状に満足せず、改善意識をもって自省的な運営を行っている組織に見られる特徴であると思われる。 ここで、今田[2005]は、シナジェティック (synergetic)な自己組織性の4つの特性を指摘している(28-34頁)。具体的には、第1特性が「ゆらぎを秩序の源泉とみなす」、第2特性が「創造的個の営み(self-discipline)を優先する」、第3特性が「混沌(unconventionality)を排除しない」、第4特性が「制御中枢(control-center)を認めない」である。そして、吉永[2023]は、これら4つの特性を踏まえて、5つの論点を指摘している(122-124頁)。本稿では、狭義的ではあるが、そのなかから、以下の「ゆらぎと組織」、「自己化」の2つの論点に絞り、集中的な考察を行う。 図表3 自己組織化のフロー 出所:吉永[2023]、124頁 ① ゆらぎと組織 「ゆらぎと組織」は、上述の今田[2005]による自己組織性の第1特性に関連するものであ る 16) 。これは、社会学の命題である「個人と社会」の関係性にも関連している(吉田[1995]、31-32頁)。本稿におけるゆらぎ、すなわち、組織を変容させる起点は、個人(構成員)であり、これは、同様に第2特性に関連している。反対の見方として、例えば、社会や組織の施策によって、組織が変容していくことが考えられるが、その場合においても、それを個人が自らの問題 として捉え、内発的に組織を変容させていく、このようなものの見方である。 次に、同様に第3特性は、第1特性の「創造的個の営み」を推進するため、構成員による組織への働きかけをノイズ(noise)とみなすのではなく、積極的に取り込む組織のあり方を指摘している。同様に第4特性は、特定の人間による支配的な運営に対する批判を意味している。これは、職位にかかわらず、ゆらぎがどのように組織の変容にかかわり、それを受容する体制が組織に備わっているか、という視点である。つまり、ここでの「ゆらぎと組織」とは、個人を起点に組織とどのように相互作用しながら、組織の変容、あるいは事業の推進を図っていくか、このような双方向的・相互作用的な視点である。 ② 自己化 「自己化」とは、文字どおりには、自己と化していくことであり、他者を自己に取り込む、あるいは自組織の運営に巻き込んでいく(自己増殖)、という意味が含まれる(例えば、上田 [1996]、中野[1996]を参照)。ただし、この場合、自己の組織をどのように規定するか、という問題が生じてくる。外郭団体であれば、事務局のみを組織と規定するのか、役員も含めるのか、あるいは社団であれば会員をも含めるのか、このような運営上の意識にも関わってくる。その一方で、例えば、自治体が外郭団体を取り込もうとすること(自治体の自己組織化)に対して、自己を保つという意味において、他者からの同一化に抗うことも自己化における特徴的な組織行動であると考えられる。 次に、自己の範囲を拡大していく、という視点がある。これは、活動(事業)に規制のかか りやすい外郭団体にとっては、どのように事業を拡大させていくか、という問題がある。その反対に、既存事業においては、どのように縮小・廃止していくか、という視点も同様にあり、組織の自由度や自己決定的な運営に起因すると考えられる。 以上のことから、本稿では、第1に、「ゆらぎと組織」の関連性に着目しつつ、どのように外部環境と相互作用しながら、内発的に組織を変容させているのか、第2に、組織変容(結果) としての「自己化」の視点から、自己の組織をどのように規定し、自らの存在意義を外部に示せているのか、このような考察を行う。換言すれば、「ゆらぎ」と「組織」との関連性 17) (独立変数)に起因して、その組織が外部環境と相互作用しながら、どのように「自己化」(従属変数) を図っているか、このような視点である。 (3) 概念の操作 上述の自己組織性の理論的定義、および2つの視点を踏まえて、本稿における鍵概念を「ゆらぎ」「組織」「自己化」の3つに特定している 18) 。そして、これらの概念に解釈を加え、実践的な視点(調査の着目点)としてまとめたも のが、 図表4 である。 図表4 自己組織性における鍵概念と実践的な視点 出所:筆者作成 III 調査の設計と結果 1 調査の設計 本研究で必要なデータを追加で収集するため、2事例を調査対象として、前調査に引き続 き、インタビュー調査(以下「本調査」と記す。) を行っている。なお、前調査と本調査のインタビュー内容(管理職対象)が、各事例の組織現象の説明を示せているかの信頼性を確認するため、一般職を対象にアンケート調査(以下「意識調査」と記す。)を行い、データ(回答内容)の妥当性を検証している(詳しくは、Vの後に掲載の「補論」を参照のこと)。 本調査の目的は、「ヒト」の組織への関わりが、運営にどのような影響を及ぼしているのかを自己組織性の視角から因果的に探索することである。そのため、前調査(3年前)の状況に加えて、さらに、過去の状況をヒアリングし、どのような人的要因により現況に至っているのか、という着眼で調査している。調査の概要は、 図表5 のとおりである。 本調査は、半構造化面接 19) を行っており、具体的な質問項目は、本調査の目的、および自己 組織性の視点( 図表4 )を踏まえて、 図表6 のとおり設定している。なお、応対者へは、文書化した質問項目を実施日前(2023年7月10日付) に、Eメールで通知している。 図表5 本調査の概要 出所:筆者作成 図表6 本調査における質問項目 出所:筆者作成 2 A社団の調査結果 (1) 前調査の概要 A社団の活動する地域は、2005年に9町村が 合併しており、センターもこれを機に統合している。ただし、概ね旧町村エリアに本所と支所 機能を備えているが、合併前のそれぞれのやり 方が統一できていないという問題を抱えてい る。この問題に対して、全シ協が掲げる100万 人計画に基づき、センター独自の計画を策定し ている(目標の数値化)。そして、目標値を役職 員に広く周知・共有することで、意識のばらつ きが解消方向に向かっていると指摘している。 換言すれば、共通目標を通じて、本所と支所間 の横断的な連携(機能)と、会員・役員・事務 局といった縦断的な関係性(構造)が強まって いると考えられる。また、常務理事は、職員の 個性や能力、経験を尊重し、在籍の人材を活か すことに考慮しつつ、定期的な会議等による情 報共有(コミュニケーション)の機会を設けている。 行政との関係性では、仕事の依頼に対して承諾、その反対に拒否している様子等から、従属的な関係ではなく、自己を保持している状況にあると思われる。また、組織の認知度を高め、存在意義を示すため、マスコミ等を活用した積極的な情報発信を行っている。 (2) 本調査の概要 2020年度から3年間にわたり、常務理事が中心となって、国の「きらりシルバー応援事業」に参画していた。参画の目的には、会員拡大・仕事の増加・事務の統一化の3つを掲げており、一定の成果を収めている。とくに、市からの仕事の増加が顕著であり、このことについて、これまでの活動実績による信頼性の高まりの表れであると指摘している。ただし、事務の統一化では、職員間では図られつつあるが、会員のやり方では、未だ地域性が残っており、旧来の秩序が優先されている状況がある。 また、運営面における法的な要請に関しては、全シ協や連合会からの指導・助言に受動的に対応する一方で、事業の本質的かつ実務的な部分に集中した運営を行っている。行政庁との関わりでは、法令等の遵守状況を確認する程度で、運営に関与されるような指導は受けていないと指摘している。なお、情報収集の一環として、県下の地域ブロックを超えて、B社団をはじめとするセンター(他ブロック)との意見交換会 に精力的に参加しており、積極的な交流を行っている。 3 B社団の調査結果 (1) 前調査の概要 B社団では、採用した職員が短期間のうちに、複数人が連続して退職した経緯を踏まえて、コミュニケーションを重視した運営を行っている。これは、人間関係のもつれ(不調和な職員の存在)に起因する職員の連続退職が運営に不安定な状況をもたらし、それに対応する形で、職員間のコミュニケーションの頻度を高め、秩序形成を図っていると考えられる。ただし、その展開は、事務局内にとどまらず、理事や会員へも広げており、全体的な協調に努めている。その一方で、類似団体による過去の不祥事を例に、特定の者が仕事を囲い込まない体制の必要性を指摘している。さらに、市との関係性では、副市長がB社団の理事であり、その発言から一定の評価を受けていると認識している。 また、多様な事業を展開していくなかで、会員を巻き込んだ事業を行う一方で、その属性にかかわらず、特定の者に頼らない運営を意識している。これは、今田[2005]による自己組織性の第4特性である「制御中枢を認めない」運営に関連すると考えられる。さらに、限られた財源や人材のなかで、どこまで事業を推進できるか、という自己言及的な運営を行っている。そのほか、県内外を問わず、先進的な取り組みを行っている他センターとの関係を構築し、情報交換・収集を積極的に行っている。 (2) 本調査の概要 一昨年前から雇用が安定に向かっており、その要因の一つとして、職場の雰囲気が改善されたことを指摘している。この改善と新たな事業化では、1人の若手職員による影響が大きいと指摘している。運営体制では、民間出身の代表理事、自治体出身の常務理事、プロパー職員の役職員がそれぞれの経験による得意を発揮し、考えに相容れない部分がありながらも、バランスの図られた事業が展開されている。また、会員拡大や退会抑止という共通目的を日頃から職員が共有し、相互の理解も高まり、提案の出しやすい雰囲気に変容している。これは、視察研修等による人材育成の成果であるとも考えられる。 全シ協と連合会との情報伝達では、全シ協による方針が連合会経由で各センターに流され、逆に、各センターから全シ協へ報告される情報が集約・拡張され、再びフィードバックされる仕組みが確立している。ただし、昨今のインボイス等の新法対応では、的確な情報が得られないことへの不安を募らせている。また、市から新しい事業提案を求められるなどの期待を感じられない不満がある一方で、仕事の依頼は増加している。なお、両事例から「センターの魅力度 21) 」の向上追求により多くの効用が得られるとの指摘があった。 4 まとめ 各調査結果では、それぞれに背景や問題意識が異なるため、応対者が指摘する事象内容に相違する部分があった。しかし、応対者の主観的な意識や現象の捉え方に相違があることは想定されることであり、それを否定、あるいは定式化しようとすると、実態の説明を不十分なものにすると考えられる。応対者に自由度を与えて、半構造化面接としているのも、このような想定によるものである。その結果、とくに、「ゆらぎ」の事象に関しては、相違した部分が顕著に表れている。その一方で、「組織」と「自己化」の事象では、共通する部分が多く表れている。主な内容は、次のとおりである。 (1) ゆらぎ 「ゆらぎ」関連の事象では、A社団は、新たな秩序形成を推進するための「事業計画」を、B社団は、新たに事業化するための「ヒト」の多様性に着目している。このような相違の要因の一つとして、応対者の職位や属性( 図表5 )による主観的な意識の違いがあると考えられる。具体的には、A社団の応対者(自治体退職者) は、職員の個性に対する言及はそれほど多くなく、団体の旧来の秩序(地域性)や閉鎖的な活動(不十分な情報受発信)を問題とした俯瞰的な見方を行っている。その一方で、B社団(プロパー職員)は、前調査当時、職員が連続退職している状況などもあり、雇用管理(人的資源管理的考察)を中心とした近視眼的な見方を行っている。このようなミクロ・マクロの対照的な視点により、ゆらぎに関する事象内容が異なっていると考えられる。 (2) 組織 「組織」関連の事象では、両事例で共通する部分が確認された。例えば、コミュニケーション機会の創出、外部組織との交流や積極的な情報収集の推奨といった個人(職員)を支援する組織の体制に関する指摘がある。これは、今田 [2005]の指摘(自己組織性の第3特性)に関連するものであり、ゆらぎの発生しやすい状況をつくり出していると考えられる。とくに、B社団では、連続退職に歯止めがかかり、職員が個性を発揮している状況から、個人に対する組織の受容体制が整備され、安定方向に向かっていると考えられる。 (3) 自己化 「自己化」関連の事象では、上述の「組織」と同様に、両事例で共通する部分が確認された。その要因の一つとしては、全シ協が掲げる最重点課題(会員の拡大)が両事例の共通課題であることに起因していると考えられる。その反対に、相違する部分に関しては、その内容からゆらぎ事象(独自の取り組み)への対応といった因果的な関連のある事象であると思われる。また、自治体との信頼関係を意識した運営を行っている一方で、依頼に対する受託の状況から、主従の関係性にはなく、独自性を発揮した運営を行っていると考えられる。 以上のように、データに特徴的な部分と共通する部分のそれぞれが存在しているが、いずれも組織の実態を明示しているものであり、以下では、得られたデータに基づき、考察を行う。 IV 考察 A社団では、常務理事のリーダーシップがゆらぎとなり、事業を推進しているが、B社団では、役職員に多様な個性があるなかで、それぞれの得意を活かし、バランスを図った運営を行っている。また、両事例とも、職場の雰囲気や人間関係に重きを置き、情報の流れやすい状況を創り出している。さらに、共通して、内部のみならず、外部との交流を通じて、積極的に情報収集を行っている。自治体との関係性も良好であり、外郭団体特有の人事的な問題(出向者とプロパー職員との対立)が表面化している状況はなかった。 前調査から3年という短期間のうちに、両事例とも、行政からの仕事の依頼が増加している。このことについて、A社団は、これまで築いてきた信頼の表れ、B社団は、一部不満があるものの運営に対する一定の理解を得ている主旨を指摘している。そして、両事例に共通して、運営における裁量的な部分に対する自治体からの指導等はなく、法的な準拠状況の確認に留まっている。これらのことから、自治体側が団体運営に対して関心がないということではなく、組織の成果を踏まえて、自律性を尊重し、独自性を認めていると考えられる。さらに、全シ協等との関係性においても、支配的・従属的ではなく、それぞれに役割が存在し、対等な関係にあると考えられる。 以上のことから、 図表4 で提示した自己組織性の鍵概念に関連する事象をまとめると、 図表7 のようになる。 図表7 を踏まえて、自己組織性における2つの視点による考察を提示する。まず、本研究の第1の視点(ゆらぎと組織) に関する考察では、第1に、ゆらぎの起点となる職員(要素)の多様性が組織の変容に影響を与えている、ということである。A社団では、常務理事が起点となり、組織の変容(新たな秩序形成)を促しているが、特定の人間によるゆらぎの発生は、短期的には有効であっても、中 長期的には自己組織化が停滞していくと考えられる 22) 。これは、今田[2005]の自己組織性の第4特性(制御中枢を認めない)の指摘による。B社団では、経歴の異なる役職員による意識の違いがゆらぎとなり、変容の起点になっている。そして、職員間の関係性が良好で情報伝達が円滑となり、変容機会が増えていると考えられる。なお、職員の異動が限られ、組織が硬直化傾向にある外郭団体においては、組織を動的に活性化する意味において、自治体出向者の定期的な交代は、リスク要因に転じることもあるが、有 効であると考えられる。 第2に、外部と相互作用する意味において、積極的に情報を取り入れている、ということである。情報とは、あるところからないところに伝わる性質がある(例えば、吉田[1990][1995] の指摘)が、本事例では、上位団体から下位団体へ、その反対に、下位団体から地域的・局所的な情報を上位団体に報告するといった相互伝達の仕組みがあった。また、事例では、他団体(外部)から意欲的に情報収集を行い、とくに、B社団では、先進的な取り組みを行っている団体との関係を構築し、多くの職員に視察・研修機会を与えることで、意識の変化(ゆらぎの発生)を促進させ、組織が変容する機会を創り出していた。 次に、本研究の第2の視点(自己化)に関する考察では、第1に、自己の組織に多様な(他者的)要素を取り込み、協調的な運営を行っている、ということである。事例では、会員との 良好な関係性を重視しており、とくに、退会抑制という観点から、会員満足度を高めるための施策を積極的に実行している。それには、公益追及、あるいは事業拡大のために会員の拡大が必要であり、その拡大のために会員満足度を高める、というロジック(logic)がある。これは、両事例から指摘のあった「センターの魅力を高める」という意味において、自己増殖的に組織を拡大させる組織現象であると考えられる。 第2に、自らの役割を明確にすることで自己を保持している、ということである。両事例では、法的な要請への対応を上部組織に委ね、裁量的な部分に注力している状況が確認された。つまり、それぞれが役割を認識(自己の範囲を規定)し、責任を果たすことで、結果として、全体の効率化を図っている。また、仕事の依頼数の増加によって、自治体との関係性が従属的になることはなく、自己を保持した運営を行っている。換言すれば、自治体への経済的な依存度が高まれば、自治体側の自己組織化に取り込まれることが考えられるが、そのような状況にはない、ということである。 図表7 自己組織性の鍵概念に関連する発見事象 出所:筆者作成 V おわりに 本研究は、自己組織性理論に依拠し、自治体外郭団体を対象に組織現象の考察を行っており、実証的な研究を通じて、理論検証へも貢献できた部分があるように思われる。さらに、事例研究という集中的なデータ収集を行うなかで、多くの因果的要因としてのデータを得られたように思われる。しかし、研究の課題に立ち返れば、事例を用いた限定的な方法であったため、外郭団体全体の様相を明示しているとは言えず、あくまで部分的な議論に留まっている。また、事例から十分にデータを抽出できているとは言えず、引き続きの考察が必要である。そのほかにも多くの課題があるが、ここでは、自己組織化のメカニズムに関連して、時間軸に関する課題を提示する。例えば、高寄[1991]は、外郭団体を「形態・性格別」に分類しており、このうち「性格別」に分類したものが、 図表8 である。 図表8 は、あくまで分類の一例であるが、外郭団体の概念を捉えるために、多くの次元による類型が開発されている。しかし、本事例でも明らかになったように、時間の経過とともに外部からの評価や事業の内容が変わっていく。そのため、同一組織であっても、結局のところ、一時的な状態(分類)を示しているに過ぎないのである。そのように考えると外郭団体の再定義もそうであるが、類型化することの意味を問い直し、時間軸を考慮した新たな次元開発が意義深いものになってくると思われる。 さいごに、本研究の含意を述べる。本稿では、筆者(外郭団体実務者)の事業分野とは異なる事例を取り上げたわけであるが、そこで働く人々の悩みや問題意識、また、実務的経験による偏見やマンネリ化の状況などには、それほど大差がないように思われた。これは、本稿で紹介できなかった他の5事例からも感じられたことである。自治体外郭団体は、少なからず自治体の様子を伺いながら、運営を行っていると思われる。本事例で紹介したように、自律的・能動的な運営により、成果が得られている団体がある一方で、それとは対照的に、自治体による指導監督の下、確実かつ受動的な運営に徹し、連携重視で成果を収めている団体があると考えられる。本稿では、それら対照の是非についての議論には至らないまでも、そこで働く人々が自組織の現状を認識し、将来の運営を考えるきっかけになれば幸いである。 ところで、自治体の評価を意識するあまり、会員や利用者を軽視しているような状況はないだろうか。少なくとも、本事例では、そのような様子は確認できなかった。共通する特徴では、積極的に情報を取り入れ、地域の実状にあわせて事業化し、着実に実行する、それら一つひとつの取り組みが成果に結実している。それは、独創的な施策というのではなく、共有する目標の達成に向けて、社会を巻き込みながら、自己組織を成長させていく、このようなことを徹底した結果であり、いずれの団体も試行可能であると思われる。 図表8 外郭団体の性格別分類 出所:高寄[1991]、71頁を参考に筆者が加筆修正 補論 意識調査の概況 意識調査の目的は、各事例の管理職と一般職との意識の差異を検証することである。具体的には、一般職対象のアンケート調査を実施し、2019年調査のデータ(管理職データ)との相関性と平均値の差異から検証する。以下は、調査分析の概況である。 (1) 対象と方法 調査の対象は、各調査先(事例)に所属する一般職(課長級より下位)である。 調査の方法は、「質問(兼)回答票(10問70項目(5尺度)、記述1問)23)」を両センター事務局 に持参し、対象者15名に配布していただいている(無記名方式)。また、回収方法は、郵送で返信(筆者の職場あて)していただく方法を採用している。 (2) 実施概要 ①実施期間:2023年 7 月18・19日(持参日) ~8月1日(返送の締切) ②回答数:11件(回収率:73.3%) (3) 分析の方法 2019年調査による「管理職データ」と意識調査による「一般職データ」の平均値との相関関係(係数)を事例ごとに求める(n=70)。次に、確認した相関関係を別のアプローチで確認するための検定を行う。 (4) 分析の結果 両事例の管理職と一般職の各データの相関関係を求めたものが、 図表9 である。 図表9 による相関係数の結果、両事例とも管理職と一般職との関係には正の相関がある。さらに、P値が有意水準(0.05)を下回っており、帰無仮説は棄却され、相関係数は統計的に有意である。 次に、別の方法として、平均値の差異が統計的に有意であるかを検証するため、「分散が等しくないと仮定した2標本による平均値の差の検定」を行った結果が、 図表10 である。 図表10 のとおり、P値が有意水準(0.05)を下回っており、相関がないという帰無仮説は棄却され、相関係数は統計的に有意である。したがって、本論における前調査と本調査のデータは、組織の状況を説明できていると解され、これを前提に進めている。 図表9 管理職と一般職のデータによる無相関検定 出所:筆者作成 図表10 分散が等しくないと仮定した2標本による平均値の差の検定の結果 出所:筆者作成 [謝辞] 本稿執筆にあたり、本学会報告を通じて、吉田忠彦先生をはじめとする諸先生方から建設的なご指摘をいただいた。また、2名の匿名査読者にも有益なコメントをいただいたこと、記して感謝申し上げたい。もう1人、80歳を迎えた母利子、いつも応援ありがとう。 [注] 1) 本研究に先立ち、非営利組織の自己組織性に関するアンケート調査(主に中国地方の公益法人を調査対象(回収数119)、以下「2019年調査」 と記す。) を 行っている(吉永他 1[2020]、 吉永[2021])。そのなかで、組織の成果(質問項目25)に関する質問を行っているが、「2.サービスや施設の利用者(会員)数が増加すること(平均値3.96/5尺度)」の項目が上位3位であり、外郭団体を含む公益法人が会員や利用者数を定量的な成果指標の一つに位置づけていることが分かる。 2) 都と協働して事業等を執行・提案し、都と政策実現に向け連携するなど、都政との関連性が高く、全庁的に指導監督を行う必要がある団体。 3) 主体的に都と事業協力を行う団体のうち、資本金等の出資等を受けている団体(①継続的 な都財政かつ都派遣職員の受入、②都財政からの受入割合が50%以上、③全社員に占める都派遣職員割合が5%以上、④都関係者が常勤役員に就任のいずれか)。 4) 県の出資等比率が25%以上、かつ出資等比率が最も大きい法人や県行政と密接な関係を有する法人など、県が主体的に指導する必要があるものとして県が認める法人。 5) 県主導第三セクター以外の第三セクター。 6) 第三セクターのうち、県から財政的・人的支援等を受けることなく事業を展開することが可能な状態であるなど、県から自立したとして、県が認める法人。 7) (1)府が資本金等の2分の1以上を出資等する法人、(2)府が資本金等の4分の1以上、2分の1未満を出資等し、かつ府の出資割合が最も大きい法人のうち、①府職員、または退職者が常勤役員に就任する法人、②府からの補助金、委託料など、財政的支援による収入が経常収益等の概ね2分の1以上の法人、ほか2項目のいずれかの基準に該当する団体、(3) 府の実質的な出資等の割合が2分の1以上、または4分の1以上2分の1未満の法人であり、かつ(2)2の基準に該当する団体、(4)(1)~ (3)以外の法人で、府が損失補償を行っている 団体。 8) 例えば、日本経済新聞[2022a][2022b]によれば、株式会社北九州ウォーターサービスは、全国に先駆けて水道事業をカンボジアで展開しており、また、一般社団法人金沢市観光協会(金沢文化スポーツコミッション部門)は、文化・スポーツ・観光という縦割り行政の垣根を超えた事業を行い、市に経済的効果をもたらせている。 9) 前調査は、2019年調査の回答結果の確認と調査対象である公益法人の自己組織性の程度を定性的に分析するために行った半構造化面接(前川[2017]の指摘を参照)である。このデー タの大部分は、吉永[2021]に収納されている。 10) 公益社団法人全国シルバー人材センター事業協会の令和5年度事業計画(2023年3月)を参照( https://zsjc.or.jp/kyokai/acv_pdf?id=32、 2023年7月7日アクセス。)。 11) 県連合会から、研究目的という条件で、Eメール(2023年6月29日受信)により情報提供していただいており、本稿への記載は最低限に留めている。 12) Yin[1994] は、「どのように」の問題は、 単なる頻度や発生率よりも経時的な追跡が必 要な操作的結びつきを扱い、説明的であるため、事例研究が望ましいと指摘している(1、 7-13頁)。 13) 本稿における自己組織性は、開放性と閉鎖性、有機体観と精密機械観(坂下[2009]、83-94頁) といった従来から経営学で議論されているような二項対立する概念のいずれかからアプローチするというものの見方(組織観)ではなく、それら対立概念が両立することを前提とした視角である(今田[1986]、10-12頁)。 14) 今田[2005]によれば、システムの均衡状態からのズレである(19頁)。 15) 吉永[2023]は、吉田[1990]を踏まえて、 ①既存秩序を変容させるゆらぎ(貯蔵情報)と、 ②新たな創造を促すゆらぎ(変異情報)の2つがあることを指摘している。換言すれば、 ①組織の静的な(static)状態に疑問を呈する形で推進を促す要因と、②組織の創発的な活動を推進する要因の2種のゆらぎである。 16) 今田[2005]は、シナジェティックな自己組織性の4つの特性のうち、第1特性を最大特性と指摘している(28-30頁)。 17) 例えば、今田[2005]による指摘がある(6- 9頁)。 18) ここでは、Yin[1994]が指摘(45-53頁)する「構成概念妥当性(construct validity)」 を考慮しており、証拠源は、吉永[2023]の研究に依拠している。 19) 両応対者には、研究目的での利用許可と紙面での内容確認をしていただいている。 20) 両事例とも、公益法人制度改革に関する影響はそれほどなかったと述べている。 21) ここでの「センターの魅力度」とは、全シ協発行の「令和5年度事業計画(注記10を参照)」 における「1 会員の拡大」の取り組みとしての「(3)魅力あるセンターづくり(6頁)」 に関連するものであり、シルバー人材センター全体の共通目標である。 22) 「特定の人間による」ゆらぎは、今田[2005] が指摘する自己組織性の第4特性(制御中枢 を認めない)に反するものである。とりわけ、A社団の事例では、常務理事のリーダーシッ プ(ゆらぎ)への依存が常態化すれば、実務上の組織トップであることにも関連して、制御中枢機能が強まっていくと考えられる。 23) 意識調査の質問項目70の設定は、2019年調査の全10設問、質問項目141のうち、5尺度点数で各設問の上位と下位の各3~4位の項目に絞って作成している。 [参考文献] 朝日監査法人パブリックセクター部編[2000] 『自治体の外郭団体再建への処方箋』、ぎょ うせい。 今田高俊[1986]『自己組織性―社会理論の復活―』、創文社。 今田高俊[2005]『自己組織性と社会』、東京大学出版会。 上田哲男[1996]「生命体―粘菌に見る自己組織―」、北森俊行他1編[1996]『自己組織化 の科学』、オーム社、21-32頁。 蛯子准吏[2009]『外郭団体・公営企業の改革(自治体経営改革シリーズ)』、ぎょうせい。 坂下昭宣[2009]『経営学の招待(第3版)』、白桃書房。 高寄昇三[1991]『外郭団体の経営』、学陽書房。地域政策研究会編[1997]『最新地方公社総覧(平成2年版)』、ぎょうせい。 都甲潔他2[1999]『自己組織化とは何か―生物の形やリズムが生まれる原理を探る―』、 講談社。 中野馨[1996]「人工物における自己組織」、北森俊行他1編[1996]『自己組織化の科学』、 オーム社、51-71頁。 庭本佳和[1994]「現代の組織理論と自己組織パラダイム」、『組織科学』Vol.28 No.2、37-48頁。 前川あさ美[2017]「第13章 面接法―個別性と関係性から追求する人間の心―」、高野陽 太郎・岡隆編[2017]『心理学研究法―心を見つめる科学のまなざし(補訂版)』、有斐閣 アルマ、257-283頁。 吉田忠彦[2017]「非営利法人制度をめぐる諸活動とそのロジック」『非営利法人研究学会 誌』第19号、13-22頁。 吉田民人[1989]「情報・資源・自己組織性 ―創造性研究のための一つの視角―」、野中郁次郎・恩田彰・久野誠之・大坪檀・梅澤正・井原哲夫・田中真砂子・吉田民人[1989]『創 造する組織の研究』、講談社、239-275頁。 吉田民人[1990]『情報と自己組織性の理論』、 東京大学出版会。 吉田民人[1995]「第I部 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- ≪統一論題報告≫ 非営利法人の官民協働理論の応用としての 『フィランソロピー首都』創造に向けた取り組み
PDFファイル版はこちら ※表示されたPDFのファイル名はサーバーの仕様上、固有の名称となっています。 ダウンロードされる場合は、別名で保存してください。 国立民族学博物館名誉教授 出口正之 キーワード: 「民都 ・大阪」フィランソロピー会議 セクター間協働理論 アンソロ・ヴィジョン ビジネスセントリズム 非営利法人 公益法人 要 旨: 大阪府、大阪市が事務局を務めていた「民都・大阪」フィランソロピー会議は、大阪の副首都ビジョンの4つの副首都のうち「民都」を活性化させるための会議体であったが、諸般の事情から、予算ゼロの状態で誕生、継続してきた。同会議は運営において学術理論の成果を多分に入れながら、民間の活性化においてビジネスセントリズムを超克するために、あえて濫立する非営利法人の法人格別の代表者をメンバーとして活動を展開してきた。予算ゼロの状態を7年間にわたって続けながら、逆にそのことでBX時代を先駆けることになった。「小さな勝利」をつかみ取りながら、日本で最初の「フィランソロピー都市宣言」を行い、財団・社団の都道府県での連合組織を設置することに成功した。この「大阪方式」というべき手法は、内外の地域行政における官民協働の新しいモデルとなりうるものである。 構 成: I 問題の所在としての地域非営利政策の実態 II 「民間活力=企業の活力」という幻想 III 「民都・大阪」フィランソロピー会議の誕生 IV 非営利理論の応用 Ⅴ 理論を信じた先のコロナの追い風 Abstract The Minto Osaka Philanthropy Conference, whose secretariat was positioned in both the governments of Osaka Prefecture and Osaka City, was established to revitalize “capital as private sector,” one of the four sub-capital concepts of Osaka’s sub-capital vision. Due to various circum- stances, however, it was created and continued to operate without a budget. The Conference incorporates a number of academic theories into its operations; and in order to overcome “business centrism” in revitalizing the private sector, the Conference has developed its activities through collaboration with the representatives of various not-for-profit corporations. Although the Conference continued to operate without a budget for seven years, it ushered in the BX era. While seizing small victories, it succeeded in making Japan’s first Philanthropy City Declaration and establishing a coalition of foundations and associations in Osaka prefecture. This method, which might be called the “Osaka method,” may serve as a new model for public-private collaboration in local government not only in Japan, but also throughout the world. Ⅰ 問題の所在としての地域非営利政策の実態 日本の法人政策は、明治民法の成立により、「公益法人制度」と「営利法人制度」を両輪としてスタートした。しかし、第二次世界大戦後の事情から、公益法人から、省庁別の学校法人、社会福祉法人等の法人格が分離して誕生し、非営利法人は完全にガラパゴス化し、一般的には非営利法人全体というものが観念しがたいものとなっていた(出口2015 a;2015b)。 学校法人や社会福祉法人は、都道府県ごとに、連合体が作られてきた。社会福祉法人はそもそも法律の中で社会福祉協議会が強制的に設置されたほか、民間レベルでも全国社会福祉法人経営者協議会、全国老人福祉施設協議会等が誕生し、地方連合組織と連携を有している。学校法人は日本私立大学協会、日本私立大学連盟の二つの民間組織が立ち上がり、さらに両者によって日本私立大学団体連合会が結成されている。1998年に民主導でできあがった特定非営利活動法人(以下NPO法人という)にあっても、地方において、「中間支援組織」と称する中核的なNPO法人が民主導で続々と誕生していった(吉田2004)。これらは地域における連合組織としての役割も果たして、日本NPOセンターとも連携がある。 こうした連合体があることで、法律に基づく、私立学校審議会、社会福祉審議会等が設置され、それぞれの法人の連合体関係者が起用されたり、推薦されたりすることによって委員が誕生してきたものと考えられる。例えば、大阪府の委員構成を見てみよう( 表1 )。大阪府私立学校審議会では18人中12人が私立学校の関係者である。また、社会福祉審議会では21名中5名が社会福祉法人関係者である。他方で、大阪府公益認定等委員会では定員5名のところ、公益法人関係者はゼロであり、委員会が施行された2007年から誰一人公益法人の肩書を有した人は委員に入っていなかった 1) 。法律では委員構成については、「法律、会計又は公益法人に係る活動に関して優れた識見を有する者のうちから」(公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律第25条)と規定されており、この点は大阪府の条例も同様である。それにもかかわらず大阪府では、「公益法人に係る活動に関して優れた識見を有する者」については、NPO支援組織の関係団体関係者から交互に人選を行ってきたという経緯があった。同様に、全国の地方の公益認定に係わる委員会の委員230名のうち、公益法人の肩書を有する委員はわずかに1名しかいないという状況であった 2) 。 「公益法人」は主務官庁による「許可制」であったことから、省庁別に許可・指導・監督が行われ、公益法人全体の名簿ができたのですら、1990年代に入ってからである。その全体像を概観することすら長い間できなかった。 国・地方との関係でいえば、それぞれの事業主体、例えば各種スポーツ団体やシルバー人材センター等が都道府県レベルの組織と統括団体としての国レベルの組織を持つことは珍しくはないが、「公益法人の大要を会員を持つ連合体」としての都道府県単位の連合組織は存在してこなかったのである。 また、2006年の公益法人制度改革によっても、認定・監督は行政庁としての内閣府、地方にあっても「行政庁」に統一されたが、その内容は地方ではいわゆる「分散管理」と称し、旧主務官庁時代の文化的残滓を引きずる形で縦割り行政が残っている地方すら存在する。 ましてや、公益法人、学校法人、社会福祉法人、医療法人、NPO法人等非営利組織全体を包括する連合組織は国レベルでも地方レベルでも存在しない。 これは営利セクターに経済団体連合会、商工会議所、個人参加であるが経済同友会という組織が存在していることと比べると大きな違いである。経済界はこうしたチャネルを使って政策上の協力、情報の伝達や意見表明等が容易に行われるようになっている。したがって、民間組織としても「顔の見える存在」として大きな影響力を有している。 表1 大阪府の委員構成(いずれも令和5年3月31日現在) 出所:筆者作成 II 「民間活力=企業の活力」という幻想 上記のようなプレゼンスにおける営利セクターと非営利セクターのアンバランスは各所で見られるが、非営利セクターの存在そのものが抹殺されていても誰も気が付かない事態まで生じている。 大阪は1970年の大阪万国博覧会(以下「70年万博」という)の成功の後、「二眼レフ論」をはじめとして、政府のセクターは東京に任せ、経済に重きを置いた「民間活力の活性化」が謳われてきた。しかし、「民間」と言ってもそこで語られるのは常に企業のことであり、「民間活力活性化政策=企業だけの活性化政策」がほぼ繰り返し打ち出されていた。政府・企業以外の「第三の非政府・非営利セクター」を見ているようで見ていない「民間=企業」という思い込みは、すでに70年万博に象徴的に表れていた。 ジリアン・テッドは人々が常識と思って思考が固まってしまうことによる視野狭窄を指摘している。文化人類学的な見方である「アンソロ・ヴィジョン」によってクリティカルな視点で物事を見る重要性を繰り返し説いているのである (テッド2016,2022)。 例えば、アンソロ・ヴィジョンによって70年万博を見てみよう。70年万博にはパビリオンを出展していた公的セクターについては、国、州政府(ケベック州等)、「市政府」(ロサンジェルス市等)、さらには、「政庁」(当時イギリス領であった香港市)といった細かな区分による記載がありながら、企業ではない非営利法人の社団法人、財団法人がパビリオンを出展しながら、民間のパビリオンはすべて「企業」とだけ公式記録に記載されていた。こうした民間部門を企業限定のものとして見る見方を筆者は「ビジネスセントリズム」(出口2021)と呼ぶが、ビジネスセントリズムに基づく政策がとられていたのである。 もちろん、非営利セクターが無視できるほどの小さな存在であれば、それも構わないのかもしれない。そこで、内閣府の推計調査から民間非営利団体の経済規模を見てみよう(内閣府経済社会研究所2022) 3) 。 収入ベースでみると、令和3年度の民間非営利団体の収入は、全団体合計では20兆4,362億円で前年度比6.5%増となっている。主な収入項目別にみると、移転的収入 (寄付金や会費、補助金等の収入)は14兆1,138億 円で同3.6%増、事業収入(博物館や美術館の入場料収入、宗教団体への御布施・賽銭、保育料等の利用者負担金等の収入)は 5兆9,575億円で同13.8%増である。ちなみに、卸売業・小売業全体で18兆円。宿泊・飲食サービス業17兆円(経産省令和3年経済センサス-活動調査)である。これだけの大きなセクターを無視し続けてきてよいはずがない。しかも、政府の重要な政策であった2%の経済成長を大きく上回っている。 世界的にも、資本主義の発展に伴う超富裕層の世界的な誕生、富裕層の多いベビー・ブーマーの遺贈寄付の増加などがあって、現代は「フィランソロピーの黄金時代」(Havens& Schervish, 1999;Ferris, 2015)とまで呼ばれていて多くの国でフィランソロピー拡大に伴う非営利セクターによる公共政策への期待が高まっている。 他方で、フィランソロピーを研究課題としていた筆者にとって、地域の発展という観点から、衝撃を受けたのが、オーストラリアの地理学者が、「フィランソロピーの黄金時代」における、都市間バランスの崩れを批判的に検討したことである(Hay& Muller 2014)。政府の政策は地域間バランスに配慮せざるを得ない。しかし、Hay& Mullerによれば富裕層が一挙に行う巨大フィランソロピーの場合には、都市を任意に選べるために、都市間バランスを極端に失わせるというものであった。実際に、日本の場合には大型財団は東京に集中しており、拱手傍観していれば、民間寄付の活性化によって、東京一極集中が加速することが容易に予想されたのである 4) 。この点からの地方視線による非営利政策の見直しは喫緊の課題だと考えることができる。 III 「民都・大阪」フィランソロピー会議の誕生 2017(平成29)年3月大阪府及び大阪市(以下「大阪府・市」という)が副首都ビジョンを発表。副首都の「西日本の首都」「首都機能のバックアップ」「アジアの主要都市」「民都」の4つの機能が提案され、そのうちの一つに「民都」が盛り込まれた。但し、ここでいう「民都」とは、上記のような視点に立って、これまで大阪の都市活性化政策上、無視され続けた非営利セクターを前面に出したものである 5) 。 この「民都」に基づく新しい会議体設置のため、同年4月に「(仮称)大阪フィランソロピー会議に向けた準備会」が発足し、12月まで9回にわたって議論が行われた。2018年2月5日に正式に発足したのが、「民都・大阪」フィランソロピー会議である。 同日の会議資料に設立の理由が下記の通り述べられている。 「わが国において、NPOや社会的企業など新たな公共の担い手の増加、CSR(企業の社会的責任)への関心が進む一方、世界では、寄附や投資等を通じた公益活動が、社会的課題解決の第三の道として新たな時代の潮流となっている。都市発展の歴史において民の力が大きな役割を果たしてきた大阪は、『民』主役の社会づくりを発信する『民都』として、フィランソロピーの促進により、税による分配ではない第2の動脈(フィランソロピー・キャピタル)として資金や人材を集め、非営利セクターの活性化を通じて、『フィランソロピーにおける国際的な拠点都市』をめざしている。 そこで、多様な担い手が、法人格の縦割りや営利・非営利の区分を越えて一堂に集い、それぞれが公益活動を担う主体だということを再認識し、大阪の民の連携・協力によりその存在感を国内外に示す『核となる場』として、『民都・大阪』フィランソロピー会議を設立することとした。「民都・大阪」フィランソロピー会議(大阪府2018a) 会議のメンバーについては、非営利組織の『代表者』であることを重要視し、学校法人である関西大学の池内啓三理事長、社会福祉法人聖徳会の岩田敏郎理事長、公益財団法人大槻能楽堂の大槻文蔵理事長(能楽師・人間国宝)、公益財団法人小野奨学会の久保井一匡理事長(元日本弁護士連合会会長)、特定非営利活動法人大阪NPOセンターの金井宏実理事長、公益財団法人藤田美術館の藤田清館長、特定非営利活動法人トイボックスの白井智子代表理事らとともに、任意団体である大阪を変える100人会議の施治安代表も入り、非営利組織の法人格による差を付けなかった点に非常に大きな特徴がある 6) 。 また、大阪府・大阪市は、民都を民が目指すものであるということから、大阪府・大阪市は「当面の間」事務局は務めるものの、会議メンバーへの謝金・交通費その他の費用を拠出しないということで開始した 7) 。 表2 は2017年からの「民都・大阪」フィランソロピー会議の足跡を年表としてまとめたものである。 2018年6月には「フィランソロピー都市宣言」を行い、吉村市長(当時)が読み上げた(大阪 府2018b) 8) 。 フィランソロピー大会は当初は会場を大阪市の会議室や無償提供いただける民間の場所で開催していたが、コロナ発生とともに、イベント開催費用がないことから、オンラインでの開催が進んだ。大阪府・大阪市の会議の中でZOOMを使って行ったのも、「民都・大阪」フィランソロピー会議が最初となった。 また、2019年には、毎年約1200億円発生すると言われた休眠預金を社会的に活用するためにできあがった法律(民間公益活動を促進するための休眠預金等に係る資金の活用に関する法律)に基づく全国で唯一の指定活用団体が公募されることになった。これに対して、「民都・大阪」フィランソロピー会議の設立趣旨からいっても傍観するわけにはいかないとして、同会議は一般財団法人民都大阪休眠預金等活用団体を設立し、休眠預金の公益性を鑑み、公益認定を目指すことを前提に、指定活用団体にも応募した 9) 。この過程で、休眠預金活用の情報や指定活用団体に対する公募の情報が、大阪においてはわずかにNPO法人間に流布していることはあっても、大阪全体に伝わっていないことも明確になった。とりわけ、関西経済団体連合会、大阪商工会議所、関西経済同友会のいわゆる財界3団体の関係者には指定活用団体公募の話は全く伝わっていなかったことも明らかになった 10) 。 その後も、「民都・大阪」フィランソロピー会議は、予算なしという状態の中で活動を続け、2022年には、報告書の提言並びにフィランソロピー大会の提唱を受けて、大阪財団・社団連合会(会長堀井良殷)を発足させるに至った。条例では大阪府公益認定等委員会の委員として「公益法人に係る活動に関して優れた識見を有する者」とありながら、これまで公益法人の関係者が委員に就任していないことから、同連合会は行政庁としての大阪府法務課公益法人グループに対して、公益法人の関係者を次期の大阪府公益認定等委員会委員に選任することなどを推奨した。その結果大阪府では、2006年の公益法人制度改革以降、公益法人の肩書を持った者が初めて選任された。 大阪における非営利法人の結集という当初の構想は、極めて微々たる前進であるが、着実に進んだのである。 今後、公益法人、学校法人、社会福祉法人、NPO法人、医療法人等の大阪での結集を呼び掛ける予定である。公益法人以外の法人格では中間支援組織が大阪府内に存在していたことから、大阪財団・社団連合会の結成は、「ジグゾーバズルの欠けた1ピース」を新たに作ることに 成功したわけであり、とても意義の大きなものとなった。 「民都・大阪」フィランソロピー会議では、都道府県レベルにおける財団社団の連合組織の結集さらに非営利セクター全体の結集を「大阪モデル」として他の都道府県にも結集を呼び掛けていく予定である。 表2 「民都・大阪」フィランソロピー会議 略年 出所:筆者作成 IV 非営利理論の応用 「民都・大阪」フィランソロピー会議は、行政によって設置されながら、予算を付されないという前例のない中でスタートしたが、微々たるものとはいえこれまで着実な成果を上げることができた。官民協力の観点からも非常に注目すべき事例と考えている。 通常、例えば、官民協力に関する研究を実施する研究者は、ある事象について事後的に検証していくことがほとんどである。ところが、行政の一部局が事務局を務めながら、予算がない上に行政トップの関心は薄いという極めて難しい条件下で、研究者である筆者は議長という大役を任された。そのことから、逆に、既存の理論を、直接、応用しながら、「民都・大阪」フィランソロピー会議の運営にあたることを意識せざるえなかった。理論的支柱としたのは、 Bryson, Crosby, &Stone(2006) である(以 下 Bryson et.alと表記) 11) 。 同論文は非営利分野のセクター間協働の論文の広範なレビュー調査に基づいて、セクター間協働の成功の要因を指摘した論文から抽出した実践的なガイダンスを示していた。言い換えれば、セクター間協力の成功の要素を、「初期条件」、「過程」、「構造およびガバナンス」、「偶発事象と規制」とに分類し、それぞれが、結果にどのように影響を与えるかについて明確に提示したものであった。 「民都・大阪」フィランソロピー会議は同論文を羅針盤としながら運営していった。 協働の「初期条件」として、混乱した環境でこそ協働が形成される可能性が高くなる(Fred &Trist1965)点を強調している。確かに、行政が順調な間は行政があえて他のセクターと協働していく必然性は薄い。「民都・大阪」フィランソロピー会議が結成される前には、大阪は極めて混乱した状況にあった。彗星のごとく現れた弁護士の橋下徹氏が強力な行政改革を実施し、巨額財政赤字にメスを入れ、次に「都構想」を打ち出し、大きな一歩を踏み出そうとしたところ、住民投票において僅差で破れ、事前に約束した通り、大阪府知事を辞任した。そのことで、2015年11年22日に大阪府知事・大阪市長ダブル選挙が実施され、「都構想」を公約に挙げることができないまま、大阪維新の会は「副首都構想」を公約に選挙を戦い、松井一郎氏が大阪府知事に、吉村洋文氏が大阪市長に当選した。「副首都構想」を掲げながら、「都構想」の実現を図るということはいわば公然の秘密であるものの、「副首都構想」を掲げたことから、当選後に急遽その構想を練ることとなったのである。一方、大阪府・市においてはそれ以前から東京との乖離について問題しており、「副首都構想」の中には従前から検討されていた地域活性化策が数多く打ち出されることとなった。混乱した環境と言って、これ以上、混乱した環境はなかったものと言える。 また、Bryson et.alは、持続可能性は競合関係や制度環境における推進力と制約力の影響を受けることを指摘していた。「民都・大阪」フィランソロピー会議開始時から、「副首都推進局」 という大阪府と大阪市のいわば政策官房が一つとなった役所の持続可能性が不透明で混乱した環境にあり、この条件に該当していた 12) 。次の 選挙で大阪府知事または大阪市長のどちらかが大阪維新の会以外で当選すれば、雲散霧消しかねない役所の部局を事務局としていたのであり、持続可能性という意味においてこれほど脆弱な状況にはなかったのである。 「セクターの失敗」(=単一のセクターでは失敗。 Bryson et.alの用語)した後に協働関係形成が生まれる可能性が高い(Brandel1998; Weimer & Vining 2004)ということについても、該当していた。地方政府としての政府セクターの失敗として東京一極集中に歯止めがかからず対東京圏では毎年約1万人の人口流出が、生じていた。また、営利セクターの失敗としても、1970年を ピークに大阪は企業のシェアは一貫して減少していっている。こうした単独の「セクターの失敗」は明らかであり、セクター間協働が希求されていたのである。 Bryson et.alの理論では、セクター間協働には①強力なスポンサー②問題に対する一般的な合意(=リスクの共有化)3既存のネットワークの存在の一つ以上の連携メカニズムが必要とのことである( 図1 参照)が、準備会発足時どれも存在していなかった。本来、行政との協力関係においては行政が資金を提供することがほとんどであるが、前述した通り、「民都」を目指す以上、民間の力でという方針を大阪府・市側は立てており、他方で民間側は官主導のものではないかという疑いを払拭できずにいたため資金提供はなかった。そのため①の強力なスポンサーは現時点においても現れていない。また、スポンサーがいなくても、②の「問題に対する一般的な合意」すなわち「リスクの共有化」が行われれば、Bryson et.alの主張によれば、官民協力が成功しうると言っているが、この点については、「非営利セクターの結集がない」ということについては研究者である筆者の、他者に共有されていない考え方であり、簡単に共有できるものではなかった。③の「既存のネットワークの存在」にいたっては既存のネットワークが存在しないところをつなぎ合わせようとする運動であり、この点も初期には存在していなかった。 したがって、混乱状態にあったという点を除けば、Bryson et.alの主張するセクター間協働が成功する「初期条件」の一つも満たしていない状態でスタートし始めたのである。実際に準備会は大混乱に陥った。 そこで「民都・大阪」フィランソロピー会議の最初の目標を上記三要件のうちの②の「問題に対する一般的な合意」に絞って運営をせざるを得なかったのである。というのも、大阪では2025年に万国博覧会が予定され、財界は資金集めに傾注しており、行政も当初から予算ゼロを主張して、①のスポンサーを探すことは困難を極めた。③の「既存のネットワークの存在」は最終的なゴールであり、当初から実現できるものではなかった。したがって、②の「問題に対する一般的な合意」を目指すほか選択肢がな かったのである。 図1 Bryson et. alの協働のフレームワーク 出所:Bryson et.al(2006)筆者訳 V 理論を信じた先のコロナの追い風 非営利組織が法人格でばらばらであること、という問題意識の共有は合意形成が即座にできるものではなく、妥協の産物として、準備会を重ねる中で最終的に上記2の問題意識の共有を「東京一極集中の打破=二極のうちの一極」として、「東京一極集中に対するリスク」として合意形成がなされた。これだけでも、大きな進展であった。また、全員の合意形成はできなかったものの、「民都・大阪」フィランソロピー会議にご参加いただくメンバーの中には、政策の中に「非営利法人全体の声が反映されていない」という点に非常に賛同いただいたことも力強いサポートになった。 また、コロナもあったために、時間をかけ非常にゆっくりと、ただし着実に歩める方針を採用せざるを得なかったことも結果的にはプラスに働いた。 スピードは極めてゆっくりとしているが、揺るぎなく継続的に活動を展開することができたのである。 Huxham&Vangen(2005)がセクター間協働における「小さな勝利」を一緒に達成することの有効性を主張していたことも、背伸びをせずに着実に実績を積み上げていくことにつながったと思う。この間、メンバー間の激しい対立も顕著に起こった。しかし、Bryson et.alの主張はパートナーシップでは対立が一般的であるため、対立を効果的に管理する場合、協働が成功する可能性が高くなるという主張もあり、対立は当然のこととして放置した。その結果、メンバーの中でフェイドアウトする人はいたが、それを許容し、メンバーを形式上も辞めた方は政治的理由からわずかに1名のみにしか過ぎなかった。 予算がないことから、会議をオンラインで行おうとする動きは実はコロナ前から模索していた。コロナに突入して大阪府知事は2020年4月7日に緊急事態宣言を発令した。4月9日に予定されていた「民都・大阪」フィランソロピー会議は、ZOOMにより実施することとなった。しかし、大阪府・市ではオンライン会議の開催の前例がなく、最終的に、正式ではない形の会議として、したがって、同会議は議事録等の公式の記録には残っていないが、大阪府・市におけるオンライン会議の最初の事例となったのである 13) 。 それ以降の「民都・大阪」フィランソロピー会議は全てオンラインとなり、振り返ってみればDX時代(デジタル・トランフォーメーション) を先取りした形になっていた。 また、4月22日には吉村知事が、コロナに関連し休業要請に従った中小の事業者と個人の事業者に休業支援金を独自に支給すると記者会見で公表した 14) 。しかし、それにもかかわらずに、支援金対象となった事業者は当初は中小企業と個人事業者だけであり、非営利法人はすっぽりと抜けていたのである。この点こそまさにビジネスセントリズムであり、同会議議長として、副首都局を通じて対応を依頼し、追加的に非営利法人でも対象となった 15) 。「民都・大阪」フィランソロピー会議にとってはこの事象は屈辱的な対応ではあったが、逆に、ここにおいて大阪府・市事務局と「民都・大阪」フィランソロピー会議との間で、非営利セクターが一つのものとして見えていない問題に対する「一般的な合意」が明確に共有されたのであった。 つまり、コロナによって「民都・大阪」フィランソロピー会議はBryson et. alのいう初期条件の一つを満たすことができたのである。 Bryson et. alの主張は、①スポンサーの存在、②問題に対する「一般的な合意」③「既存のネットワークの存在」のうちいずれか一つがあることがセクター間協力の成功の要件と述べていることから、2020年になって初めて、理論的に成功についての光明を見出したのである。 そこからも遅々としたものではあるが、オンラインで公開の「フィランソロピー会議OSAKA」を毎年開催し、大阪の財団・社団の結集やセクター間協力を訴えて、ついに、大阪財団・社団連合会(会長堀井良殷)が誕生したのである。Huxham&Vangen(2005)のいう「小さな勝利」を重ねつつ、現在に至るまで、予算ゼロの中、7年間もこの組織が継続していったことは他の地域行政にとっても大きな意義があると信じてやまない。 (付記と謝辞)本稿は、非営利法人研究学会第27回全国大会の統一論題報告を加筆修正したものである。報告にあたっては大会委員長の初谷勇大阪商業大学教授に大変有益なコメントを頂戴した。また、7年間の活動は学術活動にも多くを依存しており、科学研究費補助金20K20280、22H00747なくしてはなしえなかった。ここに謝辞を述べたい。 [注] 1) 大阪財団・社団連合会の申し入れもあり、2023年9月からは公益法人理事長が1名委員として選任された。 2) 2023年5月1日筆者調べ。 3) 国民経済計算上は 「私立学校」、「政治団体」も対家計民間非営利団体に含まれるが、他の調査が国民経済計算推計に利用できるため、内閣府調査では対象外となっている。 4) 実際に、公益財団法人似鳥国際奨学財団、公益財団法人柳井正財団、公益財団法人孫正義育英財団など地方出身の新興富豪が続々と東京で財団設立している。 5) 大阪府市特別顧問、猪瀬直樹氏が2015年12月の大阪副首都推進本部初会合で「公益庁」を提唱したことを契機とする。当時、首都機能の一部移転について政府が提案を受け付けていたことに対して、大阪では特許庁の大阪移転を主張していたことに対して、猪瀬氏は複 数の非営利法人管轄の役所を統合した公益庁を新設し、大阪での設置を提唱。しかし、「公益庁」は中央省庁の再編に係わる国家レベルの課題であり、大阪府・市の議論として現実 的に落とし込むために、まず、「公益庁」に対応する民間非営利組織の活性化としての「民都」が提案された。同様の主張については出口(2013)を参照。 6) 筆者は有識者として議長に選任された。 7) なお、兼務とはいえ、大阪府・市職員の人件費等は投ぜられていたことになるので、ここでいう予算ゼロというのは事業費に相当するものである。 8) フィランソロピー都市宣言は以下の通りである。 世界では、寄附や投資等を通じた公益活動(フィランソロピー)が、社会的課題解決の第三の道として新たな時代の潮流となってお り、「フィランソロピーの黄金時代」を迎えたとさえ言われている。わが国においても、NPOや社会的企業など新たな公共の担い手の増加、CSR(企業の社会的責任)への関心が進む中、課題解決のための新しい鍵として、非営利セクターと政府との協働が注目されている。都市発展の歴史において民の力が大きな役割を果たしてきた大阪は、これまで民間公益活動の分野でも様々な先駆的な取組を生み出し実現してきた。こうした蓄積を活かし、この度、「民都」として大阪の民の力を最大 限に活かす都市をめざして、官民が協力し、非営利セクター関係者が法人格を越えて集う「民都・大阪」フィランソロピー会議を設置した。大阪は、この「民都・大阪」フィランソロピー会議を核として、府域全体におけ る地域活動も含めた民間公益活動の担い手が垣根を越えて集い、その多様性を活かしつつ繋がることで新たなアイデアや知恵を生み出すとともに、非営利セクターの活性化やソーシャルビジネスの拡大などを通じて、これまでになかった連携や協働を生み出していく。これにより、様々な分野において豊かで美しい大阪に向けて民が主体 となったソーシャル・イノベーションを創出する都市をめざす。そして、持続可能な開発目標(SDGs)の達成に貢献するとともに、世界のフィランソロピストの思いに寄り添う都市として、日本・世界中から第2の動脈(寄附、投資、人材、情報) が集まり、民間公益活動の担い手を育て・ 支えていくことでその活動を拡げ、社会的インパクトを次々と生み出し続ける都市をめざす。これらを通じて「フィランソロピーにおける国際的な拠点都市」の 実現をめざすことをここに宣言する。平成30年6月1日 「民都・大阪」フィランソロピー会議 9) 全国から4団体の応募があったが、一般財団法人民都大阪休眠預金等活用団体以外は全て 東京都千代田区を事務所とするものであった。 10) 2018年7月6日関西経済同友会池田代表幹事、12月5日関西経済連合会松本会長、12月 14日大阪商工会議所尾崎会頭との面談にて確認。 11) 当該論文については、本学会関西部会での東郷寛先生にご教示いただいた。 12) 副首都推進局は、大阪府と大阪市が共同で設置している組織(設置日 2016年4月1日)である。 13) 大阪府・市はその後オンライン会議を積極的に導入していったが、ソフトはマイクロソフトのTEAMSで行っている。 14) 2020年4月22日吉村府知事定例記者会見 https://youtu.be/6pAJdEpRPkc 2024年2月1日視聴 15) なおこの時当初、中小「企業」だけを対象として非営利法人が抜けていたのは大阪府だけではない。北海道、茨城県、東京都、神奈川県、愛知県、岐阜県、京都府、兵庫県等が非営利法人にも時間差はあるが対応を行った。大阪府はこれらと比べても、「民都・大阪」 フィランソロピー会議が存在していたにもかかわらずに対応は遅かった。 [引用文献] 大阪府[2018a]「民都・大阪」フィランソロピー 会議の開催状況第1回会議 資料2 https:// www.pref.osaka.lg.jp/attach/27077/00278675/1-2.pdf 2024年2月25日ダウンロード 大阪府[2018b]フィランソロピー都市宣言 https://www.pref.osaka.lg.jp/attach/27077/00404339/senngenn.pdf 2024年 2 月25 日ダウンロード ジリアン・テッド[2016]『サイロ・エフェク ト高度専門化社会の罠』土方奈美訳 文芸 春秋 ジリアン・テッド[2022]『Anthro Vison(アンソロ・ヴィジョン)人類学的思考で視るビジネスと世界』土方奈美訳 日本経済新聞出版局 出口正之[2013]「非営利セクターの課題と展望公益の認定の経験から」特集市民社会セクターと公益法人制度改革、市民活動総合情報誌『ウォロ』2013年12月号通巻490号 出口正之[2015a]公益法人制度の昭和改革と平成改革における組織転換の研究.非営利法人研究学会誌,17, 49-60頁。 出口正之[2015b]『制度統合の可能性と問題ガラパゴス化とグローバル化(市民社会セクターの可能性 110年ぶりの大改革の成果と課題)』関西学院大学出版会。 出口正之・藤井秀樹編[2021]『会計学と人類学のトランスフォーマティブ研究』清水弘文堂書店 東郷寛[2017]「公民パートナーシップ施行過程に関する研究の展開」2017年度第1回関西部会、非営利法人研究学会、2017年06月 内閣府社会経済研究所[2022] 「令和3年度民間非営利団体実態調査」 https://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/data/data_list/hieiri/files/r3/pdf/hieiri_kekka20230131.pdf 2023 年8月10日ダウンロード 吉田忠彦 [2004]NPO 中間支援組織の類型と課題.龍谷大学経営学論集,44(2), 104頁。 Brandl, J.,.[1998]Money and Good Intentions Are Not Enough; or, Why a Liberal Demo- crat Thinks States Need Both Competition and Community. 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- 第2回学会賞・学術奨励賞 | 公益社団法人 非営利法人研究学会
平成15年10月11日 非営利法人研究学会 審査委員長:守永誠治 公益法人研究学会学会賞・学術奨励賞審査委員会は、第2回学会賞(平成14年度全国大会の報告に基づく論文及び刊行著書)及び学術奨励賞(平成14年度全国大会の報告に基づく大学院生並びに若手研究者の論文)の候補作を慎重に審議した結果、今回は学会賞に該当する論文または刊行著書はなく、学術奨励賞として次の2つの論文を選定しましたので、ここに報告いたします。 1. 学会賞 該当者なし 2. 学術奨励賞 今枝千樹(京都大学大学院経済学研究科博士後期課程)「非営利組織の業績評価と会計情報拡張の必要性—SEA報告の適用をめぐる議論とその先駆的実施例の検討—」(平成14年度公益法人研究学会全国大会自由論題報告、於・京都大学、『公益法人研究学会誌』VOL.5掲載) 【受賞論文の内容と受賞理由】 非営利組織における業績評価の問題は、社会的関心の極めて高いトピックでありながら、そのリサーチが困難であるとする観点から、わが国ではこれまでに必ずしも十分な成果をみることができなかった。このような研究環境の中で、本論文は、アメリカでの議論と経験から生み出された成果を手掛かりとしながら、この問題に取り組もうとする意気込みがみられる。この点を最初に評価できる。 非営利組織は、その固有の使命の達成を目的として活動し、資源提供者はその使命の遂行に対する関心に基づいて非営利組織に資源を提供している。したがって、非営利組織の業績は基本的には、その使命をどのように達成したかというその達成度によって評価する必要がある。ところが、非営利組織の設立・運営に関する経験が最も豊富に蓄積されたアメリカにおいてさえ、現行の会計基準では、財務的業績情報の提供を要求するにとどまっている点に留意する必要がある。本論文は、幅広い関連文献の詳細な検討を通じて以上の問題点を明らかにすると同時に、非営利組織会計の制度的整備を図るためには、非営利組織における使命の達成度の評価に役立つ情報を含める方向で会計情報を拡張する必要があることを主張するに至っている。 政府機関は、その活動環境において交換関係(exchange relationship)を欠き、単一の利益指標で業績が測定できないなど、非営利組織と極めて類似した特徴を持つ。アメリカにおいては、そうした特徴を持つ政府機関の業績評価に役立つ情報を提供する手段としてSEA報告を導入することが政府会計基準審議会(GASB)によって提唱されている。本論文では、SEA報告の特徴を、GASB概念書を手掛かりとしながら明らかにしたうえで、非営利組織における会計情報拡張の具体策としてSEA報告の非営利組織への適用を提案し、当該提案の必要性と可能性を、アメリカの非営利組織におけるSEA報告の先駆的実施例の紹介と検討を交えつつ、論証を試みている。 本論文は、非営利組織における業績評価という取扱い難い問題を、関連文献と一次資料の丹念な分析・検討に基づいて論じたものであり、その論理構成と論旨は極めて明快である。本論文が、非営利組織研究における業績評価の問題点の集約と、今後の方向に道を備える貢献は、大であると言える。今後の成果を期待するに十分なものである。ただ、現段階では、アメリカにおける議論と経験に関する検討に、やや難無しとは言えない側面も散見されるが、さりとて本論文の学術的価値を損なうほどのものでもない。むしろ、本論文は、非営利組織の業績評価に対する問題の着眼点とそれに対するアプローチから判断して、学術奨励賞に値するに十分なものであるとの審査委員の一致した見解を得た。 以上の点から、本論文を学術奨励賞に選定した。 3. 学術奨励賞 江頭幸代(広島商船高等専門学校)「環境コストと撤去コスト—ダムのライフサイクル・コスティングを中心として—」(平成14年度公益法人研究学会全国大会自由論題報告、於・京都大学、『公益法人研究学会誌』VOL.5掲載) 【受賞論文の内容と受賞理由】 ライフサイクル・コスティングは、アメリカ国防総省による軍需品の購入コスト・運用コスト全体の最少化要請に対応するところから生まれた原価管理手法であり、近年では日本の防衛庁や国土交通省でも導入されている。トップレベルの営利組織では、開発・設計、調達・生産・物流、リサイクル・撤退といった製品ライフサイクルの中で、製品ライフサイクル・コストの把握と計算が実施されている。文献データベースを検索すれば、膨大な文献がみられるところである。しかし、寡聞ではあるが工学関係の文献も含めて、明確な定義に基づき一定の体系のもとにライフサイクル・コスティングを展開している研究は、比較的少ないようである。また、ライフサイクル・コストに含めるべきコストの範囲も明確ではない。 本論文の第1の特徴は、ライフサイクル・コスティングを製品一生涯のコストの見積計算であり、管理手法であると定義し、2つの製品ないしは事業のライフサイクルを明確に区分して展開していることである。すなわちとしては、ユーザーにおける製品(ないしは事業)の開発から生産ないしは販売、その後製品を市場から撤退させてサービスを終了する時点までのライフサイクルであり、としては、製品の販売からユーザーの手に移り、ユーザーが製品を廃棄するに至るライフサイクルである。この2つのライフサイクルを明確に区分することにより、使用コスト・維持コスト・撤退ないしは破棄コスト・環境コスト等の位置づけが異なってくる。ライフサイクルを2つに区分することは、本論文のすぐれた着想として評価できる。 本論文の第2の特徴は、のライフサイクルを前提にライフサイクル・コストの範囲、特に撤去コスト・環境コストを明確にしていることである。本論文の取り上げるダムの事例は、日本一の氾濫川を制御する国土交通省直轄鶴田ダムと日本初の撤去が決った熊本県営荒瀬ダム(50年の水利権期限切れ)である。鶴田ダムの事例から後背地完全緑化、湖水循環、ダム周辺観光地化、河口海水溯上による取水口付替等広範囲なコストを示している。また熊本県営荒瀬ダムからは、泥土撤去、コンクリート処理地、ダム撤去による環境変化対応コスト等を示している。 ライフサイクル・コスティングの本来の目的からしても、環境コスト・撤去または撤退コストを企画設計段階で考慮してコスト計算に組み込むべきであり、取り上げた事例は的確であると言えよう。従来のライフサイクル・コスティングに関する文献では、ライフサイクル・コスティングの概略ないしはそれによる管理方法の説明に終始し、データ作成のプロセスないしは具体的なコストの例示が少ない。できる限り事例を収集・検討して、そのコストの範囲を明確にし、その発生確率の研究に歩を進めなければならない段階にきている。ただ、本論文の範囲外ではあるが、企画設計段階でダムのコスト・ベネフィットを考慮するとして、その現在価値を計算するとき、50年ないしは100年といったタイムスパンでは、物価変動率と過去の平均利子率を利用できないのではないかと審査委員は判断した。著者の今後の研究に期待したい。 いずれにしても、2つのライフサイクルを区別してライフサイクル・コストの範囲を環境コスト・撤去ないしは撤退コストにまで拡大したライフサイクル・コスティングを展開する本論文は、研究の体系化、問題の着眼点、現代的意義(たとえば海外事業、撤退をあまり考慮しない体質を持つ非営利組織への適用)からみて学術奨励賞に十分値するとの審査委員の一致した見解を得た。 以上の点から本論文を学術奨励賞に選定した。 学会賞・学術奨励賞の審査結果 第2回学会賞・学術奨励賞の審査結果に関する報告
- 第5回大会記 | 公益社団法人 非営利法人研究学会
第5回大会記 2001.10.5-6 中央大学 統一論題 公益法人の社会的機能と責任 国士舘大学大学院 依田俊伸 2001年10月6日、午前9時50分から第5回公益法人研究学会全国大会が中央大学市ヶ谷キャンパスにおいて開催された。約100名の参加者を得て、活発な報告と討論が展開された。ちなみに本大会は、日本公認会計士協会によるCPE研修指定を受けた。 現在の大きな社会経済の構造改革の中にあって、公益法人に対しても、社会的責任を忘れたり効率を軽視しているものが少なくないとして改革が求められているという状況に鑑み、本大会の統一論題は、「公益法人の社会的機能と責任」と定められた。 自由論題報告は、3会場で行われた。第1会場〔司会:小宮 徹氏(公認会計士)〕では千葉正展氏(社会福祉・医療事業団)「介護利用型軽費老人ホーム等の経営診断指標について」、若林茂信氏(公認会計士)「公益法人会計基準の見直しに関する中間報告の問題点の検討」、第2会場〔司会:松倉達夫氏(ルーテル学院大学)〕では、吉田初恵氏(関西福祉科学大学)「介護保険の負担と給付について—自治体間格差の実証研究—」、立岡 浩氏(花園大学)「NPOとしての社会福祉法人の戦略・統治・リーダーシップ」、第3会場〔司会:佐藤俊夫氏(国士舘大学)〕では、梅津亮子氏(九州産業大学大学院)「病院看護サービスの原価測定—九州中規模病院のケーススタディを中心として—」、岡村勝義氏(神奈川大学)「公益法人情報開示の新展開—第三セクターに関連して—」の計6題の報告が行われ、それぞれ熱心な質疑応答が交わされた。 研究部会中間報告は、2会場で行われた。第1会場では、戸田博之氏(神戸学院大学)の司会のもと、西日本部会報告「非営利組織におけるマネジメントの多角的検討」の報告がなされた。第2会場では、杉山 学氏(青山学院大学)の司会のもと、東日本部会報告「わが国の公益法人会計に関する研究—社会福祉法人会計の現状と問題点—」の報告が行われた。 午後に入り、会員総会の後、興津裕康氏(近畿大学)の司会のもと、4氏による統一論題報告が行われた。報告者名、論題及びその要旨は次のとおりである。 論題1:公益法人の社会的役割と情報公開—会計情報を中心として— 亀岡保夫氏(公認会計士) 公益法人は、その活動を通じて社会福祉、学術、芸術等の分野における一定の社会的必要性を充足するという「社会的機能」を営んでいるものであり、その活動が、主として民間私人の創意工夫に基づき、かつ、社会の発展に絶えず寄与しているという点において存在意義を有している。 公益法人の本来の役割は、「不特定多数の者の利益」の実現にあるが、特に生命や生活という人間の根源的な営みに関する「不特定多数の者の利益」の実現への公益性の追求において公益法人は中核的な役割を果たしている。 そもそも公益法人(民法第34条に基づいて設立される法人)については、既に「公益法人の設立許可及び指導監督基準」により、特定の情報の公開が定められ、一定程度の公開が達成されている。しかし、今日の市場重視型の経済システムにおいては、財源の効率的、経済的利用が重要となり、それを判断する市場(国民、市民)に対してさらに一層の情報が提供されなければならない。公益法人がその事業の内容や活動の成果について、対外的に情報公開を行うことにより社会的に高い評価を得ていくことが、法人の事業の発展・存続のために必要である。情報公開において中心となるのは財務に関する情報である。さらに、公開される情報の信頼性を担保するために公認会計士等の監査が大変有効かつ効果的である。 以上を踏まえ、公益法人は、指導監督基準で定められているからではなく、自ら積極的に情報公開していくことが大切であり、また、監査についても、要請されるのではなく、自ら積極的に外部監査を導入していくことが望まれる。 論題2:公益法人への社会の期待—社会的機能と責任— 会田一雄氏(慶應義塾大学) 現在のわが国のように、ある程度社会が成熟し、しかも行財政改革を進めるに当たり、パブリックセクターのウエイトを軽減しなければならない環境下では、公益法人制度のあり方についてはもはや行政に委ねるのではなく、社会全体で議論すべき時期を迎えている。 公益法人の社会的機能を論じるに当たっては、まず組織の本質を解明しておく必要があり、本報告では、公益性と非営利性の意義を再確認し、社会が公益法人全体に対して何を求めているかを論じる。公益性とは、不特定多数の者の利益の実現であるが、これは法人の事業内容そのものの性格を表している。この点で、株式会社はその目的が富の最大化であるため、公益的な活動を行っていても公益性を云々されることはないが、反公益的活動を行う場合には指弾され排除される。非営利性とは、利益の獲得を目的とせず、利益を分配しないということである。したがって、非営利性においては支出の内容が十分に吟味されなければならず、特に、当該支出が資産か経費に該当するかという資産性の検討が重要となる。費用に該当する場合には、その適正性が要求される。 次に、法人が社会から付託された機能を果たすために、いかに社会との関係性を築き、また社会との接点を見出していくのかについてのアプローチを探る。公益法人が社会の期待に応える方法として、他の法人に対して税の支援措置や補助金といった優位性を持つとするとその優位性をどのように付与するかが問題になる。これには、アメリカ型とイギリス型があるが、どのような場合であれ、社会が期待するのは、民間主体であり、行政から独立した公益法人の存在である。公益法人が社会の期待に応えるためには、アカウンタビリティ(説明責任)を十分に果たす必要がある。そのためにはディスクロージャーが不可欠である。 ディスクロージャーの内容としては、組織目的・事業内容、財務内容が挙げられる。ディスクロージャーの方法にも様々なものが考えられるが、継続的かつタイムリーな情報公開が必要である。公益法人は社会全体により支えられると同時に社会の期待に応えるという責務を負っているのである。 論題3:公益法人・非営利組織の存在理由と活動環境 藤井秀樹氏(京都大学) 本報告は、財務会計論の立場から、非営利組織の存在理由とその活動環境について検討することを目的とするが、ここでいう「非営利組織」とは、公式に設立された組織であること、民間組織であること、利益分配をしないこと、組織内部で自主的に管理されていること、運営や管理にボランティアを含むこと、公共の利益に奉仕すること、という6つの特徴を備えた組織と定義する。 非営利組織の存在理由を大別すると、経済的機能に関わるものと、社会的価値に関わるものの2系統に分類できる。前者には市場の失敗、政府の失敗があり、後者には多元的価値と自由がある。そこで、上記2系統の存在理由の関係及び非営利組織に固有の存在理由は何かが問題となる。経済的機能に関わる存在理由は、非営利組織が経済社会において存在するための前提条件と言える。それに対して社会的価値に関わる存在理由こそ非営利組織に固有の存在理由である。というのは、社会的価値に関わる存在理由には上記の特徴が深く作用しているが、このうちのボランタリズムを不可欠の特徴とする組織は、非営利組織以外に見当たらないからである。 ここから、非営利組織における2つのパラドックス、すなわち「非市場性のパラドックス」(非営利組織は、その非市場的資源配分機能を市場経済の中で遂行せざるを得ない。)及び「非営利性のパラドックス」(非営利組織は、財務的基盤を自律的に確保しなければならない。)が発生する。ここにプロフェッショナリズムとボランタリズムとの両立が不可避の課題となる。 プロフェッショナリズムとボランタリズムとの両立を図るには、まずプロフェッショナリズムの向上が必要である。その環境整備のための方策として、会計学の観点から、資源調達制度の拡充とりわけ寄付の活性化と情報開示の強化を提案したい。この場合、会計は「修正された市場メカニズム」を期待どおりに機能させる情報システムとして活用されることになる。その意味で、非営利組織における会計の役割は今後ますます高まっていくものと思われる。 論題4:非営利事業の社会的機能と責任 堀田和宏氏(近畿大学) 非営利事業のあるべき経済社会的機能は、政府事業の限界の補完と営利企業の市場の失敗の補完にある。したがって、個別事業としての非営利事業は、政府機関とは異なる独自性・自立性ならびに効率性を発揮する経営と営利企業とは異なる有効性と信頼性に応える経営をするべき機能を持つ。 非営利事業の固有の責任とは、ミッションに信頼を寄せて集まる、それぞれのコンスティチューエンシー(寄付者・政府・購入者・ボランティア等)の信頼と期待に応えることである。そのためには、経営行動の意思決定の仕組みと事前計画・管理活動の過程(ガバナンス)に対する監視・評価方法と情報開示のあり方(アカウンタビリティ)を構築する必要がある。 しかし、非営利事業においては、営利企業が持つ基本的な責任メカニズムを持たないことから、モラルハザードの危険が大きい。そこで、委任を受けた寄付者/助成者への受託責任及びクライアント/利用者への社会公共的責任を遂行するためには、まずNPOガバナンスの再構築が必要である。 NPOガバナンスにおいては、寄付者・理事会と経営者の適正な役割分担という法的組織構造と現実の乖離の解決という問題及び外部との寄付/助成委託関係、内部の階層関係、非階層関係(ボランティア)にそれぞれガバナンスのあり方を再構築するためのガバナンスに参加させるネットワークの編成、監視・参加制度や社会勢力の監視活動の保証・促進という問題がある。ガバナンスにとって受託義務その他の義務履行責任と義務履行の説明責任はその基本的構成要素である。 最近のアカウンタビリティが求められる背景から、アカウンタビリティが多様化かつ複雑化している。さらにアカウンタビリティの内容が財務アカウンタビリティからプロセス監視・プログラム評価のアカウンタビリティへと拡大している。 以上から、単なる事後の説明責任ではなく、経営機関の行動と経営管理の監視(事前統制)、業績達成のモニタリング(経営管理プロセス・プログラムの監視・評価)、社会的責任の達成度を評価するメカニズムの構築、監視体制と社会的責任を問う具体的な制裁措置の構築、が必要とされる。 シンポジウムでは、大矢知浩司氏(九州産業大学)の司会のもと、上記4氏の報告を踏まえ、公益法人・非営利組織の固有の存在理由、公益法人におけるガバナンスのモラルハザード、ディスクロージャーの3つの観点から質疑応答が整理され、熱心な討論が行われた。質問者は以下のとおりである。 島田 恒氏(龍谷大学)、坂本倬志氏(神戸学院大学)、川崎貴嗣氏(公益情報サービス)、千葉正展氏(社会福祉・医療事業団)、吉田初恵氏(関西福祉科学大学)、吉田 寛氏(神戸商科大学)、杉山 学氏(青山学院大学)、永島公朗氏(公認会計士)、松葉邦敏氏(国士舘大学) シンポジウム終了後、6階2611号教室において懇親会が開催された。本学会会長守永誠治氏の挨拶があり、和やかな雰囲気のなか19時10分散会した。
- 第25回大会記 | 公益社団法人 非営利法人研究学会
第25回大会記 2021年9月25~26日 関西大学 統一論題 非営利法人の理念と制度 2021年(令和3年)9月25日(土)・26日(日)の日程で、非営利法人研究学会第25回全国大会が関西大学を主催校として開催された。統一論題は「非営利法人の理念と制度」であった。 第25回目を迎える本大会では、前年同様に新型コロナの異常事態の中での開催となり、すべての プログラムをライブ配信によるオンライン開催とした。こうした非常事態だからこそ、あえて非営 利組織の本質を考えることを目的に、統一論題のテーマを「非営利法人の理念と制度」と設定し、 それぞれ報告と討論会を行うこととした。 また、大会中は3名の統一論題報告、8名の自由論題報告、3つの分野別研究会及び受託研究報告が行われた。また、本大会の研究報告は2日間のプログラムとして編成し、あわせて、大会前日の9月24日(金) に常任理事会と理事会を開催し、25日(土)に社員総会と新理事会を開催した。 統一論題報告 趣旨・司会 柴 健次氏(関西大学) 本学会の過去の記録を振り返ると、法人種別のテーマが論じられ、あるいは会計基準が論じられるなど、時々の話題が取り上げられてきた。しかし、非営利組織の本質とは何かにつき論じる機会があっていいのではないかと思い、テーマを「非営利法人の理念と制度」にした。法学分野を代表して岡本仁宏 氏に、経営学分野を代表して小島廣光 氏に、会計学分野を代表して日野修造 氏にご登壇いただいた。形式的に3分野から出ていただいたというより、学問分野の異なる3分野間でのより良いコミュニケーションを図るきっかけを作ることも目的であった。 第1 報告 「非営利団体は、今、どこにいるのか:市民社会論の視角から」( 岡本仁宏氏・関西学院大学) 本報告では、世紀転換期非営利法人制度改革の次に来るべき21世紀非営利法人制度改革の課題を明らかにするために、非営利組織の歴史社会的な状況の市民社会論の視角からの確認が行われた。さらに、市民社会の実 証的把握と規範的把握の概要が示され、今、市民社会論から改革課題を位置づけることの意義が論じられた。最後に、IT革命の下での市民社会の変容に伴う可能性について言及し創造的適応の必要性が示唆された。 第2 報告 「非営利法人制度改革の研究―新・政策の窓モデルによる実証分析―」( 小島廣光氏・星城大学) 本報告は、わが国において長い間必要性が認識されながらも行われてこなかった非営利法人制度改革が、21世紀の初頭に「なぜ」そして「どのように」実現したのかを事例研究によって解明することが目的とされた。まず、新・政策の窓モデルにもとづいて、2つの事例(公益法人制度改革ならびにNPO法と寄付税制の改正)の詳細な年代記分析が行われた。次に、それぞれの事例の共通 点と相違点に関する発見事実を析出するとともに、政策形成の本質に関する命題が導出された。 第3 報告 「非営利法人会計における資本と収益の区別―アンソニーの提言を受けて―」( 日野修造氏・中村学園大学) 本報告は、資本と収益の区別問題を非営利組織会計の分野に適用し検討が行われた。まず、純資 産を拘束によって区分する純資産概念が主流であることを明らかにした上で、非営利組織会計にお いても純利益の測定が重要であり、資本と収益を区別した純資産の構造を主張するR.Nアンソニー の提言について検討が行われた。そして、アンソニーの提言を加味した非営利組織の純資産区分が 提案された。なお、報告では非営利組織が獲得した純利益は、サービス提供可能資源正味残高純増 額であることが明らかにされた。 自由論題報告 司会(第1・第2・第5・第6各報告) 中嶋貴子氏(大阪商業大学) 司会(第3・第4・第7・第8各報告) 初谷 勇氏(大阪商業大学) 第1 報告 「オーケストラ団体における活動財源の集中度と予測可能性に関する実証分析」( 武田紀仁氏・税理士、日本大学経済学研究科博士後期課程) 本報告では、文化芸術活動の主体となる非営利組織体が獲得する収入源の種類・性質・収入源の 集中度が非営利組織体の持続性に及ぼす影響を調べるため、オーケストラ団体のサンプルを用いた分析が行われた。その結果、収入源と持続性の関係を分析するうえでは、収入源の種類や集中度に加えて、設立経緯などに起因する団体の属性と収入源の予測可能性の関連性を考慮して分析を行うことの重要性が説明された。また、文化芸術活動の主体となる非営利組織体のうちオーケストラ団体では、団体の属性により収入構造に差異が存在し、団体の属性と関連性のある予測可能性が高い収入源に対して依存度が高いことがデータから示された。 第2 報告 「NPO支援組織と制度ロジック変化 ―アリスセンターのケース―」( 吉田忠彦氏・近畿大学) 本報告は、日本においてNPO支援組織がどのように発生し、どのようにひとつの制度として普及していったのか、そして組織はその制度とどのように向い合うのかを、そのパイオニアとされる アリスセンターをケースとして分析された。長期にわたる事業の変遷などの分析から、同組織は「市民運動」、「NPO」、「中間支援組織」などの複数の制度ロジックを使い分けながら事業を模索して いたと論じられた。 第3 報告 「クライシス下における信用保証協会の役割 ―中小企業支援に着目して―」( 櫛部幸子氏・鹿児島国際大学〈報告時〉、現在は大阪学院大学) 本報告は、信用保証協会がどのような非営利法人であるかを説明し、そのうえで、公的資金を基 礎とする信用保証協会にデフォルトが生じることの是非や、クライシス下においてどのような視点 をもとに保証判断をすべきなのか等を検討するものである。信用保証協会はクライシス下においても、事業の継続性が望める中小企業に対し信用保証をすべきであり、保証判断の際に、中小企業に更なる会計情報等の提出を求めることが重要であると指摘されている。 第4 報告 「公益法人をめぐるサードセクター論とビジネスセントリズム・ガバメントセントリズム」( 出口正之氏・国立民族学博物館) 公益法人制度改革・税制改革は、いずれも思想的には「政府でもない企業でもない原理を持ちう る第三セクターとしての非営利セクター」に対する期待から打ち出されたものであった。言い換え れば、民間公益セクターの行動原理の独自性の認識が前提であった。 ところが、民間公益セクターに対するこのような理念的積極論があるにもかかわらず、大企業に 対する規制等を適用しようとする「ビジネスセントリズム」、政府に対する規制等を適用しようとする「ガバメントセントリズム」によって、公益法人を律する規制が「効率的ではない」(ビジネ スのルール)、「公平ではない」(ガバメントのルール)といった不文律のルール適用が、大量の明文化された法規制の上に被され、公益法人側に守るべきルールの共有化が揺らぐアノミー現象が起 こりかねない状況が生じていることが明らかにされた。 第5 報告 「非営利組織における自己組織性の実証的研究~公益法人を対象とした調査に基づいて~」( 吉永光利氏・公益財団法人倉敷市スポーツ振興協会・岡山大学大学院) 本報告は、非営利組織における自己組織性(組織が自己決定・自律的に組織変革を図る特性)に ついて、実証主義に基づいた定量的・定性的方法による諸調査の分析結果と考察を提示するものである。具体的な調査では、主に中国地方に所在する公益法人を対象(361法人)とし、アンケート 調査(119法人から回答)とインタビュー調査(17法人に実施)が行われた。そして、これらの調査から得られたデータを基に非営利組織における自己組織性の実態について論じられている。 第6 報告 「活動領域特化型中間支援組織における支援内容の変化と機能の移管―総合型地域スポーツクラブ の事例分析―」( 伊藤 葵氏・富山国際大学) 本報告は、多様な主体が連携したサービスを提供が求められる公共圏における中間支援組織の役割に着目し、総合型地域スポーツクラブを事例とし、組織の成長に応じた支援内容と支援の担い手の変化が分析された。組織の成長過程では、支援の担い手は公的な機関から民間へと移行すること、 支援内容は組織間のコーディネーションが重視されていくことが示された。また、支援対象組織へ の支援機能の移管や複数の組織での支援機能の分担についても指摘されている。 第7 報告 「地方自治体における内部統制と公務員倫理」( 井寺美穂氏・熊本県立大学) 本報告は、地方自治体において「公務員倫理」や「内部統制」、「リスク管理」などの名称で類似の取組みが行われていることに着目した上で、近年、制度化が行われた内部統制に係る取組みと公務員倫理を確保するための各種取組みの目的や実施内容等を比較考察しながら、それらの相違や共通性等を検討されたものである。その上で、地方自治体はその団体の規模に応じて、取組みに格差がみられ、今後、特に小規模団体の取組みが重要になるのではないかと指摘されている。 第8 報告 「非営利組織の国際会計基準プロジェクトと日本への示唆」( 金子良太氏・國學院大學) 報告の最初に、非営利組織の会計の国際的枠組みを形成することを目標とするIFR4NPOプロジェ クトの概要が述べられた。本報告では、プロジェクトにより策定される非営利組織会計の目的、非営利組織に特有の会計の課題に加えて、IFR4NPOに資金を拠出したり策定プロジェクトにかかわる個人や団体等に着目し、わが国への示唆が示された。 分野別委員会報告 司会:吉田忠彦氏(近畿大学) 「NPO法人研究会」報告 出口正之 氏(国立民族学博物館) この1年の間(2020年10月から2021年9月)の間に、NPO法人にとって極めて重要な報告書が二点出ている。一点は新時代に合わせた報告であり、「NPO法人会計基準策定10周年記念行事 ~歴史秘話 基準誕生の頃の話を聴く夕べ~」と題され、ZOOMによるNPO法人会計基準10周年の会議記録と関係資料・動画が公表されている。 また、もう一つは、特定非営利活動法人NPO会計税務専門家ネットワーク福祉サービスに関する法人税課税問題検討委員会『福祉サービスに関する法人税課税問題研究報告書』(委員長岩永清滋 氏)である。収益事業課税は政策の中でたびたび論じされている一方、収益事業課税とは何かに ついて十分に検討されていた研究書はこれまでほとんどなかったものと言える。本報告書は歴史、 税法、関連法規、判例等に十分に目配りして現行の収益事業課税の問題点を詳細に検討されている。 NPO法人部会としてもこれらのNPO法人を巡る大きな出来事に対して、学会各方面の学術的関 心を喚起するために江田 寛 氏、岩永清滋 氏を招いて検討がなされ、いずれも学術的に非営利の会計や税制を議論するうえで欠くことのできないものとなっていることが確認された。 「医療・福祉系法人研究会」報告 ( 千葉正展氏・独立行政法人福祉医療機構) 医療・福祉系法人研究会は、現在の福祉・医療に係る制度・政策の流れのなかで、「地域包括ケア」、 「地域共生社会」など地域における様々な社会資源と医療法人、社会福祉法人等との関係性が重要なテーマになるとの認識の下、これまでの部会の活動においては「地域医療連携推進法人制度」や 「地域との連携を進めている名古屋の南医療生協の視察」など研究活動が進められてきた。そうした流れの中で国においては、令和2年に社会福祉法が改正され新たに「社会福祉連携推進法人制度」 (以下「福祉連携法人制度」)がスタートすることとなった。 以上を踏まえ、福祉連携法人制度検討の背景、社会福祉法人の事業展開等に関する検討会での主な議論と論点、改正社会福祉法における福祉連携法人制度の規定内容等が紹介されるとともに、本学会会員の何名かが別途参画した厚生労働省の「社会福祉法人会計基準等検討会」における社会福 祉連携推進法人会計基準の検討状況とそこでの検討の論点などについても報告され、医療・福祉系 法人における今後の展開や課題等について考察がなされた。 「大学等学校法人研究会」報告( 古庄 修氏・日本大学) 大学等学校法人研究部会は、広く「大学のガバナンスとアカウンタビリティ」を主題として、学 校法人の経営と会計をめぐる理論・実務・政策に係る諸提言の総合化を目指して、最終報告が行わ れた。最終報告書として、①「大学法人の会計―非営利法人会計の議論に資するための考察―」(柴 健次)、②「学校法人における固定資産と学校法人会計基準との関わりについて―特に社会科学系統 の学部を有する四年制大学に関心を寄せて―」(林 兵磨)、③「私立大学版ガバナンス・コードの 意義と課題」(古庄 修)、④「大規模私立大学ガバナンスの構築(試論)」(堀田和宏)の各論稿の 概要が報告された。 今後、本部会の活動は、柴 健次部会長の下で委員を再構成し、継続することになるとの報告があった。 受託研究報告 司会:齋藤真哉氏(横浜国立大学) 「非営利法人の会計に関わる試験に関する研究( 座長 成川正晃氏・東京経済大学) 本研究報告は、受託研究として組織された「非営利法人の会計に関わる試験に関する研究会」の研究報告である。非営利組織の活動を捕捉し財務情報として開示、利用されることにより社会全体に非営利組織に対する理解が普及していくという観点から、非営利組織の会計処理を対象とした検定試験の社会への貢献度合いを把握し、今後の発展は可能かを調査・研究することを目的として設置された。 当日は、本研究会の各研究担当者から検定試験の概要の調査について報告するとともに、公益会計法人検定試験では、資格の有効性を分析し、組織における資格の効用および利活用の可能性を、 社会福祉会計簿記認定試験では人的資本論とシグナリング理論を用いた効果に関する検討を示し、 その後質疑が行われた。 御礼 非営利法人研究学会第25回大会は対面形式での開催が叶わず、第24回に引き続いてリモート(ライブ配信)開催となりました。長引くコロナ禍の社会的影響は大きく、諸学会もまた新しいスタイルを模索しているようです。本学会もそうでした。 今大会は関西大学主催ですが、大阪商業大学からも応援いただきました。両大学から成る準備委 員会は統一論題と同じくらい自由論題を重視する方針で合意に達しました。学会員への問題提起をしていただく統一論題、そして学会員の研究発表の場となる自由論題を等しく重視したのです。その方針に対応して、準備委員会の仕事を、①自由論題運営、②統一論題運営、③大会運営と大きく 分け、3分野が自律的に運営されました。こうしたことはコロナ禍であったからこそできたのかもしれません。複数の大学による合同開催の可能性を探れたのかもしれません。 当学会では元々全国大会の自由論題を重視しています。地域部会長の承認を得て、全国大会へエ ントリーするという仕組みそのものが自由論題重視の姿勢だと思っております。各地域部会長に努力していただき8本のエントリーが実現しました。 統一論題は掲げた統一テーマは重要であります。その上で、法律、経営、会計等の研究者が相互 理解可能な状況を作りたいと報告者に無理なお願いもしました。ご登壇いただいた3先生には無理も聞いていただき、話題の共有に努力いただきました。 常設の分野別委員会と受託研究についてはそれぞれご報告いただきました。これらは中間報告な り最終報告をすることが会員への義務であると位置づけられていることから、すべての委員会にご 報告いただきました。 以上で報告は15本になりました。その報告を準備委員会委員が、企画者、座長、司会者としてかかわっておりますので、本大会記も準備委員会で作成できたかもしれません。しかし、そうするこ とは大会記に主観的な評価を持ち込むことになりかねません。そこで、ご報告者15名全員に報告要 旨の提供をお願いしました。準備委員会が多少表現の統一性を求める修正をしたこと以外は、報告 者による要旨を大会記の素材として利用させていただきました。 以上を踏まえ、ここに大会記を示すことができました。大会における報告者、司会者、各報告へ の参加者・質問者ほかすべての関係者に御礼申し上げます。 2022年5月12日 非営利法人研究学会第24回全国大会準備委員会 準備委員長 柴 健次(関西大学) 委員 橋本 理(関西大学) 馬場英朗(関西大学) 初谷 勇(大阪商業大学) 中嶋貴子(大阪商業大学)